第398話 ダンジョンクリエイト
ダンジョンと聞くと大半の人が、薄暗い洞窟や迷宮をイメージすると思う。
階層ごとにフロアが分かれていて、モンスターを倒しながら最奥を目指す。
概ね、そのイメージで間違ってはいないのだが、この世界のダンジョンは少しばかり趣向が異なる。
上層、中層、下層とそれぞれが階段ではなく地上の出入り口と同様に
上層から中層は人々がダンジョンに抱くイメージ通りの天然の迷宮が続くが、下層からは洞窟だけでなく森や沼。果てには雪山や溶岩地帯と言った過酷なエリアが待ち受けている。
そして深層に至っては、もはや地球とほとんど変わりがなかった。
大陸や島があって、海もある。どういう仕組みなのかは分からないが、地上のように昼夜があって夜には星空を眺めることも出来るのだ。ダンジョンと言うよりは、まさに異世界と言った光景が広がっていた。
世界そのものが内包された箱庭。それが、この世界のダンジョンだ。
そんなダンジョンだが、俺にもどうやって造ったのか分からない。博士は第一のヘルメスがダンジョンを造ったと言っていたが、世界そのものを構築するのは錬金術の域を超えているからだ。
世界を創造するなんて、もはやそれは魔法や科学ではなく神秘の領域だ。
奇跡とも呼べる神の御業。
だからヘルメスの遺産を見つけた時には、ダンジョンの謎に迫るヒントが得られるのではないかと歓喜したのだが――
「なにもないな」
「はい。まさか、モンスターすら出現しないとは……」
遺跡で見つけたダンジョンを探索してみたのだが、なにもなかった。
宝箱どころか、イズンの言うようにモンスターすら出て来なかったのだ。
ただ延々と、迷路のような道が続くだけ――
それも同じような景色がずっと続くだけなので飽きてくる。
最初は高かったテンションも、いまはだだ下がりだ。
「まるで作りかけで放置されたゲームみたいだな」
モンスターどころか、オブジェクトすら配置されていない平坦な道が延々と続くだけの迷宮。仮に試作品だとしても、もう少し趣向を凝らして欲しい。
せめて
「これではダンジョンと言うよりも、
「……
「はい。ご主人様が最初に仰っていた通り、倉庫目的での使用なら使えなくもないかと思いまして」
確かに、ダンジョンだと言いだしたのは俺だしな。
もしかしたら本当に倉庫として使用するつもりで作られたものなのかもしれない。
まあ、さすがに倉庫として使うには広すぎると思うけど〈黄金の蔵〉のようなものだと考えると、まだ納得が――
うん? 待てよ? 黄金の蔵?
そう言えば、〈黄金の蔵〉もヘルメスの遺産って話を聞いた記憶がある。
博士の話にあった第一のヘルメスと、過去の世界で神様扱いされていたヘルメスが同一人物かは分からないが、〈黄金の蔵〉〈カドゥケウスの杖〉〈神槍グングニール〉の三つがヘルメス神が愛用したとされる三大神器に数えられていた。
ちなみに〈神槍グングニール〉と言うのはスカジが使っている槍で、先代の友人でもあった〈魔女王〉が愛用していた槍だ。
いまは〈
製作者が同じなのだとすれば、このダンジョンもどきの空間と〈黄金の蔵〉が似ているのにも頷ける。
「〈無限収納〉……そう言うことか。イズン、大手柄だぞ」
「えっと……それは、どう言うことでしょうか?」
「ダンジョンは巨大な〈
前から疑問だったのだ。と言うのも〈黄金の蔵〉については、俺も何度か再現を試みているのだが、いまだに完全な模倣に至っていない。その理由が〈
黄金の蔵には〈無限収納〉と呼ばれるスキルが付与されているのだが、世界そのものが収納できてしまいそうなくらい広大な
だが、そんな〈
空間拡張のスキルはその名の通り、空間を拡張するスキルだ。
無限に拡張できる訳ではなく拡張できる空間の広さは〈
なにせ世界を内包するのであれば、世界を循環する魔力と同等の魔力を込めた〈
だから〈黄金の蔵〉の再現は出来ない。
しかし、〈黄金の蔵〉が〈
先代は〈黄金の蔵〉を〈
でも、〈黄金の蔵〉には生き物が入らないんだよな。
なにかしらの
カドゥケウスの杖の前例もあるので、可能性としては十分にありえる。
「よし、決めた」
「……ご主人様?」
「自分で好きにダンジョンを造ってみようかなって」
「……ダンジョンをですか?」
モンスターがいないのは、考え方によっては都合が良い。自分で好きにダンジョンを
どれだけ頭を捻って考えても理論は所詮、理論に過ぎない。机上の空論で終わらせないためにも、実験してみないと分からないことがあるからな。なら実際に試してみるのが一番だ。
実験に使えそうなダンジョンがあるのだから、それを活用しない手はない。
それに先日手に入れた新しい
最近ようやく〈解析〉が終わって、使い方が分かってきたのだ。
しかし、生態系に影響を及ぼしかねない能力なので地上で試す訳にもいかず、どうしたものかと迷っていたんだよな。ここなら思う存分、いろいろと試せそうだ。それに――
「実験したいことがあるし、この場所は都合が良いと思ってな」
「でしたら、やはり人間たちが立ち入れないように遺跡を封鎖した方が良さそうですね。念のため、精霊にも命じて常時監視できる体制を――」
「いや、そこまでする必要はない。遺跡自体に価値はないし、
「え……」
この空間が〈黄金の蔵〉と同じ仕組みならテレジアに渡した腕輪のように、基点となるアクセスポイントを用意することでゲートを複製できるはずだ。
まさか〈黄金の蔵〉の研究が、こんなところで役立つとはな。やはり、いろいろと試してみるものだ。どこで、なにが役に立つか分からないからな。
しかし、どこにダンジョンを設置したものか。
楽園は……ダメだな。いずれはダンジョンを探索者たちに開放して実験……もといデータを取りたいと思っているので、深層に入り口を設置してしまうと挑める探索者が限られてしまう。
となると、やはり月が無難か。問題は月のどこにゲートを設置するかだが――
「イズン」
「はい、ご主人様」
「悪いんだけど、少し手伝ってくれるか?」
良いことを思いついた。月には世界樹がある。
世界樹を基点にすれば、ゲートを維持するための魔力の問題も解決する。
それにイズンの協力を得られれば、システムの構築を大幅に短縮できるはずだ。
「悪いことなど、なにも……。お命じ頂ければ、どのようなことでも協力いたします」
「それじゃあ、頼む。いや、力を貸せ――イズン」
「仰せのままに。
それじゃあ、はじめるとしますか。
世界の真理を探求するための実験。新たなダンジョンの創造を――
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