第389話 ブリューナク
「――
槍の尖端から放たれた熱線がオークキングの身体を貫く。
物理だけでなく魔法に対しても高い耐性があるのは間違いないが、まったく攻撃が通らない訳ではない。少なくともAランク以上の探索者が魔力を収束させた攻撃であれば、ダメージを通すことは可能だった。
しかし、
「〈超速再生〉……厄介な能力ね」
黒いミノタウロスやオークジェネラルと同様、オークキングにも再生能力が備わっていた。
しかも、この巨体だ。多少傷を付けたくらいでは、すぐに再生されてしまう。
そうなると――
「
再生できないほどのダメージを与えるしかない。
冬也も、朝陽と同じことを考えたのだろう。並の攻撃ではオークキングを傷つけることは出来ない。だからこそ、最大の攻撃――最上級魔法を放つしかないと考えた訳だ。
冬也の放った魔法で、巨大なオークキングの身体が凍り付く。
そこに間髪入れず、最大の魔法を放つ探索者たち。
「
「
「
上級魔法に分類される攻撃魔法が、オークキングに襲い掛かる。
魔力の続く限り、魔法を放ち続ける探索者たち。
並のモンスターであれば塵一つ残さない波状攻撃だが、
「草薙の剣よ――我が求めに応じ、
爆煙に包まれるオークキングに向かって駆け出すと、力を解放する一色。
ミスリル製の刀が金色の光を纏い、神秘の輝きを放つ。これが一色の〈領域結界〉――
領域結界と聞くと、夕陽の〈
一色の〈領域結界〉は至極単純――自らの武器に神の力を宿すと言うものだ。
神器と化した武器には、この世の法則を超越した権能が備わる。一色のユニークスキル〈
実体を持たないアストラル系のモンスターであれば、幻獣クラスのモンスターであろうと問答無用で消し去る力――〈浄化〉を上回る〈禍払い〉の力が〈草薙の剣〉には備わっていた。
「破邪の太刀――
雫の〈疾風迅雷〉のような速さも、朱理の〈神鳴り〉のような派手さもない。
ただ、一陣の風と化すことで敵を切り刻む奥義。
「――――!」
全身を切り刻まれ、絶叫を挙げるオークキング。
一色は冬也のように最上級魔法を使えないが、その代わりに幼い頃から学んできた古流剣術にスキルの能力を合わせた独自の剣技を編み出してきた。その集大成と呼べるものが、この〈風刃神楽〉だ。
権能を宿した破邪の一太刀は、肉体だけでなく
「東大寺さん!」
「任せろ!」
オークキングが怯んだ隙に、朝陽を宙に放り投げる仁。
傷が回復していないのを確認する朝陽。明らかにオークキングの再生能力が落ちていた。草薙の剣が持つ〈禍払い〉の効果によって体内に取り込んだ
身体に馴染んだ呪素まで取り除くことは出来なかったようだが、それでもオークキングを弱体化させるには十分な効果があった。
それを好機と捉え、オークキングの頭上を取ると朝陽は魔力を槍に収束させる。
「
朝陽は冬也のように最上級魔法を使えないし、一色のように幼い頃から剣術を学んできた訳ではない。しかし、彼女には誰にも負けない才能があった。それが、魔力の
広範囲に影響を及ぼすような魔法は一切使えないが、一点に魔力を集中させることに関しては天性の素質を持っていた。
朝陽が武器に槍を選んだのは、そのためだ。
炎と雷の複合攻撃にして、魔力を一点に収束させた必殺の一撃。
それが――
「
すべてを焼き、貫く――太陽の一撃だった。
◆
「相変わらず、凄まじい威力だな」
この技を見るのは二度目だが、凄まじい威力だと仁は感嘆する。
以前、使用したのはベヒモスを討伐した時で、朝陽の放った一撃は大地を抉り取り、遥か地平線の彼方にまで一筋の爪痕を残した。その直撃を無防備な状態で受けたのだ。
オークキングはと言うと頭を失い、仰向けに倒れていた。
どれだけ高い再生能力を持っていようと、頭を潰されて生きている生物はいない。
しかも、一色の〈禍払い〉で体内の呪素は浄化され、化け物染みた回復能力も失っていた。
そのことから、
「俺たちの勝利だ!」
「おおおおおおおおお!」
仁が勝利を宣言すると、湧き立つ探索者たち。
ベヒモスを凌駕するかもしれない怪物を討ち取ったのだ。それも
オークキングは討ち取ったが、すべてのモンスターを駆除した訳ではないからだ。
まだ、オークの軍勢とミノタウロスが残っていた。
数にして一万以上。一番の強敵を討ち取ったとはいえ、油断のできる状況ではない。
そのため、
「一色と嬢ちゃんはさがっていろ。さっきので、かなり消耗しているはずだ」
一色と朝陽に後方へ下がるようにと促す仁。
いまの二人が、戦えるような状態ではないと見抜いてのことだ。
「まだ、やれます。魔力なら
「マナポーションで魔力は回復しても、身体のダメージまでは抜けないはずだ。あの技は負担が大きいから、いまの自分でも一度しか使えないって、前にそう言ってたじゃねえか。それに一色、お前もその刀――もう使い物にならねえんだろう?」
「……さすがだね。この技は身体への負担が大きい以上に、武器がスキルの力に耐えられないんだよね」
一色がスキルを解除すると、ミスリルの刀身が砕け散る。
これが、草薙の剣の最大の弱点でもあった。スキルの力を武器が受け止めきれないのだ。そのため、一度使うと粉々に砕け散ってしまう。
ミスリル製の武器でも一分と保たせることが出来ないという弱点を抱えていた。
それに朝陽の方も、魔力は確かに
肉体、精神共に限界が近付いことを仁は察していた。
「ちょっとは俺たちにも出番を譲ってくれ。敵の大将を討ち取ったんだから、戦果としては十分だろう」
仁に説得され、少し迷う素振りを見せるも、
「分かった。キミの言うとおりにするよ」
「……東大寺さん、どうか気を付けて」
大人しく引き下がる一色と朝陽。
二人もバカではない。いまの自分たちでは足手纏いになりかねないことを、本当は理解しているのだろう。
しかし、体力や魔力を消耗しているのは他の探索者たちも同じだ。
オークキングを討ち取ったからと言って、余裕のある状況ではない。
だから自分たちだけ下がって、休むことに抵抗があるのだろう。
「実力は文句の付けようがないんだが、嬢ちゃんも一色も真面目すぎるんだよな」
そう言うところが、似たもの同士だと仁は思う。実力を認める一方で、なんでも抱え込んでしまうところが二人の弱点だと思っていた。だから、朝陽とパーティーを組むことにしたのだ。
英雄と持て囃され、周囲の期待に応えようと必要以上に頑張る朝陽を見て、放って置けなかったと言うのが理由だ。
最初はスタンピードの時に受けた借りを返すつもりで朝陽のパーティーに加わったのだが、いまは本気で彼女を――不器用な仲間を支えたいと思っていた。
だから――
「二人が安心して休めるように、少しは頼れるところを見せねえとな」
今度は自分の番だとばかりに、仁はモンスターの群れに立ち向かうのだった。
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