第366話 生徒会パーティー
「おい、牛頭! こっちを向きやがれ!」
ミノタウロスを挑発する大石。
彼の全身鎧と盾はダンジョンで採掘された鉄鉱石から作られる魔力を帯びた鉄――魔鉄を鍛えた装備で、探索者であった父親の形見でもあった。
彼がタンクを志したのも父親の影響と、このスキル――
「
ユニークスキルに次ぐ
一見すると便利なスキルのように思えるが、自分よりも弱い相手には意味がない上、限界以上に能力を底上げする特性から身体に掛かる負担が大きい。余りに相手との力の差が離れている場合、自滅する恐れのある〈諸刃の剣〉とも言えるスキルであった。
それに、このスキルを発動している間はモンスターの
しかし、仲間を守るのが仕事のタンクにとって、モンスターのヘイトを集めることはデメリットではない。勢いよく振り下ろされたミノタウロスの斧を、盾で受け止める大石。地面に亀裂が走り、土埃が舞う中、盾から顔を覗かせるように剛志がミノタウロスの懐に潜り込む。
そして、
「〈
魔法で威力を高めた拳をミノタウロスの鳩尾に打ち込む。
東大寺剛志のスキル〈付与魔法〉は大石の〈
味方の能力を底上げするだけでなく、自身にも魔法をかけて身体能力を底上げすることが出来る。〈
「――
ミノタウロスの身体がよろめいた瞬間を狙って、味方に強化魔法を配る。
それを合図に重力魔法を放つ山田。
「
直径一メートルほどの黒球が杖より放たれ、ミノタウロスに直撃する。
最初に使用した重力波と比べれば威力は低く、効果範囲の狭い魔法だ。
しかし、それだけに使い勝手が良い。
仲間の動きを邪魔することなく、隙を作ることが出来るからだ。
「雷鳴一閃」
山田の攻撃に合わせて、最大の奥義を放つ雫。
鞘に収めた刀を雷のような速さで振り抜くと、ミノタウロスの身体が弾け飛ぶ。
天谷流の抜刀術とスキル〈疾風迅雷〉を掛け合わせた雫オリジナルの剣技だ。
疾風迅雷は全身に雷を纏うことで超人的な反応速度を得ることができるスキルで、身体強化系に属する稀少スキルの一つだ。
近接系のスキルのなかで最強の一角と評価されるスキルだが、それだけに扱いが難しい。身体能力だけでなく感覚も強化されると言っても、雷に迫る速度に適応できる人間は少ないからだ。
しかし、幼い頃から学んできた剣術と生まれ持った直感の鋭さで、雫はこのスキルを誰よりも使いこなしていた。
近接戦闘において、雫に勝る探索者はそういない。まだ経験と実績が足りていないだけで、ギルドの評価ではAランクにも匹敵する近接戦闘能力を雫は持ち合わせていた。
それでも――
「さすが、我等の会長様だな」
「油断しないで。手応えはあったけど……」
勝利を確信する大石を嗜める雫。
手応えはあった。首を刎ねるつもりで刀を振るったのだ。
しかし、
「会長、刀が……」
雫の刀が半ばから折れていた。
ミノタウロスの肉体の方が、雫の斬撃を上回ったのだ。
「こんなことなら、オリハルコンの刀を用意しておくべきだったわね」
自分でも無茶なことを言っているという自覚はあった。
探索者の装備の中で最も普及している魔鋼の武器でさえ、新車が買えるほどの値段がするのだ。オリハルコンのような稀少金属の刀ともなれば、学生に手の出る金額ではない。
しかし、そのくらいの武器でなければ、ミノタウロスの首を刎ねることは不可能だと悟ったのだろう。
「――――ッ!」
土埃がミノタウロスの咆吼で掻き消される。
ダンジョンが震えるような咆吼と共に吹き荒れる魔力の嵐。
まるで自己強化を行ったかのようなミノタウロスの変化に、剛志の頭に一つの可能性が過る。
「まさか
「嘘だろ!?」
「ミノタウロスが狂化するなんて聞いたことがないよ!」
仲間たちの戸惑う声が響く中、雫の額からは冷たい汗が零れ落ちるのだった。
◆
「……やっぱり上層だと手応えがないわね」
ダンジョンの上層を探索をする朱理たちの姿があった。
