ワンクリック詐欺の手口じゃねーか?
「ふ……ふざけるなふざけるなふざけるなーっ! 他人のPCを勝手に操作するなんて、犯罪行為以外の何ものでもねーからなっ! そっちにはハッカーでもいるってのか!?」
拓也はマイクに向かって一気に叫びまくった。
それは怒りの感情の発露というよりも、何か得体の知れないものに対する怯えの感情に近いものだった。
少し間を置いて、落ち着いた声が返ってくる。
『ここには犯罪行為などしようとする者などいません……』
また少し間があって、
『わたくしの監督下にあって、不法行為など一切やらせませんのでご安心ください。そもそもPCの所有者の合意があれば何も問題ありませんわ』
沙羅はきっぱりと言い切った。
『あなたはただ、うちの部員が今から送るURLアドレスをクリックしていただければ……』
「思いっきり怪しすぎるだろーっ! それはワンクリック詐欺のやり口だろ-がっ!」
拓也は地団駄を踏みながら叫んだ。
気付けば会話は完全に相手にペースを握られている。
チャット回線を開けると同時に拓也が言い放った『泣いて土下座するなら上着だけで勘弁してやる――』の意味不明なセリフから、拓也がどんな妄想をしていたかを瞬時に理解していた。
東雲沙羅という人物は、コミュ力0の彼などが太刀打ちできる相手ではないのだ。
エナジードリンクを飲みながら、自分のPCがリモート操作されている様子を、ぶつぶつ言いながら眺めている。
さながら籠城に失敗し、やむなく敵に城を明け渡すことになった戦国武将の気分だ。
モニターには見たことのない設定画面が映っていて、その中のプログラム言語のようなものが次々と書き換えられていく。
「おいおい、マジかよ……」
操作しているのは伊勢木大牙という部員らしいが、相当に『ブートキャンプ・OSG』のことを熟知しているに違いないと拓也は確信した。
「なあ、このイセキって奴は、ゲームの腕はどのくらいだ? 結構良いランクなんだろ?」
『もちろんですわ。おそらくわたくしよりもずっと上手い……はずですわ?』
「いやいやいやなぜそこで語尾が上がる!? そしてあんたと比べてどうする? 俺はゲームのランクや公式大会での実績を訊けって言っているんだよ!」
『あら、そうですの? ちょっとお待ちになって……』
ボソボソと話し声が聞こえるが、プログラムが書き換えられる速度は落ちることはない。
『大会などは出たことはないそうですわ。何しろ彼はプライベートではPCを触ることを一切禁じていますの』
「はあーっ!? ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなーっ! 一瞬たりとも期待した俺がバカだったぜーっ! ゲホゲホゲホッ……」
一気にまくし立てたので息が続かなくなった。ここ数週間、一度も家を出ずに閉じこもっていたことにより、体力はもとより心肺機能も低下中である。
『ゲームは妹さんと『カラバト』で遊んでいる程度だと言っていますわ』
「それ、ゲーム専用機のタイトルじゃねーかよ! しかもカラバトかよっ! ……まあ、俺もたまに遊んでるけどさ……ちょっと面白い奴を見つけてな。おそらく親子でアカウントを共有している奴なんだけど……」
拓也が一人語りを始めたとき、モニターの中では設定画面が閉じられ暗転した。
『ターン5』の文字が表示される。
「あいつ本当にやりやがった。ゲームの途中からプレイヤーの構成を変えることなんかできたのか……」
リスポーン部屋にある5つの転送装置のうち2つから青白い光が放たれ、2体のキャラクターが出現した。
1体は拓也が操作する双眼のゴーグルをかけた筋骨隆々のキャラクター。
もう1体は頭にベルトを巻いた長身の軍服姿の男。こちらがコンピュータが操作するキャラクターとなる。
「はんっ。どーせ最弱のパラメータに設定済みなんだろ? べつにそのぐらのハンデはやってもいいけどよ……」
一応、軍服男のパラメーターを開いてみる。
「はあーっ!? どの項目もエキスパートランクになってんじゃん! あいつバカじゃねーのか?」
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