第383話 帰還魔法
魔素の発生原因を探っていると、古い遺跡にオークの巣を発見したのだが、
「凄い数だな。これ、全部オークなのか?」
凄いことになっていた。
ざっと数えるだけでも一万を超えるオークの群れ。
これだけでも面倒臭そうなのに――
「あれって、オークキングだよな? 随分とでかいけど」
群れの中心に巨大なオークの姿があった。
並べて比べると、普通のオークが赤子に見えるような大きさ。
オークと言うよりは、もはや怪獣だ。こいつが群れのボスと考えて良いだろう。
しかもミノタウロスの特殊個体と同じように、すべてのオークが浅黒い肌をしていて禍々しい気配を纏っている。オークキングだけでなく、この場にいるオークすべてが特殊個体へと変異していると見ていいだろう。
とはいえ、
「所詮は
数が多いだけで、雑魚に変わりは無い。
多少、ゴブリンよりもしぶといだけの豚だ。
オーガなら少しは厄介だが、オーク程度では脅威と呼べない。
むしろ、厄介なのは――
「
呪いの方だと考えていた。
空間内に漂う魔素を〈解析〉してみるが、間違いない。
過去の世界で確認した魔素と同じものだ。
モンスターが変異したのは、この魔素が原因と見て間違いないだろう。
だから――
「お待たせしました」
「お帰り。それで、どうだった?」
「ご主人様の仰る通り、遺跡の地下で巨大なオベリスクと魔法陣を発見しました」
ダンジョンの魔力を吸い上げている何かがあると考え、イズンに探ってもらっていたと言う訳だ。
魔素とは魔力の残りかす。魔法を使うと発生する特殊な粒子のことだ。
魔力を消費しなければ、魔素が生まれることはない。となると、これだけ大量の魔素が自然に発生したと考えるよりは、なにか魔力を消費し続けているものがあると考える方が自然だからな。
オークたちが巣にしている遺跡の地下で、その装置を発見したらしい。
ダンジョンのなかには古い遺跡が点在しているのだが、先代の時代のものもあれば、それ以前のもっと古い遺跡も存在する。恐らく、この遺跡もそう言った遺跡の一つなのだろう。
ダンジョンが滅ぼしてきた文明。その名残だ。
こう言った遺跡がダンジョンのなかに存在する理由は様々だが、主には集積所や探索の中継地点に利用されていたらしく、その時代に使われていたと思われる魔法のアイテムなんかが発見されることがある。これが
なかには使い道のよく分からない仕掛けや装置があったりするので、この遺跡にある魔法陣もそう言ったものの一つなのだろう。
状況から察するにモンスターが偶然、起動してしまったのかもしれないな。
詳しく〈解析〉してみないと分からないが、これだけの魔素を生み出す装置だ。
かなり大掛かりな仕掛けなんじゃないかと思う。
「やっぱりそうか。それで、体調に問題はなさそうか?」
「お気遣いありがとうございます。いまのところ問題はありません」
この呪われた魔素――便宜上〈呪素〉と呼ばせてもらうが、ホムンクルスによくない影響があることが分かっている。スカジが撤退の判断をしたのは、メイドたちが身体の不調を訴えたためだ。
端的に説明すると、呪素を浴び続けると身体に変調を来し、魔力が暴走する可能性が高い。正確にはホムンクルスだけでなく、人間のなかにも魔力暴走を引き起こしたり、モンスターに変異する現象が確認されているのだが、その原因と推察されているものが〈星霊因子〉だ。
魔力の
星霊因子を持っているかどうかを見分ける方法は簡単で、スキルに目覚めることで因子が活性化して髪の色が変化したり、耳が尖ったりと身体的特徴に変化が生じることが分かっている。
ホムンクルスは一部を除いてスキルを使えないが、〈
ようするに星霊の力を狂わせる特殊な魔素――それが、呪素の正体と言うことだ。
イズンはホムンクルスであると同時に世界樹の大精霊――
他のメイドたちよりも呪素の影響を受けやすいのではないかと心配したのだが、
「確かに問題はなさそうだな」
念のために〈解析〉を試みてみるが、問題はなさそうだった。
とはいえ、もう少し研究してみる必要はありそうだな。
あの時は時間がなかったから問題の解決を優先したが、このまま原因を探らずに放置するのは危険な気がする。テレジアの件で仮に暴走しても元に戻せることは分かっているが、結局は対処療法に過ぎないからな。
そう言う意味では、今回の件は丁度良かったのかもしれない。
巻き込まれた学生や探索者たちは災難だったかもしれないが――
「ご主人様。その……」
「ん? ああ、悪い。事前に許可を取るべきだったな」
集中する余り、イズンの手を握っていたらしい。
ホムンクルスは人間と変わらない見た目をしているが人間ではない。錬金術によって生み出された人工生命体なので、魔導具と同じようにスキルによる〈解析〉が可能だ。
しかし、彼女たちは魔導具ではなく意志のある存在だ。
許可なく勝手に〈解析〉されて良い気はしないだろう。
その気になれば、体重からスリーサイズまで全部筒抜けな訳だしな。
ホムンクルスとはいえ、女性だ。配慮が足りなかったと反省させられる。
「そうすると、やはり遺跡ごとオークを潰すのはなしだな」
手っ取り早く〈
となると、当初の予定通りに進めた方が良さそうだ。
『スカジ、聞こえているか?』
『はい、主様』
念話でスカジに連絡を取る。
狩人のメイドたちには、別の仕事を任せていた。
呪素の影響を受け、変異したモンスターの調査と――
『原因を特定した。そっちの準備は?』
『既に調査を終わらせ、全員配置についております。ギルドへの説明も滞りなく』
『準備万端と言うことか。なら、予定通りに進めてしまっても問題ないな?』
『はい。いつでもいけます』
さすがはスカジたちだ。
この短時間で調査を終わらせ、準備も滞りなく済ませてしまうとは――
メイドたちに任せればモンスターの駆除は容易いが、それではギルドの立場がない。ギルドマスターから頼まれたのは、原因の特定と排除だけだしな。
なので――
『なら、いまからオークの群れを
『畏まりました』
モンスターの駆除は探索者たちに任せることにした。
数だけは多いが、所詮は中層のモンスターだ。
たしいた脅威でもないし、苦戦するようなこともないだろう。
それに――
「
ここがダンジョンで良かった。
地上なら一万を超えるモンスターを転移させるなんて真似は無理だが、ダンジョンなら
黄金の蔵から水晶を取りだし、空に向かって放り投げる。
そして、カドゥケウスの能力で効果範囲を〈拡張〉することで――
「
オークの群れに〈
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