第396話 Sランクの条件
Sランクが規格外と言われる理由の一つに〈領域結界〉があると言う話をしたと思うが、正確にはそれだけではSランクに認定されない。月宮冬也のように〈領域結界〉を使用できる者はSランク以外にもいるからだ。
例えば、〈円卓〉の三席ヴァレンチーナの〈
では、なぜアレックスがSランクで、ヴァレンチーナがAランクなのかと言うと、ユニークスキルの名前にもなっている神の力を十全に扱えることが、Sランクの認定条件となっているためだ。
皇帝が自らの身体を依り代に〈神降ろし〉を成功させたように、シャミーナが神そのものを招来せしめたように、人間では決して為し得ない奇跡を為し得たものだけが、
ヴァレンチーナが最もSランクに近いと言われていたのはこれが理由で、彼女のユニークスキル〈
魔力を強化できると言うことは、最大魔力量を――正確には、魂を強化できると言うことだ。
しかし、そんな彼女でも神の奇跡を体現することは叶わなかった。
神の招来とはそれほどに困難なことで、偶然で為し得るものではない。
だからこそ――
「六人目のSランク……私がですか?」
とはいえ、
「でも、あれは夕陽の協力があったからで……」
自分一人の力で神の招来に成功した訳ではないと、朝陽は遠慮する。
しかし、
「そもそも魔力があっても、その魔力を上手く扱えなければ神を呼び出すことは出来ないのよ。アサヒ、あなたは既に
シャミーナの考えは違った。
魔力を用意できても、その魔力を上手く扱えなければ奇跡を為すことは出来ないからだ。
ヴァレンチーナがSランクに至れないのは、そのためだ。
彼女の必殺技〈
仮に強化された魔力を完全に制御し、権能の力を十分に発揮できていれば魔剣を自在に操り、第一席――Sランクのクロエに匹敵するパワーやスピードを得ることも可能のはずだ。
同じ強化系のユニークスキルを使うアレックスがSランクなのは、神の力を余すこと無く制御しているからだった。
重要なのは、魔力を暴走させることなくコントロールする魔力操作の技術だ。それと同時に神の力の受け皿となり、依り代になることが出来るだけの〈魂の器〉が必要だった。
神の招来に成功したと言うことは、その二つの条件を既に朝陽は満たしていると言うことになる。
「それは魔力を
「はあ……いい、アサヒ。魔力を収束させるには、その魔力をコントロールする必要があるのよ? それも普通に魔力を使うよりも繊細な魔力操作の技術が要求される。アイーシャ、あなたにアサヒと同じことが出来るかしら?」
「無理ですね。あれほどの魔力に晒されれば、間違いなく魔力酔いを起こします。最悪の場合、魔力暴走を引き起こすかと」
シャミーナの問いに首を横に振り、自分では無理だと答えるアイーシャ。
これはアイーシャに限った話ではない。そんなことが可能な探索者は他にいないと言うのが、シャミーナのだした結論だった。
魔導具の扱いに長け、魔力操作には自信のあるシャミーナでさえ、三十万人から集めた魔力をコントロールし、イメージ通りに収束できるかというと難しい。普通に利用するだけなら可能だが、魔力の収束と言うのは朝陽が思っている以上に高度な技術だからだ。
誰にも真似の出来ないことをやってのけたと言う事実だけでも、
そのことから――
「あなたに足りていないのは
朝陽が〈
汎用性の高いスキルほど魔力消費が大きく、制限の多いスキルほど魔力の消耗が少ないと言った特徴があるが、恐らく〈
シャミーナのユニークスキル〈
抑えていると言っても、神の招来に必要とする魔力は普通の人間に賄いきれるものではないのだが、シャミーナは世界有数の魔力の持ち主であり、更には身に付けている魔導具で魔力を強化していた。
Sランクに認定されている者たちは、それぞれのやり方で必要な魔力を補っている。妹の力を借りなければ〈
その時点でSランクの資格があると言うのが、シャミーナの考えだった。
「光に触れたものを、すべて魔力へと分解する権能。イギリスで神が為された奇跡と同じことを、あなたは体現したのよ。いまダンジョン周辺の魔力濃度がどうなっているか知ってる?」
月は地球と比べても大気中の魔力濃度が高いことで知られているが、それでも下層に匹敵するレベルの魔力が検知されると言うのは異常だった。
ここが月でなければダンジョンは当面の間、封鎖されていたことだろう。低ランクの探索者であれば魔力酔いを起こす危険があり、ダンジョンに近付くだけで危険だからだ。
そんな規格外の力を持った権能だからこそ、〈
それに――
「アサヒ、あなたダンジョンに毎週潜ってるでしょ?」
「え、はい」
「訓練も毎日続けているのではなくて?」
「えっと……はい」
「普通は三日ほどで魔力は回復するけど、あなたの場合はそれだと魔力が全回復しないのでしょうね」
最大魔力量は、魂の器の大きさに依存する。
と言うことは、あれだけの魔力を扱える朝陽の魔力量がAランクと同程度というのは考えられない。神の招来を為せる時点で、自分と同程度の魔力を持っていなければ説明がつかないと言うのが、シャミーナの考えだった。
魔力の回復スピードは、大気中の魔力濃度が大きく関係する。
そして、魔力量の多い者ほど魔力の回復に時間が掛かることから、朝陽の場合、最大魔力量が大きすぎて数日休んだ程度では魔力が全回復しないのだろうとシャミーナは指摘する。
「Sランクに相応しくないと言うのなら、一ヶ月後にまた話をしましょう。その間、魔法の使用は一切禁止。ダンジョンに潜るのも当然ダメよ」
そのため、休養を取ることをシャミーナは勧める。
自分の経験から一ヶ月程度休めば、万全な状態に戻るはずだと考えての提案だ。
その上で、朝陽の最大魔力量を測定すれば、自ずと結果はでるはずだ。
Sランクの認定は、それからでも遅くないと考えてのことだった。
「い、一ヶ月ですか!? それは、ちょっと……」
「なら魔力が全回復するまで
「う……大人しく休養を取ります……」
どう考えても飲める量ではないと判断した朝陽は、渋々と言った様子でシャミーナの案に頷くのであった。
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