第324話 ギャル無双
――放課後。
ロスヴァイセに頼んで、ギャルの妹を理事長室に呼んでもらったのだが、
「はじめまして! 夕陽の親友の久遠明日葉です」
おまけがついてきた。ギャルの妹の友達らしい。
着崩した制服やキラキラとしたネイルなど、如何にもギャルって感じの美少女だ。
髪が黄色がかったブロンドぽい色をしているので、黄ギャルとでも呼んでおくか。
「よく来てくれた。俺は――」
「先生!」
名乗り返そうとしたところで、ギャルの妹が話に割って入る。
突然どうしたのかとギャルの妹の方を見ると、
「先生はしばらく日本にいらっしゃるのですか?」
「ああ、一ヶ月くらいは滞在するつもりだが……」
「なら、是非うちにも寄ってください! お姉ちゃんやお祖母ちゃんも先生に会いたいと思うので!」
家に招待された。
どのみち顔をだすつもりだったから別に構わないが、様子がおかしいような?
焦っていると言うか、目が泳いでいる気がする。
「でも、寮住まいなんだよな?」
「あ、はい。でも週末は外出許可を貰って、家に帰っているので。お姉ちゃんも週末なら家にいると思います」
なるほど、そう言うことか。相変わらず仲の良い家族のようだ。
でも、レミルと同室なんだよな?
「レミルは週末どうしているんだ?」
「レミルちゃんなら、いつも週末はうちに泊まってご飯を食べていますよ?」
「ユウヒの家のご飯はどれも美味しいのです」
なんとなく察してはいたが、物凄くお世話になっていた。
どれも美味しいのですって……レティシアみたいなことを言っていないで、ちょっとは遠慮しろ。
「レミルが迷惑を掛けているみたいで悪かったな」
「迷惑だなんて、とんでもない! お祖母ちゃんもレミルちゃんが家に来るのを毎週楽しみにしているんですよ。だから、お気になさらないでください。それに、このくらいでご恩を返しきれないくらい皆さんには、よくしてもらっていますから」
そう言えば、ギャルの家族が暮らしている都内のマンションは、レギルが用意したんだったな。
とはいえ、感謝されるほどのことをしたとは思っていない。ギャルを〈トワイライト〉に所属させ、スタンピードの英雄に仕立てたのはレギルだからだ。ようするに会社のイメージ戦略に利用したと言うことだ。
だから、お互い様なんだよな。
むしろギャルの家族には、こちらの都合で不便をかけていると思っていた。
「なら、お互い様と言うことにしておくか。」
とはいえ、それを言ったところで彼女は納得しないだろう。
家族のためにアルバイトがしたいと、俺に相談してきたくらいだしな。しかし、当時はまだ十四歳だったこともあり中学生にアルバイトをさせる訳にもいかず、魔法薬の作り方を教えてやったと言う訳だ。
作った薬を〈トワイライト〉に卸せば、それなりの収入になると考えてのことだった。
「そう言えば、あれから少しは上達したのか?」
「あ、はい。先生に見て貰おうと思って、これを……」
鞄から液体が入った一本の瓶を取り出し、テーブルの上に置くギャルの妹。
瓶を手に取って〈解析〉を試みてみると――
「ほう……これは自分で作ったのか?」
「は、はい。まだ、そんなに数は作れませんが……」
霊薬だった。
本人は謙遜しているが、俺が渡した魔導書をしっかりと読んで毎日練習していたのだろう。そうでなければスキルの補助があるとはいえ、霊薬を作れるようにはならない。
俺も最初は苦労したからな。
「霊薬が作れると言うことは、簡単な魔導具も作れるようにはなったのか?」
「それはまだ……何度も読み返して、出来ることはすべて試してみたんですが……」
そう言って、前に俺が預けた魔導書――錬金術の入門書を見せてくる。
本の状態を見れば分かる。本当に何度も何度も読み返したのだろう。
付箋がつけられ、メモ書きのようなものが本の間に幾つも挟まれていた。
「ここに書かれていることは、すべて覚えたのか?」
「はい」
基礎的な知識は既に身についていると言うことか。
それに霊薬を作れるのなら、次のステップに進んでも良さそうだな。
「なら、俺が見てやろう。魔導具製作の基礎を叩き込んでやる」
「本当ですか!?」
「ああ、約束だしな」
この本を全部覚えたら魔導具の作り方を教えてやると約束したしな。
俺は約束したことは必ず守ると決めている。
それに教え子から教わることもあると、過去の世界で学んだからな。
