第405話 新装備
早速二人に調査報告をしてもらおうと思ったのだが、
「これってミスリルの糸で編んだドレスだよね? 胸当てなんかの金属の部分はオリハルコンかな?
「こんなところで脱げる訳がないでしょ!?」
姉の身に付けている装備が気になって仕方がないようで、質問攻めをする夕陽の姿があった。
気持ちは分からないでもない。
俺も貴重な素材や珍しい魔導具には目がないからな。
錬金術師のさがと言う奴だ。
「――!?!?」
目が合ったと思ったら、サーシャの背中に慌てて隠れる子竜。
確か、名前はファフニールだったか?
見た目に反して大仰な名前に思えるが、それもそのはずで本来の姿は巨大なドラゴンだった。
こんなのでも一応は
「お姉ちゃん。この装備って、もしかして――」
「あ、うん。陛下から賜ったの……この前、活躍した褒美だって……」
朝陽の装備が新しくなっているのは、俺がプレゼントしたからだ。
謝罪の必要はないのだが、オークキングとの戦いでミスリルの槍を壊してしまったらしい。
ありあわせの材料で手を加えただけなので壊れて当然だしな。むしろ、よく二年以上も壊さずに使っていたなと感心するくらいだ。槍が壊れたのは寿命だったのだろう。
レミルは余り武器を使わないが、メイドたちとの訓練で何本も武器をダメにしていると聞いているからな。朝陽を見習って欲しいものだ。
それに話を聞く限りでは、オークキングを倒したのは朝陽らしい。オークはそれほど強くはないが、頑丈さは定評のあるモンスターだからな。しかも、あのオークキングは明らかに
ただのミスリルの槍では、荷が重い相手だったのだろう。
そんな相手に勝ったのだ。功績を称えるべきだと考え、用意したのが朝陽の身に付けている装備だった。
月は楽園の領土だしな。月面都市を守ったなら、その功績には報いるべきだ。
それに妹のことは名前で呼んでいるのに、姉のことをいつまでもギャルと呼び続けるのは可哀想だしな。丁度良い機会かと思って、
朝陽にプレゼントした装備は、メイド服のモデルになった試作品の装備だ。と言っても、性能的にはメイドたちが身に付けている装備に見劣りしない。
ちょっと扱いが難しいが、オークキングの特殊個体を倒した朝陽なら大丈夫だろうと考えてのことだった。
メイド服の元になった純白のドレス。黄金の胸当てや籠手、すね当てなんかがセットになった通称〈
以前の間に合わせの装備よりも、遥かにグレードの高い装備だ。これなら簡単に壊れることもないだろう。
自動修復機能付きなので、ちょっとくらいの破損なら勝手に修復するしな。
「お姉ちゃんの武器は私が用意しようと思ってたのに……」
え、そうなのか? それは悪いことをしたかもしれない。
とはいえ、いまの夕陽の実力では簡単な魔導具くらいならともかく探索者用の装備を作るのなんて無理だしな。
最近ようやく〈生命の水〉を武具のカタチに錬成できるようになってきたみたいだが、あの程度の錬成に手こずっているようでは、まだまだだ。
「まだ早い。もう少し腕を上げてからだな」
厳しいようだが、探索者にとって武器とは命を預けるものだしな。
中途半端な性能の武器を渡せば、朝陽を危険に晒すことになる。
それは夕陽も本望ではないはずだ。だから、ここは心を鬼にする。
不満そうな顔を浮かべているが、反論してこないと言うことは本人も理解しているのだろう。
「八重坂さんの武器でもダメなんて……」
黒髪ロングの少女が腰に提げた刀に視線を落としながら、困惑した表情を浮かべていた。
夕陽たちを連れてきてくれとサーシャに頼んだら一緒についてきたことから察するに、彼女も恐らくは教え子たちのパーティーメンバーなのだろう。
刀使いか。シオンみたいだな。
どことなく雰囲気も似ている気がする。しかし、
「夕陽の武器? いつの間にそんなものを作ったんだ?」
「先生から頂いた素材を使って、試作品を幾つか作ってみたんです。その一つを先輩に譲ったんですけど……ダメでしたか?」
ダメと言う訳ではないが、そういうことか。
腰に提げている刀は、夕陽がこしらえたもののようだ。
しかし、先輩ね。学校の先輩と言ったところか。
夕陽たちも世話になっているみたいだし、それなら――
「ちょっと、刀を見せてくれるか?」
「あ、はい。どうぞ……」
刀を見せてもらうと、やっぱり思ったとおりだった。
見た目はちゃんとした刀だが、作りが甘い。
もう三十年くらい昔の話になるが、魔導具の製作が上手く行かず煮詰まっていた時、ヘイズに言われたことを思い出す。
ソフトだけでなくハードも大事。これはヘイズから教わったことだ。
「
なので少し弄ってやる。
スキルを付与した
これでは、刀に魔力を込めても上手くスキルが発動しない。
素材に戻してゼロから作り直した方が早いのだが、それでは夕陽の努力を踏みにじることになるしな。
それに――
「ほら、完成だ。少し振ってみろ」
「え……はい」
黒髪の少女が刀を振ると、空気を斬り裂くような音と共に風が巻き起こる。
うん、良い腕だ。剣術とかよく分からないが、彼女が凄腕の剣士だと言うのは、なんとなく察せられる。
「嘘……こんなことが……」
刀の変化に気付いたようだ。
刀を振れば違いが分かると思ったのだが、本当に腕の良い剣士みたいだな。
「……先生、なにしたんですか?」
「ちょっと弄って魔力の通りをよくしてやっただけだ。強度も上がってるとは思うけど、根本的な部分は弄っていない。それより〈硬化魔法〉で強度を誤魔化しているみたいだが、ちゃんとしたスキルを付与してないだろう? これならミスリルを使う必要がない。魔鋼でも十分すぎるくらいだぞ?」
「う……ミスリルの方が強度がでるかと思って……。それに魔鋼はミスリルよりも魔力の通りが悪いから、イメージ通りにカタチを整えるのが難しくて……」
「それはイメージが甘いからだ。なにが自分に足りていないかは、俺が調整してやった武器を見て学び取れ。〈
一から作らずに敢えて悪いところだけを調整したのは、夕陽に気付かせるためだ。
彼女の錬成の甘さは、経験が足りていないからだと考えていた。
このくらいの武器は、俺に頼らずとも完成させられるだけの知識と技術は持っているはずだからだ。
魔導具と魔法薬では勝手が違うが、魔力操作が重要な要素を占めることに変わりはないからな。
その魔力操作の技術は、最低限必要なレベルに達していると認めていた。
「わかりました。先生に認められる刀を完成させてみせます!」
とはいえ、二年でこれなら上出来ではある。
夕陽なら、きっと期待に応えてくれるだろう。
「シーナ。そろそろ本題に戻らない?」
「あ……」
魔導具の話になると、すぐ話が脱線するのは錬金術師の悪いところだ。
教え子と二人揃って、反省させられるのだった。
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