無理ゲーって言葉を知ってるか?
翌朝、大牙はいつもより早く家を出て、学校の最寄り駅で志乃原と丸山の二人を待った。そして何とか昨日の誤解を解くことに成功した。大牙は二人には見えない向きで小さくガッツポーズした。
義母に言ってしまった『友達ができた』という言葉が嘘ではなくなった。本日最大のミッションがクリアしたのである。
それから三人は当たり障りのない会話をし、学校へ着く頃にはサブカルチャー談義ですっかり意気投合したのだが。
教室のドアを開けると、東雲沙羅が待ち構えていた。
「伊勢木おはよう。わたしくと付き合いなさい」
大牙は思わず仰け反った。口から心臓が飛び出しそうだった。
丸山は大牙を睨み付け、志乃原はもう何も信じられないという表情で大牙に視線を送った。
「お、おま……いきなり何を……あ、ちょ、待ってくれ……」
大牙の制止を振りほどき、二人は沙羅の両脇を通って無言のまま席につく。
そんな二人の様子を沙羅は顔色一つ変えずに見送ってから、くるっと大牙に顔を向けた。
「間違えましたわ。放課後、電脳室に付き合いなさい」
「おまえ、わざとだろ!?」
「あら、何のことかしら?」
とぼける沙羅の肩越しに、丸山と志乃原が恨めしそうな顔を向けているのが見えている。
大牙は大きくため息を吐く。
「俺はPCには触らない。だからeスポーツもやらない。一高の生徒としてお前を応援することは構わないが、部活に入る気はないと言ったはずだが?」
「逸材を見つけたのですよ、逸材! プロフィールを聞けば、きっと伊勢木も気に入りますわ!」
「俺の気持ちは
「…………」
「な、何だよ……」
沙羅があごに指を当て無言でジィーと見つめ返してきたので、大牙は慌てた。
「少々お待になって頂戴」
大牙にペコリとお辞儀して、沙羅は丸山と志乃原の元へと歩み寄っていく。
それから彼らと一言三言会話を交わし、すぐにくるっときびすを返して戻ってきた。
「伊勢木が加入すれば、あの二人もeスポ部に入るそうですわ。
片言の外国人のようにおどけた調子で言って、ピッと親指を立ててウインクした。
「はあーっ!? マジかよ? 俺たちの
丸山と志乃原の二人に声をかけるも、どちらも大牙と目を合わせようとしなかった。
「三国志ネタですわね? それが分かるのでしたらわたくしの意図もお分かりですわね、伊勢木?」
「俺への部活勧誘がこれで三度目ということか? 誤用も甚だしいな!」
「ですが伊勢木はeスポ部に入ることで二人のお友達をゲットできるのですよ? 桃園の誓いといえども時と場合によっては破る必要もあるものですわ。かの諸葛孔明もそう申しております」
「嘘をつくな! 俺はそんな話、聞いたことがないぞ!」
「はあ、これだからニワカオタクは……」
「お前、全国の三国志オタクに謝れ! その前にまず俺に謝れ!」
そこまで言って、大牙はハッとした。大半のクラスメートが教室にいて、自分たちを遠巻きにして見ていたのだ。
しかし沙羅はそれを少しも気にしていないらしい。
「では、改めて勧誘対象のプロフィールを紹介しますわ。聞く準備はよろしくて?」
そう言って、沙羅はメガネを胸ポケットから慣れた手つきで取り出しスッと鼻にかけた。
「くっ、勝手にしろ!」
大牙はヤケクソ気味に答えた。
「
「きさらぎ? また随分珍しい名字だな。おまけに引きこもりかよ!」
「そんな彼の身を案じたわたくしは、昨日の放課後自宅に突撃しました」
「家に訪問したのか? お前、行動力あり過ぎだろ!」
「しかし本人との対面は
「そりゃそうだろうよ」
大牙は呆れた。
「でも、ゲームの中でなら話しても良いということになりまして、ならばゲームで対戦してわたくしが勝てば、eスポ部に入るという契約をとりつけて来ましたの」
大牙の心臓が跳ねた。
「おまえ、俺に何をさせるつもりだ?」
「電脳室のPCをハッキング……なんて冗談ですよ? 管理者権限のIDとパスワードは正規ルートで入手済みです。伊勢木はただ、初めてゲームというものに挑戦するわたくしに勝ち方を教えてくだされば良いのです!」
沙羅は人差し指をピッと立てウインクした。
「
大牙がため息交じりにそう言うと、沙羅は微笑みながら首を傾げた。
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