それはただのスナップ写真では?
孤高の天才ゲーマー、拓哉はコミュ力0の男である。
相手の顔が見えない状況では高慢で威圧的な口をたたくけれど、面と向かってでは会話もままならなくなってしまうのだ。
しかも相手が美少女ともなると、緊張を通り越して生命の危険すら感じるほどになる。
『あら? ずいぶん苦しそうな息遣いが聞こえてきましたけれど、どこか具合が悪くなりましたか? 大丈夫でしょうか?』
そう言いながら、沙羅がカメラに目を近づける。ぱっちりと開かれた瞳のどアップを見た拓也は、思わず身体を仰け反らせた。
こちらのカメラはOFFになっているので、自分の姿が向こうに見られてはいないことが救いだった。
「いい、い、いや何も問題ない! お、俺はどこも具合は悪くからっ」
『本当ですか? 声もたどたどしく聞こえますが、決して無理なさらないでくださいね?』
「お、俺は無理なんかしていないっ! そ、そういうあんたこそ無理しないほーがいいんじゃねーかっ? 勝敗はもう決しているようなもんだから、いーかげん諦めて俺から手を引けよっ!」
『ですが……わたくしが負けを認めてしまいましたら、
そう言いながら、沙羅は胸を抱きかかえ身悶えるような仕草で身体をくねらせる。
拓也はイスから転げ落ちた。
「な、何なんだあの女は……!? ぱっと見、どこぞのお嬢様というような外見をしてんのに、意外とビッチなのか!? それとも俺が童貞と思ってバカにしてんのか? いや、ま……そのとーりなんだけどよ! けっ、バカにしやがって!」
耳からヘッドセットが外れ、腰を床にぶつけたことよって、逆に落ち着きを取り戻した彼は、すっくと立ち上がる。
道具箱から粘着テープを取り出し、手でベリッとちぎり、それをモニターにペタッと貼り付けた。
沙羅の顔を覆い隠すように。
そしてもう安心とばかりに、ニヤリと口の端を上げた。
そんなことをせずともウインドウを画面外に隠してやればこと済むことなのだが、それに気付くのはもう少し後のことである。
すまし顔でヘッドセットを耳に当てて、スーッと息を吸う。
「はっはーっ、そのとーり! 今さらあんたが泣いても許してやんねーけどな。だが俺も鬼ではない。もし今後一切俺に関わらねーと約束するなら、『何でもする』という約束はやんわりと合法的な要求で済ませてやるぜ~?」
『上着を脱いだ写真を送ればいいのですわね?』
「ぶはっ」
予想外の返答に拓也は吹き出した。
『ですが……それではただのブレザー姿のスナップ写真ですわ。そんなもので本当によろしいのでしょうか? たとえばこう……胸元を強調するようなポーズを指定なさらなくても?』
たとえ沙羅がどんなに扇情的なポーズを見せつけてこようとも、粘着テープで隠れて映像は見えない。
だが、拓也の顔はなぜか真っ赤になっていた。
「ポ、ポーズはそっちに任せるからっ! ど、どんな画像が送られてくるか楽しみにしてるぜっ! じゃ、じゃあ、最終ステージを始めるぜっ!」
拓也は一方的に通話終了をクリックしようとした。
『お待ちになって! まだこちらの用件が済んでいませんの!』
「くっ……本当に面倒くせー女だなっ、早く用件とやらを言えよ」
『プレイヤーを1名追加したいのですわ。たった今、新入部員が入ったものですから』
「ふ、ふざけるな! 今からそんなことできっこねーだろ? いくらこのゲームがFPS練習用に特化されたものだとしても、プレイヤーの人数を途中で変更する機能なんか備わっていねーから」
『それができるのですわ。うちの部員ならば……』
「仮にそんな方法があるとしても、マスターである俺がPCを操作しなければならないんだろ? いちいちそいつの指示を聞きながら操作するなんてまっぴらごめんだぜ!」
『それも必要ないと……うちの部員は言っていますわ。如月はただ……ことが済むまで天井のシミでも数えていればいい……と言っていますわ?』
「はあー? なんだそれはー?」
拓也は今日一番の大声を上げた。
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