第446話 改変と操作
新しく覚えた〈
で、この範囲の定義なのだが、実はダンジョンのなか限定と言う訳ではない。と言うのも〈
即ち、ダンジョンの魔力の影響を受けているものであれば、それはスキルの効果対象となる。そのため、さすがに島全域とはいかないが、ダンジョンのゲートから数キロ程度の近い距離であれば――
「――
こんなことも可能と言う訳だ。
地形を〈操作〉することで地面を隆起させ、ダンジョンを囲むように壁を出現させる。それも一つじゃ無い。バームクーヘンのように幾つもの層に分けて、壁を隆起させていく。
すっぽりとダンジョンを土壁で囲ったところで――
「
壁の強度を補強するため、魔鋼へと〈改変〉する。
これが〈
しかし、このスキルのバカげたところはダンジョンの魔力があれば、他になにも必要としない。石ころを金に変えることも、その気になればミリスリやオリハルコンを錬成することも可能だった。
と言っても、〈改変〉には魔力を消費する。俺自身の魔力ではなくダンジョンの魔力をだ。だから無限に幾らでも稀少な素材を生み出せると言う訳ではない。しかし、ゲート周辺の大地にはダンジョンの魔力がしみ込んでいる。これを利用すれば、土壁を魔鋼に〈改変〉するくらいのことは簡単だった。
そして、
「
再び〈操作〉を使い、街の建造物を先程作った壁の外側へと転移させる。
これが、俺の考えた秘策だった。
ようするに街を壁で囲うのではなく、ダンジョンを壁で覆うことでモンスターの流れをコントロールしてしまおうと考えた訳だ。
壁を幾つもの層に分けたのはそれが理由で、壁の内側でモンスターを迎撃しきれなかった時のことを考え、いざとなれば街の反対側にモンスターを誘導できるように通り道を用意した。
主戦場を島の東側に設けると言うことだ。
これなら建物を簡素な造りにしなくても、街を発展させることが可能だろう。
「お待たせしました」
壁の上から街を俯瞰し、作業を進めているとヘルムヴィーゲに声をかけられる。
「残りの区画も、すべて退避が完了しました」
「ご苦労様。それじゃあ、サクッと残りも片付けてしまうか」
全区画の退避が完了したようだ。
この際、区画整理も行ってしまおうと考えていた。余りに街の造りが雑多としすぎているからだ。
こうやっていると、都市経営のシミュレーションゲームをやっているみたいで少し楽しくなってくる。土壁を魔鋼に改変したように、このスキルを上手く使えば舗装された道なんかも簡単に作れそうだ。
元々あった米軍の基地を再利用したと言う話だが、アスファルトは経年劣化で痛み、コンクリートで舗装された道もひび割れている。見栄えも悪いので、そう言ったものはすべて造り変えてしてしまうとしよう。
おっと、その前に人がいないか、ちゃんと確認しておかないとな。
避難が完了していると思ったら逃げ遅れた人がいたみたいで、地形操作に巻き込まれて宙に投げ出されたのだ。もう少し助けるのが遅かったら地面に叩き付けられていたところだった。
そういうことが二度と起きないように、しっかりと安全確認をしないとな。
魔力探知だけでなく〈鷹の目〉を使った目視で確認して、仕上げの作業に取り掛かるのだった。
◆
「ああ、さすがは我が主……いと尊き御方。なんと素晴らしい御力なのでしょうか」
大地を隆起させる圧倒的な魔力。
空間を掌握し、地形を操作し、街の構造そのもの造り変える大規模魔法。
まさに神の御業とも呼べる奇跡を目の当たりにし、ヘルムヴィーゲは感動に打ち震えていた。
神の奇跡を目に焼き付け、街の者たちも驚きを隠せない様子を見せている。
そんな人間たちを一瞥して、鼻で笑いながら優越感に浸るヘルムヴィーゲ。
そんななか、
「あの
一人の人間の姿が、ヘルムヴィーゲの目に留まる。ヴァレンチーナだ。
危ないからと椎名に避難を促され、いまは他の探索者たちと作業が終わるのを大人しく見守っているようだ。
うっとりした表情で作業を見守るヴァレンチーナの姿は、どことなく〈聖女〉を彷彿とさせる。
「〈円卓〉の第三席でしたか」
記憶を辿り、イギリスのクラン〈円卓〉の第三席だと思い出す。
ヘルムヴィーゲは人間嫌いだが、それは人間が愚かで欲深い生き物だと知っているからだ。人間のなかにもマシなものがいることは分かっているし、強者であれば実力を認めもする。少なくとも人間と言うだけで一括りにするほど、ヘルムヴィーゲは愚かではなかった。
そんなことでは、レギルの補佐は務まらないからだ。
とはいえ、記憶する価値のある人間と、そうでない人間をヘルムヴィーゲは分けている。
ヴァレンチーナはヘルムヴィーゲが記憶に値すると認めた人間の一人だった。
しかし、
「主様はどうして、あの者を……」
ヘルムヴィーゲは訝しげな視線をヴァレンチーナに向ける。
許可無く主に近付く不届き者がいれば、排除するのはメイドの仕事だ。そのため、ヴァレンチーナが足を踏み外して落下するように、影のスキルを使ってヘルムヴィーゲは妨害を行った。
しかし、どういう訳か、主がヴァレンチーナを助けてしまったのだ。
「あの者がいることに最初から気付かれていた? だとすれば……」
余計な真似をしたのかもしれないと思い至り、ヘルムヴィーゲの表情が陰る。
突然、街を管理するギルドのもとへ向かい
例えば探索者に紛れ、暗躍している者を釣り上げるために目立つ行動を取ったのだとすれば――
「あの女の目的を探るために、ご自身を囮にされた?」
現在〈円卓〉のメンバーのうち三名が捕らえられ、イギリスの拘置所に収監されている。様々な嫌疑がかけられているレッドグレイヴの事件に関与した容疑が掛かっているからだが、この捜査には警察だけでなく近衛が動いていた。
女王直属の〈騎士〉と呼ばれる近衛兵たちだ。最低でもBランク以上の腕を持つ探索者で構成された部隊で、騎士団長の実力はAランクでもトップクラス。ヴァレンチーナに匹敵すると言われている。
そのことからも〈
「だとすれば、主様の狙いは……」
ヴァレンチーナの背後にいる――いや、正確には彼女たちを動かしている組織を特定することが、主の狙いなのかもしれないとヘルムヴィーゲは考える。
彼女が〈
しかし、不可解な行動が見られるもののヴァレンチーナからは敵意を感じない。だとすれば、〈
所詮は人間の浅知恵だ。未来すら見通す〈楽園の主〉を出し抜くことなど出来ないだろう。
だが、主を煩わせる存在がいるのであれば、捨て置くことは出来ない。
そこまで考えて――
「探りを入れる必要がありますね」
ヘルムヴィーゲは
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