ギャルの妹に錬金術を教えることで、また違った錬金術の可能性が見えてくるかもしれない。
最近少し研究が行き詰まっていたし、良い息抜きにもなるだろう。
「あの……二人だけの世界に浸っているところ申し訳ないんだけど、アタシもいること忘れてない?」
「あ……」
ギャルの妹と声が揃う。
そう言えばそうだったと、黄ギャルがいたことを思い出すのだった。
◆
「良い友達を持ったな」
「ユウヒは良い人間なのです。ご飯をくれるし、おやつも分けてくれるのです」
良いところが食べ物ばかりじゃないかと思ったが、敢えてそこはツッコむまい。もうレティシアで慣れたしな。しかし、良い友達を持ったというのは、本心からの言葉だ。俺自身、少し後悔していることがあるからだ。
もっと積極的に他人と関わるようにしていれば、と思うことがある。
大学で自分の研究成果を他人に奪われたと知った時、正直に言うと悔しかったし悲しかった。誰も俺の話を聞いてくれず、味方をしてくれる人は一人もいなかったからだ。
だが、それは自分で撒いた種でもあると考えていた。
人間関係を煩わしく思い、避けてきた俺にも原因があるからだ。
だからレミルには、自分のような失敗をして欲しくはなかった。
困った時に味方になってくれる。辛い時に相談に乗ってくれる。そんな友達を作って欲しかったのだ。
「レミルちゃん、ちょっといい? 相談しておきたいことがあるんだけど」
「友達が呼んでるぞ? 俺はどこにも行かないから行ってやれ」
「……絶対どこにも行かないのです?」
「絶対だ」
「わかったのです」
ロスヴァイセが注意しても俺から離れなかったのに、あっさりとギャルの妹のところに走って行くレミル。ギャルの妹はレミルのなかで、それだけ特別な存在になっているのだろう。
信頼できる友達ができたのは、本当に良かったと思う。
寂しいような嬉しいような少し複雑な気持ちではあるのだが――
「夕陽の先生」
タイミングを見計らっていたかのように声をかけてくる少女。
ギャルの妹の友達の黄ギャルだ。
どことなく悪戯ぽい笑みを浮かべ、上目遣いで――
「黄昏の錬金術師」
俺の黒歴史を口にする。
どこでそれを――と思い動揺するが、
「その反応、やっぱりそうなんですね」
「……いつから気付いていたんだ?」
「最初からです。夕陽は上手く隠しているつもりみたいだけど、反応を見ればバレバレでしたから」
ギャルの妹の友達なのだから、ギャルから話を聞いていても不思議ではないか。
ギャルの妹の反応がおかしかったのは、恐らく姉を庇っていたのだろう。
あれほど、人の黒歴史を広めるなと釘を刺しておいたのに……。
妹にまで心配させるとか、どうやら説教が足りなかったようだな。
「夕陽の足を治療したのって、先生なんですよね?」
「周りには、どう伝わってるんだ?」
「妹の足の治療のために、お姉さんが〈トワイライト〉と契約して譲り受けたことになっていますね。でも、先生の話は夕陽からずっと聞かされていましたから、すぐに嘘だって分かりました」
鋭い洞察力だ。それだけ、友達のことをよく見ているのだろう。
親友を名乗るだけのことはある。となれば、誤魔化すだけ無駄か。
別に隠している訳でもないしな。
「ああ、俺が〈霊薬〉を譲った」
「そっか。うん、ありがとうございます」
「……礼を言われるようなことをした覚えはないぞ?」
霊薬はギャルに譲ったものだ。
それをギャルがどう使おうとギャルの自由だ。
ましてや、ギャルの妹の友達に御礼を言われる理由がなかった。
「先生が夕陽の足を治してくれなかったら、夕陽と知り合うことはなかった。友達になれなかったと思うし、こうして一緒に探索者を目指すこともなかったと思うんだよね。だから、アタシにとっても先生は恩人かなって」
どういう理屈だ。筋が通っているようで無茶苦茶だ。
「とにかく、感謝してるってこと。それを伝えたかっただけだから――あ、先生の正体は誰にも言わないから安心して。こう見えて、アタシは口が堅いことで評判だからね」
そう言って、レミルとギャルの妹のところに走っていく黄ギャル。
なにを考えているのか、さっぱり分からん。
やはりギャルは苦手だと、再確認するのだった。
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