初めての友達ゲットした?

 帰りのSHRショートホームルームが終わり、帰り支度をしている大牙のところに、鞄を持った二人の男子生徒がやってきた。


「あのぅー、伊勢木くん? よかったらボクらと一緒に駅まで帰らない? 三人でゲームの話をしようよ」


 か細い声でそう言ったのは志乃原しのはられい。中性的な雰囲気のある顔立ちをしている。肩まで伸ばしたストレートな髪がキラキラと輝いている。


「わ、我らは決して怪しい者ではござらぬぞっ、純粋にゲームをこよなく愛する同士っ、仲良くしようとしているまでだっ。ど、どうであろうかっ?」


 小刻みに息を吐きながら言ったのは丸山太司たいし。フーッと息を吐いて、メガネを上げて顔の汗をハンカチで拭いている。


「お、おう……いいけど……?」


 大牙は遠慮がちに頷くが、その表情は明るい。沙羅からeスポ部への勧誘を受けていたときとはまるで違っていた。


「伊勢木君はえらいねー。ちゃんと正直にゲームが趣味ですなんて言えて。ボクなんか趣味は読書ですって逃げちゃったもん」


 階段で1階に降り立ったところで、志乃原が笑顔で振り向いた。さらさらヘアーがふわりと肩に落ちる。

 彼はサイコロを振って服やアクセサリーを集めて好みのキャラクターを育てていくスマホゲームにハマっているらしい。


「そうですゾ大牙氏っ! 我が国のサブカルチャーが世界的に認められているとはいえ、オタクは迫害される危険が常に伴うのですゾっ! 言動には気をつけなければなりませぬゾっ!」


 丸山は大牙とまだ知り合ったばかりというのに、いつの間にか距離を詰め熱く語り始めた。

 そんな彼は美少女を攻略するゲーム、いわゆる恋愛シミュレーションゲームにハマっているらしい。

 

 ゲームが好きとはいえ、三人の趣味の方向性が全く異なることに大牙は気付いた。

 だが、それで良いと思った。


 (俺にとっては好都合だ!)


 何はともあれ、二人の友達をゲットした。

 大牙は小さくガッツポーズをした。


「えっ?」

「おうっ?」


 志乃原と丸山が驚嘆の声をあげた。

 大牙は一瞬ギクッとしたが、二人の視線が昇降口の外に向いていたので安堵のため息を吐いた。

 

 玄関から正門まで、お祭り騒ぎのような部活動の勧誘合戦が繰り広げられていたのだ。


「どうするっ大牙氏?」

「これは正面突破だろ!」

「うふふ、だよねー」

 

 即断即決だった。

 帰宅部希望の三人にとって、部活動の勧誘ほど無駄と思える時間はないのだ。

 上級生による声かけをガン無視し、志乃原、大牙、丸山の順番で隊列を組み、正門へ向けて走り出す。

 しかし道半ばで大牙の足が止まった。


 色とりどりのユニフォーム姿の上級生の列に混じり、一人制服でビラ配りをしている1年女子を見つけてしまったのだ。


「伊勢木ーっ、こちらですわー」


 アイドルのような華やかさをまき散らし、沙羅が満面の笑みを浮かべて手を振っていた。

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