第288話 神造兵器
「……
「はい。私も実物を見るのは初めてですが……」
女王ね。ようするに特殊個体ってことか。
あの大きさだものな。女王と呼ばれるだけのことはある。
てか、アカシャもレアならレアがでたと言ってくれたらいいのに……。
『マスターなら、どちらでも結果は変わらないと思いまして』
『いや、結果は変わるだろう? レアだぞ。ってことは、もっと良い素材を落とすってことだろう?』
『……そうですね』
結果が変わらないなんて、とんでもない。これは大きな差だ。
より良い素材が手に入れば、それだけ魔導具の研究が捗るってことだ。
まだまだ作りたいと思っている魔導具の構想はあるのだが、イメージ通りの魔導具を作るには技術的な問題だけでなく必要な素材が足りないからな。
未知の素材。それも特殊個体の素材となれば、心が躍らないはずがない。
「カラドボルグ――」
ここ最近レア素材を取り逃しているので、なんとしてもゲットしておきたい。
黄金の蔵から以前に使用した〈
実用データが取れたこともあって、実はあれから少しずつ改良を加えていたのだ。
これを――
「〈
必要な素材を選択し〈分解〉と〈再構築〉を使って〈カラドボルグ〉に組み込む。
「ご主人様。それは……」
「魔導電磁砲〈カラドボルグ〉だ。レールガンって言っても分からないか。ようするに魔法の槍を撃ちだす大砲みたいなものだな」
撃ちだす槍も勿論、普通の槍じゃない。
全長十メートルほどの巨大な槍。その素材にはアダマンタイトを使用している。
魔力の伝導効率が悪いアダマンタイトだが、頑丈さはオリハルコンを凌ぎ、すべての鉱物のなかで最強と呼べる素材だ。だからこそ、大砲の
まあ、弾じゃなくて槍だけど。
「
更に魔法式を〈拡張〉し、聖気に対応するようにスキルを統合する。
この〈カラドボルグ〉には〈雷霆万鈞〉と〈正射必中〉の二つのスキルが既に組み込まれている。ここに聖気を〈解析〉することで新たに〈構築〉したスキルを組み込む訳だ。
その名も――
「――
カラドボルグの砲身が青白いオーラを放ち始める。
どうやら成功したみたいだな。
あとは
「エネルギーの充填を開始。十、二十……」
本体に手を添え、星霊力と闘気を融合して生みだした聖気を注ぎ込む。
砲身からバチバチと青い雷が迸り、聖気が満ちていくのが確認できる。
相変わらず燃費が良いとは言えないが、前回よりも余裕があるな。俺自身の魔力量が増えていることも理由にあるだろうが、生命力で補完している分、恐らく普通に星霊力を使うよりも聖気の方が燃費が良いのだ。
セレスティアも星霊力を使い過ぎると肉体への負荷が大きいと言う話をしていたし、星霊力を闘気で補うことで身体に掛かる負担を減らした戦闘技術の正体が聖気なのだろう。
俺の場合、その辺りの心配はしなくても良いのだが――
なにせ魔力炉があるし、身体への負荷についても力を上手くコントロールしてやればいいだけの話だ。余剰分の魔力を身体の外に纏わせ、留まらせることも出来るので肉体への負荷も心配する必要はない。
まあ、今回はその心配をする必要もなさそうだが――
なにしろ凄い勢いで聖気が吸収されていく。
「八十五、九十――」
とはいえ、そろそろ限界だな。これ以上は、砲身が保たない。
標的は〈
完全に消滅させてしまっては、また素材を得られないかもしれないからな。
「――フルチャージ完了。
前回の失敗を教訓に可能な限り効果範囲を絞って――
「
青い雷を帯びた巨大な魔槍を発射するのだった。
◆
「まったく……これだから楽園のメイドは……」
油断がならないと、ガブリエルは苦々しげな表情で今の気持ちを吐露する。
ヘルムヴィーゲの〈影の世界〉によって用意した艦隊は全滅。
サマエルと共に召喚された眷属の半数が海の藻屑と化してしまった。
「だけど、まだ半数は残っている。これだけいれば……」
島の人間を全滅させるくらいのことは出来る。
そう確信するガブリエルであったが、目を瞠ることになる。
空に浮かぶグリーンランドの姿が目に入ったからだ。
「まさか、もうヘルメスの遺産を!?」
想定外と言った驚きを見せるガブリエル。
気付いていなかったのだろう。いや、そもそも想定しろと言う方が難しい。
椎名がグリーランドに入って、まだ一日しか経っていないのだ。
その一日で〈
これはガブリエルが悪い訳ではない。椎名が規格外なだけだ。
それに――
「くそ! まさか、ヘルメスの遺産がこんなものだったなんて……」
