第276話 聖気
「どうして、そう思ったんだ?」
「若様。私の持つ魔眼のことをお忘れですか?」
そう言えば、〈
それで先代に変装しているのが、一目で見破られたんだよな。
「もしかして……」
「はい。オルタナとクロエの魔力の波長がそっくりです」
理由は分かった。恐らくそれはオルタナに使用されている霊核が原因だ。
レティシアが似ていると言うレベルだと、ほぼ同じと言って良いだろう。
だとすると、レティシアの言っていることが的外れとは言えなかった。
しかし、金髪美少女が〈勇者〉の血筋ね。
ありえないとは言い切れないのが困ったところだ。
実際、この世界の人間は異世界から移住してきた人々だと判明している。
「〈勇者〉の血筋は途絶えたって話だったよな?」
「はい。少なくともオルタナの知る限りでは、そうなっています」
知る限りね。
と言うことは、オルタナが把握していないだけで、勇者の血統がまだいて地上を目指した人々のなかに含まれていた可能性は否定できないと言う訳か。しかし、一万年以上も昔の話だ。
血が途絶えていないのだとしても、もう区別がつかないくらい血は薄れているはずだ。
いまになって、どうしてという考えが頭を過るが――
「……ダンジョンが原因か?」
「私も同じことを考えました。スキルに覚醒したことで、眠っていた〈勇者〉の血が活性化したのかと」
レティシアも同じことを考えていたようだ。
まさか、あの英雄に憧れているだけの少女が、本物の勇者だったとはな。
本人が聞けば、喜びそうな話ではあるが――
「危険はないのか?」
「危険ですか……聖気を使える資質はあると思いますが、訓練もなしに使いこなせるほど甘い力ではないので。ああ、でも何かを切っ掛けに〈聖気〉を使用するようなことになると、暴走の危険はあるかもしれません」
そういう力って使いこなせないと、諸刃の剣になるような話が多いからな。
嫌な予感がして尋ねてみれば、案の定だった。
セレスティアも力のコントロールが苦手みたいで、全力をだすと莫大な星霊力に身体が蝕まれ、命を落とす危険があると言っていたし……。
「悪いんだけど、聖気の使い方を教えてやってくれるか?」
「私は別にいいですけど、よろしいのですか?」
「別に構わないだろう?」
門外不出とかの理由で教えることが出来ないのならともかく、暴走する可能性があると分かっているのなら、その前に力のコントロールを学ばせればいい。普通のことを言っただけだ。
なにを不思議そうな顔をしてるんだ。
「わかりました。若様が良いなら、クロエに聖気の使い方を教えますね。後進を導くのも〈勇者〉の務めですから」
一応、そういう後進の育成はちゃんとやってるんだなと感心する。
しかし、これまで気にしてこなかったが、改めて聞くと〈勇者〉って何なんだろうな?
特に〈聖気〉については、よく分かっていない。
魔力と異なる不思議パワーって言うのは分かっているのだが――
「もう一つ頼みがあるんだけど、〈聖気〉を使っているところを見せてくれないか?」
「え……」
俺の頼みが意外だったのか、戸惑う顔を見せるレティシア。
どうしてこんな頼みをしたかと言うと、勇者にしか使えない力と言うのが、いまひとつ理解できなかったからだ。
というのも、魔力は星霊力が元になっている力だ。だから星霊力から魔力を作れるなら、逆も可能と言うことになる。実際、俺は魔力を星霊力に変換することに成功している。
そもそも、人間の魂が魔力を蓄えることが出来るのは〈星の記憶〉に繋がっているからだと俺は考えていた。
魂の器の大きさが、魔力量やダンジョンで得られるスキルに影響していることからも、ほぼこの仮説に関しては確信がある。
そのことからもレティシアの言うように〈聖気〉が勇者にしか使えない力で、魔力や星霊力とも異なる力なのだとすれば、それは〈星の記憶〉に由来しない力と言うことになる。
そのことが、ずっと引っ掛かっていたのだ。
「マスターがお望みでしたら構いませんよ」
レティシアに見せてくれと頼んだら、オルタナから返事が返ってきた。
そう言えば、ガイノイドとはいえ〈勇者〉を模倣して造られたならオルタナも〈聖気〉を使えるのか。
オルタナの身体が青白い光を放ち始める。
「これが〈聖気〉か」
「はい。いまは出力を十パーセントほどに抑えていますが」
レティシアはもっと凄かったしな。
たぶんオルタナも本気をだせば、あのくらいの力はだせるのだろう。
確かに魔力や星霊力とは違うようだ。しかし、これって――
「ちょっと調べさせてもらうぞ? ――
オルタナに〈解析〉を使用すると、やはりスキルは問題なく通るようだ。
以前から何度も言っているが、俺のスキルは魔力を伴うものであれば、どんなものにでも効果がある。逆に言えば、魔力を持たない無機物なんかには通用しないと言うことだ。
これは恐らく〈星の記憶〉から情報を読み取っているからだと俺は推察していた。
「なるほど、これが〈聖気〉か」
「え、若様……それって……」
「ん? なんか違うのか?」
試しに〈聖気〉を再現してみたのだが、なにか違ったのだろうか?
仕組みが分かれば、再現は難しくないと考えていたしな。
問題は〈解析〉が可能かどうかだったのだが、アカシャの言うように〈星の記憶〉が本当に
『当然です。私に知らないことはありません』
はいはい、分かっていますよ。
しかし、やはり〈聖気〉は
魔力が魂に宿る力なのだとすれば、
その闘気を星霊力に混ぜて一つの力に融合させたもの。それが聖気の正体だった。
ちなみに俺は
もっと難しいのかと思っていたが、これで上手くいくのだから金髪美少女も心配は要らなそうだな。あとのことはレティシアに任せようと考え、俺は〈方舟〉の件に集中することにするのだった。
◆
(ありえない……)
椎名が〈聖気〉を使用したことにレティシアは驚きを隠せずにいた。
それは彼女の常識では、絶対にありえないことだからだ。
聖なる気とは、
どちらか片方だけであれば、使える人間は存在する。しかし、その二つを融合し、同時に使用することは普通の人間には出来ない。星霊力を使えることが条件の一つにあるが、星霊力と
それが、〈勇者〉に求められる適性だった。
反発を起こさず、星霊力と融合させることが出来る特殊な
だから、椎名がその闘気を使えるはずがなかった。
なのに〈勇者〉の力を使えると言うことは、答えは一つしかない。
(若様が〈星霊力〉を使えるのは〈巫女姫〉の適性があるからじゃない。若様も〈勇者〉の血を引いている。だからクロエに教えてもいいと言ったのね……)
自分も〈聖気〉を使えるのだから〈勇者〉を脅威に感じるはずもない。
それに椎名は錬金術師だ。仮に〈勇者〉が敵に回ったとしても既に対策を考えている可能性が高いと、レティシアは考え――
(若様が人類を滅ぼすと決めたら、私には止められないかもしれない)
そんな日が訪れないことを祈るのだった。
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