第381話 トップランカー
東大寺仁の〈
だが、肉体を強化するだけのスキルであれば〈
ただ身体能力を強化するだけの〈
だが、ユニークスキルは一つとして同じ能力は存在しない。〈
それが――
「きかねえよ」
この防御能力だ。
肩にミノタウロスの斧の直撃を受けながらも、まったく動じる様子を見せない仁。
傷一つ負っていないどころか、仁の身体に触れた斧の方に亀裂が入る。
鋼のように頑強な肉体と言ったが、正確には強化される肉体の強度に限界はない。
いまの仁の肉体は、アダマンタイトに迫る強度を誇っていた。
だから装備も必要ない。肉体そのものが強力無比な武具となるからだ。
「ぬんッ!」
仁の拳がミノタウロスの腹部に直撃し、弾き飛ばす。
壁に叩き付けられ、肺から息を吐くミノタウロス。
しかし、それで終わりではなかった。
「おねんねするのは、まだ早いぜ!」
一足で間合いを詰めると、ミノタウロスに拳打を浴びせる仁。
「オラオラオラオラ――ッ!」
反撃の隙を一切与えず、雨のように拳を打ち付ける仁。
雷のような轟音と共にダンジョンが震動し、拳を打ち付ける度にミノタウロスの身体が壁に沈んでいく。
「こいつでトドメだ――」
正拳突きの構えを取り、拳に魔力を込める仁。
そして、
「覇王流奥義――超剛力破砕拳ッ!」
渾身の一撃を叩き込むのだった。
◆
「いつ見ても豪快な戦い方ね」
自分には真似の出来ない戦い方だと感心する朝陽。
仁は〈準S級〉の実力があると評価してくれるが、朝陽は自分だけが特別だと思ってはいなかった。
自分が評価されているのは、仲間のお陰でもあると理解しているからだ。
ダンジョンは一人で攻略できない。どれだけ強くとも仲間の協力が必要だ。そう言う意味で仁は自分にないものを持っているし、他の仲間にも言えることだと朝陽は考えていた。
だから――
「あなたの相手は私よ」
ミノタウロスの相手を仁に任せ、自分はオークジェネラルを引き受けたのだ。
オークの脂肪は鎧のようなもので、物理的な攻撃に高い耐性があることで知られている。特に打撃に対して強く、仁のような戦闘スタイルの探索者には天敵とも言える相手だった。
だから少しでも体力を温存するために、オークジェネラルの相手は自分が務めることにしたのだ。少なくとも朝陽にとってオークの脂肪など――あってないようなものだからだ。
「魔力を温存したいから一瞬で片を付けさせてもらうわ」
時間をかけるつもりはなかった。屈むように姿勢を低くして槍を構える朝陽。
朝陽の装備は〈迦具土〉の代表、一文字鉄雄が製作したものに〈楽園の主〉が改良を加えたものだ。これが、朝陽が〈準S級〉の評価を素直に受け入れられない理由にもなっていた。
ミスリル製の長槍にオーガの皮で作った胸当て。同じくオーガの皮で作られたブーツに、キングスパイダーの糸を編み込んだ魔導服。これだけでも一級品と呼べるものなのに、そこに〈楽園の主〉の――椎名の改良が加わっているのだ。
その性能は並のアーティファクトを凌駕し、国宝の域にまで達している。
そのため、ズルをしているという考えが、どうしても頭から離れないのだろう。
しかし、椎名の魔導具は強力だが、それだけに扱いが難しい。朝陽以外の人間が使っても、彼女ほどに使いこなすことは出来ないだろう。
この二年半、装備の性能を十二分に発揮するため、朝陽はレギルの下で厳しい訓練に耐えてきた。その努力の甲斐もあって、いまの彼女は同時に
「――
そうして得た力。
それが、Sランクにも届き得る――八重坂朝陽の力だった。
◆
「あれが〈怪力無双〉……本当に同じAランクなのか?」
淡い光を放ちながら消えていくミノタウロスを呆然と見詰める坂元。
自分たちが手も足もでなかったモンスターが、一方的に殴り殺されるところを目にしたのだ。この反応も無理はない。
しかし、Aランクと一括りに言っても実力の差は明確に存在する。そのなかでも特にユニークスキル持ちは別格扱いで、仁は国内で
国際的な評価も高く、世界屈指の
夜見のような魔法を使えず、武器の扱いも得意ではない。攻撃手段は自身の肉体のみと、まさに脳筋の極致とも言うべき戦闘スタイルだが、一対一の戦闘においては無類の強さを発揮するのが東大寺仁と言う男だ。
ミノタウロスのように物理的な攻撃手段しか持たない相手であれば尚のこと、仁の敵ではなかった。
しかし、そんな仁でも敵わない探索者が、日本には二人存在する。
それが〈勇者〉の二つ名で知られる南雲一色と、〈戦乙女〉――八重坂朝陽だ。
(あの筋肉バカでさえ、かすんで見えるんだから世界は広いよ)
以前の朝陽にそこまでの力はなかったが、〈トワイライト〉の企業探索者となり〈スタンピードの英雄〉と呼ばれるようになってからメキメキと実力を付け、頭角を現していった。
いまでは〈勇者〉を凌ぎ、〈戦乙女〉が日本最強の探索者だと噂する声も少なくないほどだ。実際、朝陽の実力はAランクのなかでも頭一つ二つ抜けん出ていると夜見も感じていた。
それもそのはずで、現在〈深層〉に到達しているパーティーは世界に僅か十組しか存在しないが、そのなかに朝陽がリーダーを務めるパーティー〈
いまから一年前。〈
アメリカのSランク探索者アレックス・テイラー率いるパーティーが撤退を余儀なくされ、日本のレイドパーティーが全滅させられた忌むべき怪物。その人類の宿敵とも言えるモンスターに雪辱を果たしたパーティーの名は、瞬く間に世界に広まった。
朝陽が〈準S級〉と呼ばれるようになったのは、それからだ。
いずれ七人目のSランクになるのも時間の問題と噂されている。
そんな彼女が特殊個体とはいえ、オークジェネラル如きに後れを取るはずもない。
「いま、なにをしたんだ? オークジェネラルが一撃で……」
なにが起きたのか分からず、呆然とする坂元。
夜見ですら分からなかったのだ。
誰一人として、朝陽の動きを見切れたものはいないだろう。
「ほんと、末恐ろしい子だよ」
これでもまだ、道半ば。いまも成長を続けていると言うのだから末恐ろしい。
Sランクに至る条件の一つ――
奇跡の力や〈領域結界〉または〈界〉とも呼ばれる能力。これだけの実績を持ちながら朝陽がSランクに認定されていないのは、能力の再覚醒に至っていないからだった。
逆に言えば、それ以外は条件を満たしていると言うことだ。
それだけに――
「日本初のSランクが誕生する日も、近いのかもしれないね」
新たなSランクの誕生が近いことを、夜見は予見するのだった。
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