第437話 仮想世界
「それじゃあ、行ってくる。また留守を任せることになるけど」
「お気遣いなく。楽園のことは、私たちにお任せください」
屋敷の前でユミルに別れを告げ、〈
目的地は浮遊都市のダンジョンなので〈
五人まで同時に転移可能のはずだが、テストはまだやっていなかったしな。
しかし、もっと引き留められるかと思っていたけど、あっさりと送り出してくれた。最近、屋敷を留守にしがちなので後ろめたさを感じていたのだが、気の回しすぎだったのかもしれない。
「着いたみたいだな。全員いるか?」
「はい、先生」
確認を取ると返事が返って来る。朱理だ。
全員いることを確認して、転移の成功を確信する。ちなみに同行しているのは朱理、夕陽、明日葉、雫の教え子たち四人だけで、朝陽が一緒じゃないのは一昨日からレギルと日本へ戻っているからだ。
土地を譲ってもらうと言っても、いろいろと手続きがあるらしい。
まあ、そのあたりはレギルに任せておけば、問題ないだろう。
「お待ちしておりました」
ダンジョンの外へでたところで声をかけられる。
黒と灰のシックなメイド服に身を包んだ銀髪のメイド、ヘルムヴィーゲだ。
ヘルムヴィーゲの後ろには、ベリルとアクアマリンの姿も確認できる。
商会に所属するレギル配下のメイドたちだ。迎えに来てくれたのだろう。
「出迎え、ご苦労。お前たちだけか?」
「は、はい。本来であれば総出でお出迎えするところですが、申し訳ありません……」
威厳たっぷりに尋ねると、申し訳なさそうに頭を下げるヘルムヴィーゲ。
別に怒っている訳ではない。レミルの姿がないから少し気になっただけだ。
日本で再会した時もそうだったが、俺が来たことを知れば「お父様!」と叫びながらタックルをかましてきても不思議じゃないからな。
ユミルの話では寝てるって話だったけど、さすがに寝過ぎじゃないかと思う。
もしかして体調が悪いのだろうか?
だからユミルの様子が少しおかしかった?
俺に心配をかけまいと振る舞っていたのだとすれば、合点が行く。
だとすれば――
「いや、気にしないでくれ。お前たちはよくやってくれている」
「主様……」
ここは気付かないフリをするべきだろう。
レミルのことが心配じゃないと言う訳ではないが、緊急性が高ければユミルは隠そうとせず俺に相談しているはずだ。
それにヘルムヴィーゲをここで問い詰めなくても、ヘイズに訊けば分かることだ。
なので――
「早速だが、ヘイズのもとへ案内してくれるか?」
ヘルムヴィーゲに案内を頼むのだった。
◆
教え子たちのことはベリルとアクアマリンに任せ、俺はヘルムヴィーゲの案内で〈方舟〉の中枢へと向かっていた。
俺が前に空けた大穴は塞がっていて、いまは〈方舟〉との行き来は〈空間転移〉を使っているようだ。穴をそのままにしておくと危険だし、侵入される恐れがあるからな。
移動手段を転移に限定したのは頷ける。
そこに加え、
「街とダンジョンを結ぶ〈
ヘルムヴィーゲの話では、島の開発も順調に進んでいるらしく〈転移陣〉の設置も現在進められているらしい。〈
上手く行っていないと思っていたのだが、俺の杞憂だったのだろうか?
いまヘイズの待つ〈方舟〉の中枢へと向かっているのだが、以前きた時よりも修復が進んでいるように見える。壊れていたところも修復され、床や壁も姿が映り込むくらい綺麗に磨き上げられていた。
ざっと見た感じだと、ほとんど元通りになっているんじゃないかと思う。
仕事の早さに感心すると共に、益々分からなくなっていく。トラブルが起きているようには見えないからだ。
「お待ちしておりました。マスター」
中枢へと通じる〈
金色の瞳に、青みを帯びた銀色の髪。耳にはイヤーパッドのようなものをつけた少女で、見た目は人間やホムンクルスそっくりだが、彼女はそのどちらでもない。魔導人形――それもガイノイドと呼ばれる人間の少女そっくりのゴーレムだった。
本人曰く〈人造勇者〉と呼ばれるものらしい。レティシアのような力を持った〈勇者〉を模倣して作られたガイノイドで、
そしてオルタナに先導され、〈方舟〉の中枢――〈
その名の通り、なにもない真っ白な部屋で、ここが〈方舟〉の
「
声をかけられ上を向くと、プカプカと浮かぶ丸い椅子に座ったヘイズが降りてくる。
「様子を見に来た。どうだ? 調子は?」
「ん……〈方舟〉の改修工事は今のところ順調。システムに組み込んだ〈
トラブルもなく順調に作業が進んでいることを説明するヘイズ。
だとすると――
「レミルは?」
「ん……そのことで、主に相談がある」
やはり問題は〈方舟〉ではなくレミルにあったようだ。
ヘイズが手元の端末を操作すると、床から浮かび上がるように円筒形の水槽
が出現する。
生命の水で満たされたホムンクルスの調整に使われる水槽だ。
そのなかには――瞳を閉じて横たわるレミルの姿があった。
「いま、このポッドは〈方舟〉のシステムに繋がっている。レミルの意識は〈方舟〉のシステムが生みだした仮想世界にある」
仮想世界? それって精神世界のようなものだろうか?
昔そんな感じのアニメが流行っていた記憶がある。しかし現代の科学技術でも、意識を仮想世界にダイブするゲームなんて作れない。あれは科学と言うよりも魔法に近い技術だしな。
だが、〈方舟〉の技術なら不可能ではないのだろう。実際、俺も同じようなものを作ろうと思えば作れるしな。
だけど、なにかあったのではないかと心配していたらVRゲームで遊んでるって……。
「計画のため、レミルに協力を頼んだ。レミルのスキルなら仮想世界のものを現実に反映させることが出来るんじゃないかと思って」
遊んでいるだけだと思ったら、ちゃんと理由があったらしい。
確かにレミルの
待てよ? もしかして俺の空けた大穴が塞がっていたり〈方舟〉がこんな短期間で修復されたのは、レミルのスキルで仮想世界の出来事を現実に反映させたからだったりするのか?
「結果は?」
「ん……ほぼ成功と言っていい」
「効果範囲は?」
「島内全域」
島のなか限定と言っても、凄い力だ。
レミルのスキルに、こんな便利な使い道があるとは思わなかった。
冬眠してるとか、ゲームで遊んでいるだけとか言っていた自分が恥ずかしい。
俺よりも役に立っているんじゃないかと感心していると――
「でも、レミルが目覚めない」
どこか深刻な表情でレミルを見詰めながら、ヘイズは状況を説明するのだった。
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