第267話 第二のヘルメス
種類的には、アイスドラゴンだと思う。
属性系のドラゴンはダンジョンでも珍しく特定のエリアにしか出現しないので、かなり
「アイスドラゴンか。珍しいな」
「アイスドラゴンだと? あのようなトカゲなどと我を一緒にするな」
それよりも、もっとレアな特殊個体だったようだ。
喋るドラゴンを見るのは、レミルたちと〈
しかし、
「俺から見れば、同じようなものなんだけど……気を悪くしたなら謝るよ」
「……御主、まったく悪いと思っておらぬだろう」
バレたか。そもそもモンスターはモンスターだしな。
人間の言葉を話そうが人類の敵で、分かり合うことも共存も出来ない存在だ。
俺には、稀少な素材を落とすモンスターにしか見えない。
とはいえ、
「
「ほう、すぐに気付くとは……オルタナに認められただけのことはある」
最初から違和感があった。
最初は転移を疑ったが、地上にドラゴンなんている訳がないしな。かと言って以前のように〈時空間転移〉で異なる世界に跳ばされたのだとすれば、今回だけ〈白い部屋〉を経由しないのは妙だ。だから精神だけが〈方舟〉のシステムに取り込まれたのだと察したのだ。
ようするに〈
「お前はシステムが作り出した
「……システムが作り出したまやかしとは言え、我は神竜だぞ?」
「だから、喋るトカゲだろ?」
ぬか喜びさせられてドロップ品が期待できないと思うと、面倒臭くなってきた。
俺はレミルみたいに狩りが好きな訳でも、戦いが好きな訳でもないしな。
俺がモンスターと戦う理由は、あくまで錬金術の素材になるからだ。
モンスターと会話する趣味もないしな。
「面白い! 我を前にして、その傲岸不遜な態度! はったりでないと証明してみせよ!」
このくらいの挑発に乗るとか、やっぱり所詮はモンスターだな。
大きな口を開け、氷のブレスを吐いてくるドラゴン。現実ならそれなりに脅威なのかもしれないが、ここが精神世界だと分かれば対応は難しくない。
魔法で構築された精神世界は、謂わば夢の国――
魔法において最も重要なのはイメージだと、俺は考えている。イメージを具現化したものが魔法で、スキルは誰でも同じ魔法を再現できるプログラムのようなものだと考えていた。
ようするに、なにを言いたいかと言うと――
「バカな――我がブレスを受けて無傷だと!?」
現実のような手間をかけずとも、ここではイメージがそのまま具現化されると言うことだ。
無傷の俺を見て驚いているようだが、レミルを作ったのは俺だ。
娘のスキルを把握していないはずがないし、これまで一度も研究しなかったと思う方がおかしい。
この手のスキルについては、誰よりも詳しい自信がある。
だから、当然その弱点や対策も熟知していた。
「
幻想を想像で上書きする。
精神の世界ではイメージがすべてで、より具体的で強固なイメージの方が勝つ。
即ち、
「空間が崩壊しただと……まさか、システムを上書きしたのか。ありえん」
空間がガラスのように砕け散り、周囲の景色が白く染まる。
俺のイメージを
しかし、本当によく喋るトカゲだ。
驚き方もワンパターンだし、仮にもボスモンスターならその反応はどうなんだ?
いい加減、飽きてきたし、そろそろ終わらせようと――
「デスト――」
ドラゴンに〈カドゥケウス〉の尖端を向けた、その時だった。
「ま、待て! 待つのだ!」
命乞いをするかのようにドラゴンが待ったをかけたのは――
どこまでも情けないドラゴンの姿に呆れていると、
「ドラゴンって……人間に化けることも出来たのか?」
「違う! こっちが我の本来の姿じゃ!」
白い光を放ち、二十代半ばくらいの褐色美女に変化するのだった。
◆
「御主、この世界ごと我を消し去るつもりだったじゃろう?」
「ああ、ここからでるには一番それが手っ取り早いと思って」
素材もドロップしないドラゴンを相手にするのなんて面倒だし、ここが精神世界のようなものなら世界ごと〈分解〉してしまった方が手っ取り早いと思っただけだ。
魔法で構築された世界なら、スキルを使えば〈分解〉は可能だしな。
以前なら少し難しかったかもしれないが、いまなら出来るという確信があった。
レミルの〈
「そんなことをすれば〈方舟〉のシステムごと破壊することになる。この空間はただの精神世界ではない。〈神の座〉を再現した〈方舟〉の管理システムそのものなのじゃからな」
「神の座? あの〈白い部屋〉のことか? なるほど……確かにシステムを破壊してしまうのは困るな。〈再構築〉が手間だし……」
「再現できるような代物ではないのだが……もう、なにも言うまい。御主には十分、
ブツブツと独り言を呟く褐色美女。
頭に角は生えていないが、過去の世界で出会った褐色美少女によく似ている。
褐色美少女に白衣を着せて十年くらい成長させれば、こんな感じになるのではないかと言った感じの美女だ。
しかし、
「いま我って言ったか? ってことは、アンタが〈博士〉なのか?」
「うむ、我こそ第三のヘルメスじゃ。と言っても、システムに保存された
博士と聞いて、白髭を生やした老人をイメージしていたので意外だ。
オリジナルの
ようするにアカシャの同類と言うことだ。
「コピーってことは、オリジナルはどうしたんだ?」
「ここに我がおるのが答えじゃ」
既に亡くなっていると言うことか。
この船の設計者なら会ってみたかったのだが、残念だ。
まあ、こうしてコピーを残してくれただけでも、よしとするか。
いろいろと話を聞けそうだしな。
「しかし、御主……彼奴の親族かなにかか?」
「……誰のことだ?」
「第二のヘルメスじゃ。あの女に似ておる気がしての。そのマイペースで無茶苦茶なところとか、面倒臭くなったら力押しで解決しようとするところとか、目元や雰囲気も似ておる気がするの」
失礼な。そんな非常識な人物と一緒にしないで欲しい。
人付き合いが得意ではないと言う自覚はあるが、これでも常識はあるつもりだ。
多少は強引だったと思うが、それは相手がモンスターだったからだ。
相手が人間だと分かっていれば、話くらいは聞いていた。
「まあ、よい。御主は試練に合格した。これより〈方舟〉のマスターは御主じゃ」
そう言うと、褐色美女の身体が徐々に薄くなっていく。
「え、消えるのか?」
「言ったであろう。ここにおる我は試練のために用意された残滓に過ぎぬと。役目を終えれば、消えるのみじゃ」
想定外だ。まだ、いろいろと聞きたいことがあったのに――
「なら、最後に一つだけ教えてくれ。ダンジョンを造ったのは、アンタなのか?」
完全に消えてしまう前に、ダメ元で質問をする。
ダンジョンを造った神と、教会の崇める神が同じである可能性は以前から考えていた。しかし、それだと自分たちの作ったダンジョンに故郷を滅ぼされ、島ごと転移してきたと言うことになる。
それが、どうしても腑に落ちなかったのだ。
「ダンジョンを造ったのは第一のヘルメス――〈神の子〉と呼ばれた男じゃ」
そう最後に言い残し、褐色美女は俺の前から姿を消すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます