第278話 復元
「オルタナが
エミリアに指摘を受けるまで、そんなこと考えたこともなかった。
「彼女って
もっともな疑問だった。
俺は生きているとか生きていないとか、余り深く考えたことがなかったしな。
そんなことを言ったら、ホムンクルスたちも造られた存在に違いはないからだ。
ただまあ、エミリアの疑問に対しての答えはある。
「オルタナはただの〈
「……それって、テレジアさんみたいに元は人間ってこと?」
「いや、違う。人間の細胞を培養し、機械と融合させた存在と言った方が正しい」
オルタナがどことなく金髪美少女に似ているのは、〈霊核〉と同じでモデルになった〈勇者〉の生体組織が利用されているからだと俺は考えていた。
霊核を元に製造するというプロセスは同じだが、ホムンクルスとは違ったアプローチの技術だ。
「なるほど……だから人間そっくりなのね」
「ああ、だから子供も産めるぞ」
「え……」
俺の説明に納得しながらも、これは想定していなかったのか、驚くエミリア。
まあ、〈
そうでなければ、これだけの技術力があるのだ。
態々、人造人間なんてものを造らずともホムンクルスを製造した方が効率が良い。
だが、ホムンクルスは子供を産むことが出来ない。だから子を宿せる人造人間を開発したのだろう。
「そのことをオルタナは?」
「自分の身体のことだし、知っていると思うぞ?」
とはいえ、子供を産めると言ってもオルタナの見た目はレミルや金髪美少女と同じくらいだしな。手をだせば犯罪だ。
人間じゃないので犯罪にはならないのかもしれないが、倫理的にアウトだろう。
なにを考えて少女の見た目にしたのか分からない。
レミルの時みたいに予期せぬ問題が発生した可能性は否定できないけど。
最初はレミルも二十歳前後の見た目を想定していたんだけどな。
「そんなものが作れるなんて……相当に技術の進んだ世界だったみたいね」
「ああ、まさに未来都市みたいな光景が広がっていたんじゃないか?」
「でも、そんな世界でも滅びた」
エミリアがなにを言いたのか、分からない訳ではなかった。
このままダンジョンを放って置けば、この世界も同じ未来を辿るかもしれないと危惧しているのだろう。
「正直に答えて。椎名ならダンジョンを消せる?」
「
嘘は吐いていない。少なくとも今の俺には無理だ。
そのために〈
それにダンジョンを消すつもりは、いまのところ俺にはなかった。どうしようもなくなった時の最終手段として考えているだけで、ダンジョンがなくなれば別の問題が発生すると分かっているからだ。
俺が錬金術師だからかもしれないが、利用できるものは上手く利用すればいいと思っている。
道具は使ってこそ道具だ。
ダンジョンも上手く付き合っていけば、得られる恩恵は大きいしな。
「いまは、ね。準備はしていると言うことね。なら、私から言うことはないわ」
「いいのか?」
「ええ、どのみち私にはどうすることも出来ないし、判断はシーナに委ねるわ」
責任重大なことを押しつけられた気がするが、やることに変わりは無い。
世界の滅亡と天秤にかければ、ダンジョンを封印するか消すしかないからだ。
だから、その前にダンジョンの秘密を解き明かす必要がある。それが、いま俺が考えていることだった。
地球や人類のためと言うより、楽園を失う訳にはいかないからな。自分一人で生きていける自信はないし、なにより引き籠もり生活が出来なくなるのは困る。これも、いまの生活を守るためだ。
とはいえ、〈
「ところで、シーナ。さっきから、なにをしているの?」
俺がしている作業が気になったようで尋ねてくるエミリア。
いま俺は例の〈白い部屋〉を模して作られた〈方舟〉の
世界樹の件はどうにかなったし、問題だった〈
なので、
「世界樹の問題も解決したし、新しい力を使えば〈方舟〉を元通りに出来るんじゃないかと思ってな」
「……え?」
その力を使って〈方舟〉を再起動しようと試みていた。
それは――
「〈
◆
カドゥケウスに元々備わっていた〈
あれは呪いや瘴気を浄化するだけだったが、この〈復元〉の能力は違う。
俺の〈
それに回復魔法のように怪我だけを治療したり、死者を蘇らせるような力はない。この能力に可能なのは、あくまで〈復元〉だからだ。
壊れた魔導具を元通りにしたり、消失した魔法式を〈復元〉することも出来る。
そして〈拡張〉と併用すれば、この〈方舟〉のような巨大な都市も――
「オルタナ、どうだ?」
「はい、マスター。都市機能の回復を確認しました。全区画が使用可能です」
このように元通りと言う訳だ。
世界樹で実験済みだったとはいえ、上手くいって良かった。
ちなみに世界樹の種が成長した理由もこれだ。止まっていた時間が〈復元〉され、世界樹の成長に繋がったと言う訳だ。
一万年以上の歳月が一気に進んだのなら、もう少し成長しても良かったと思うのだが、イズン曰く特に遅い成長とは言えないらしい。世界樹の成長速度は環境に左右されるそうで、イズンが二万年ほどであれほどの大樹に成長したのはダンジョンのなかで育ったというのが理由として大きいようだ。
あと、これは不可抗力なのだが、おまけも付いてきた。
「ありえぬ……クロノスの力を使いこなし、我を〈復元〉したと言うのか? 失われたはずのデータまで……」
頭を抱える褐色美女。第三のヘルメスこと〈博士〉だ。
と言っても、彼女の本体は〈方舟〉に保存されているデータだ。
ここにいるのは魔力で構成された魔力体で、召喚された精霊のような状態にある。
アイリスと同じような状態だな。だから〈方舟〉から離れることは出来ない。
「そんなに驚くようなことか?」
「驚くようなことじゃ! 御主、自分がどれだけ非常識なことをしたのか理解しておらぬのか!?」
非常識ってほどでもないと思うのだが?
そもそも俺の力じゃなくて〈カドゥケウス〉と〈
「もう、よい……御主がどれだけ非常識な存在か理解した」
「マスターですから当然かと」
「オルタナもすっかりと毒されておるようだしの……」
オルタナは目覚めた時から、こんな感じだったと思うけど……。
なんでも、俺の所為にしないで欲しいと思うのだった。
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