ヘルメスの遺産の詳細について、ガブリエルも知らなかったのだ。
島に〈方舟〉が眠っていることは分かっていたが、それ以上の情報はガブリエルも与えられていなかった。
方舟という名前から船のようなものが封印されていると思っていたのだ。
なのに島が空を浮くなんて、想像ができるはずもない。
「いや、これは本当にヘルメスの遺産の力なのか?」
もしかしたら〈楽園の主〉の力なのでは、とガブリエルは考える。
考えたくはないが〈楽園の主〉の力は想像を絶している。
一度、その力を目の当たりにしているからこそ分かるのだ。
あれは人ではない。神に近いなにかだと――
「だが、こっちにはサマエルがいる。幾ら〈楽園の主〉でも……」
サマエルを倒せるはずがないと、自分に言い聞かせるガブリエル。
サマエルは普通の〈
世界に死を告げる災厄。ガブリエルと同じ天使の名を冠しながらも、神の手で時空の狭間に封印された神造兵器――それがサマエルの正体であった。
神が創造した兵器だ。
神の如き力を持っていようと、真なる神が創造した生体兵器に敵うはずがない。
「そうだ。敵うはずがない! 真なる神の力に、紛い物の神が――」
手に入らないのであれば、ヘルメスの遺産は破棄する。それが組織の決定だった。
この作戦をガブリエルが引き受けたのは、名誉を挽回するためだ。
レッドグレイヴを傀儡とする計画が阻止されたばかりか、同じく各国に潜り込ませていた組織の工作員が特定され、密かに世界を裏から支配するために進めていた計画が破綻の危機に陥っていた。
すべて楽園の介入によって、もたらされた結果だ。
何十年と時間をかけて進めてきた計画が、僅かな時間で破綻させられたのだ。
ガブリエルが楽園に対して報復を考えるのも無理はない。
だが、なによりこの作戦に失敗すれば、ガブリエルの組織内での立場は厳しいものとなるだろう。
ガブリエルが真に恐れているのは〈楽園の主〉ではない。人類の歴史を陰ながら見守り続けてきた神の代行者にして、魔術結社〈
だからこそ、失敗は許されない。
そのために危険を冒してサマエルの封印を解き、呼び寄せたのだ。
「島ごと海の藻屑と化すがいい!」
サマエルの力に絶対の自信があるのだろう。
それも当然で、サマエルには魔力どころか、星霊力も通用しない。自身を封印した創造主への
「これで終わり……だ……は?」
しかし、そんな勝利を確信した直後――
ガブリエルはサマエルと共に青白い光に呑まれるのだった。
◆
「…………え、ええ……」
楽園のメイドたちと合流し、虫の襲撃に備えて防衛ラインを構築していたところ物凄い爆音と共に青白い光が島から放たれ、巨大な〈
それだけなら椎名がやったことだと納得は出来るのだが――
「海が消えるとか、冗談でしょ……」
レティシアが困惑するのも無理はなかった。
着弾した箇所が、まるで空間ごと切り取られたかのように消失したのだ。
海に数キロに及ぶ巨大な
島に向かっていた虫の群れも巻き込まれ、その数を更に減らしている。
これならオルタナと〈
「さすがはご主人様ですね」
「テレジアはぶれないね……」
この光景を前にして恐怖を感じるどころか、主の力を称賛するテレジアにレティシアは感心する。
しかし、〈楽園の主〉の力に心酔しているのはテレジアだけではなかった。
「うわあ……やっぱり私たちのご主人様は凄いね」
「ええ、まさに神の奇跡です」
ベリルとアクアマリン。楽園のメイド全員が感動を隠しきれない様子で、うっとりとした表情を浮かべていた。
自分たちの主の力を目の当たりにして、興奮するのも頷ける。
(この力を見た人間たちが、余計なことを考えなければいいけど……)
だが、レティシアの反応は違った。
大きな力は抑止力となるが、同時に人々の心に恐怖を植え付ける。
その恐怖は疑心を生み、悲劇を招くこともある。
そのことを〈勇者〉の称号を持つレティシアはよく知っているからだ。
「え……あれって!」
なにかに気付き、大きな声を上げながら海の方を指さすベリル。
海面に出来た巨大な孔の中から、ゆっくりと浮上する巨大な影の姿があった。
「
ありえないと言った表情を浮かべながら、その名を口にするアクアマリン。
カラドボルグの直撃を受け、消滅したはずの〈
神造兵器サマエルの姿がそこにはあった。
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