パーティー単位に分かれているとはいえ、常に一定の間隔を空けて教師がいつでも助けに入れるように監視を行っている。ダンジョンに不慣れでランクもEの生徒が多いため、三年生と違って教師が監督につくのは仕方がないことだと理解していた。
しかし、上層の適性はDランク以下だ。
Bランクの朱理からすれば、物足りなく感じるのだろう。
「でも、授業だしね。勝手な行動は取れないよ」
自分たちだけでダンジョンに潜っている訳ではない。
あくまで授業で参加している以上は、和を乱すようなことは出来ない。
朱理の気持ちは理解できなくもないが、我慢するしかないと言うのが夕陽の考えだった。
「でも、これだと連携の確認とかも難しいね。敵もゴブリンや魔狼ばかりだし……」
ゴブリンと言うのは、この〈鳴神ダンジョン〉に出現するモンスターのなかで最も数が多く、最弱とされるモンスターだ。魔狼はゴブリンよりも動きが素早く初心者には厳しい相手が、それでもDランクの探索者なら苦もなく倒せる程度の敵でしかなかった。
三人の中で一番ランクの低い明日葉でもDランクあるのだ。
上層の序盤に登場するようなモンスターでは相手になるはずもない。
「ほら、スライムもいるよ」
「ゲームなら一番の雑魚なんだろうけど、序盤に出て来て良いモンスターじゃないでしょ。あれ……」
スライムを見つけて指をさす夕陽に、げんなりとした表情を見せる明日葉。
物理的な攻撃手段しか持たない探索者にとって、スライムは天敵とも言えるモンスターだからだ。
と言うのも、スライムの弱点は身体の中心にある魔石なのだが、身体を構成する液体のようなものは取り込んだ物質を溶かす効果があり、魔力を持たない武器では触れるだけで簡単に溶かされてしまうのだ。
ダンジョン産の素材で作られた武器なら通用するが、それでもスライムの体液に触れると劣化は免れない。その上、スライムの核を壊すと魔石が手に入らず、近接攻撃しか持たない探索者にとって、最も相手にしたくないモンスターだった。
明日葉は攻撃魔法が使えないため、スライムが苦手なのだろう。
「
スライムに向けて人差し指を向けると、雷撃の魔法を放つ朱理。
指先から放たれた雷はスライムに直撃し、魔石だけを残してスライムは消滅する。
「ふふん、どう?」
「素直に羨ましい……。もう、スライム担当はあかりんでよくない?」
「いつの間にかその呼び方、定着しているわね……。あと、勝手にスライムの担当に任命しないでくれる?」
明日葉にスライム担当を命じられ、嫌そうな顔を見せる朱理。
パーティーでの探索がギルドで推奨されている理由は、相性の悪いモンスターに対して得手不得手を補うためだ。そう言う意味では、攻撃魔法を使える自分がスライムの対処をするのが効率的だと思う一方で、担当に任命されるのは複雑な気持ちなのだろう。
「なら、腕輪に攻撃魔法のスキルをセットしたらいいんじゃない? 確か各種属性の〈初級魔法〉が付与された
「……そう言えば、そんな機能があったわね」
夕陽に言われて、腕輪の機能のことを思い出す朱理。
余りに非常識な魔導具のため、出来るだけ頼らないようにしていたことから、すっかりと頭から抜け落ちていたのだろう。
「これ? ケースにビー玉みたいなのが幾つも入ってるけど」
「うん。左から二番目の奴だね」
明日葉が腕輪の空いているくぼみに魔法石を押し当てると、吸い寄せられるように魔法石がセットされる。
「それじゃあ、早速――」
「試すなら教師の目がないところでやりなさい。腕輪のことがバレると面倒よ」
「なら、もう少し奥に行く? どのみち、ここだと訓練にならないでしょ?」
「それもそうね。なら、先生に一言告げてから――」
ダンジョンの奥に向かう許可を貰おうと、朱理が教師に声をかけようとした、その時だった。
「誰か助けて! 会長が、みんなが――」
助けを呼ぶ声が、ダンジョンの奥から聞こえて来たのは――
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