泣いていると思ったの?
時刻は17時45分。
日没にはまだ早いが、カーテンを締めきり照明をつけていない部屋はすでに暗闇が広がっている。
そんな中、部屋の隅でモニターに照らされた如月拓哉の薄ら笑いの顔が不気味に青白く浮かんでいた。
「今度こそ爆弾を解除できると思ったろうなあ~、残念だったなあ~、くっくっく……あの女、自分がもて遊ばれてるってのにも気付いていねーだろ?」
アタッシュケースの直前で力尽きて倒れた女兵士
『You Win!』の文字ともにヘッドセットからは軽快な音楽が流れている。
「あの女~、勝手に俺の家に上がり込んで、一方的に俺を挑発しやがってよ~」
モニターは暗転し、『ターン5』の文字が表示される。
「けっ、次で終わりかよ! どうせなら勝利条件を5勝じゃなくて10勝にしておけばよかったなあー! まだまだイジメ足りねーぜ!」
拓哉はペットボトルのコーラを直飲みして、空になった容器をポイッと放り投げると、ゴミ箱の縁に当たり音をたてて床に転がった。
拓哉は舌打ちをし、モニターに視線を戻した。
「なんにしても今ごろ泣いてんじゃねーか、あの女? なんせ負けたら何でもするって約束したからなあー、くっくっ……」
そこまで饒舌にひとり言をつぶやいていた拓哉だったが、ふと我に返ったようにアゴを上げた。
「で、何をやらせれば良い? さすがに何でもするといっても限度ってもんがあるだろ? どうせなら犯罪にならないギリギリのことを要求して、あの女を泣かせてやりたいところだが……」
腕組みをして考え込む。
「下着姿の画像を今すぐ送れとでもいえば、もう二度と俺に接触してこないだろうか? だが待て……ブスの下着姿なんか俺は見たくもねーし? まだあの女の顔を見たことはねーが、どうせブスに決まっている。……まあ、ブスに限ってガードが硬いっていうし、なんだかんだと屁理屈をこねて逃げるか……」
もうすぐターン5が始まる。そしてこれが事実上のファイナルステージとなるのである。
ゴクリと生唾を飲み込み、マウスに手を伸ばすと、指先が震えているのに気付いて苦笑する。
「おいおい、俺としたことが何を緊張しているんだ? ゲームの大会でも緊張とは無縁だったこの俺が……」
何とか心を落ち着けようと深呼吸をして、フーッと息を吐いてから再びマウスに手を伸ばす。
――ピコーン!!
「どひゃ~!?」
突然の音に驚いて両手を突き上げて変な叫び声を上げてしまう。
誰も見ていないというのに、急に恥ずかしくなり赤面する。
モニターにはボイスチャット回線を要求するアイコンが表示されていた。
通常のゲームでは同じチームのプレイヤー同士のみが会話できるのだが、この『ブートキャンプ・OSG』の練習モードでは対戦相手とも会話できる仕組みになっている。
「このタイミングでボイチャか? はーん、さては負けを確信してこの期に及んで謝って許してもらおうという
拓哉は鼻からすーっと息を吸って、ボイスチャット通話のアイコンをクリックする。そして指先でマイクを口に近づけて叫ぶ。
「いまさら謝っても無駄だと言いたいところだが 泣いて土下座するなら上着だけで勘弁してやるが――ああっ!?」
思わず語尾が裏返ってしまった。
モニターの右端に表示されたミニウインドウに、縦ロール髪の女子の顔が映し出されたからだ。
一言でいえば美少女。
日本人離れした高い鼻にぱっちりとした目。
アイドルと言われれば誰もが信じてしまうほどの美少女と目が合ってしまっていた。
(ボイチャかと思ったら映像付きかよ!)
慌てて伸ばし放題の乱れた髪に手を当てたが、拓哉のPCにはカメラを接続していないことを思い出してホッと一息をつく。
『上着だけで勘弁してやるですって? それはどういう意味……ですの?』
画面の女はキョトンとして首を傾げる。
「あっ……いや……な、何でもない……」
拓哉はしどろもどろでそう答えた。
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