第264話 ガイノイド
普通の
所謂、ガイノイドと言う奴だ。〈解析〉を使用してみる。
「アダマンタイトを使用しているのか」
アダマンタイト。別名〈神鋼〉とも呼ばれる神の鋼で、ダンジョンで採れる鉱石のなかで一番の強度を誇る鉱石だ。ただこれ、とにかく頑丈なことが取り柄のような金属で加工が難しく、ミスリルやオリハルコンと比べると魔力の伝導効率が良くないのだ。
だから錬成に手間が掛かる割には、魔導具の素材には向いていないんだよな。
それを
「アダマンタイトですか。武具に使われる素材のなかでは最高級の素材ですが……」
シキの言うように、アダマンタイトが武具の素材に使われる理由は単純で頑丈だからだ。
近接用の武器や防具には適した素材だが、魔力の伝導効率が悪いと言うことは魔法との親和性が低いと言うことでもあるので、たいしたスキルを付与できないという欠点があった。
魔導具もそうだが、魔剣の素材にも向かないことから〈黄金の蔵〉に在庫が大量に余ってるんだよな。しかし、それを〈
メイドたちが自分たちの仕事を奪われるのを嫌がるから、これまで〈
それも俺が一から設計したものではなく、元々〈楽園〉にあったものを改良しただけだ。
「反応速度を補うために、神経系統にはミスリルの糸を併用してるのか。よく考えられてる」
アダマンタイトで耐久を確保しつつ、他の素材で欠点を補った設計がされている。
この〈
少なくとも〈
いや、先代以上かもな。
「凄い数ですね。これ、すべてにアダマンタイトが使われているのですか?」
「ああ、それにミスリルも使われているみたいだ。
そんな魔導人形が壁一面にずらりと、ざっと数えただけで五百ほど並んでいた。
錬金術師の工房と言うよりは、まるで兵器工場だな。
「これは公に出来ませんね……。戦争の火種になりかねません」
俺もシキと同じ考えだ。
過去の世界でも魔導具を巡って争い、滅びた国があるという話だしな。
正直、同じような未来に行き着く想像しかできない。
世界が違えど、人間のすることなんて似たようなものだからだ。
「ご主人様、こちらに一体だけ外見の異なる
テレジアに声をかけられ、近付いて確認してみると中央のオベリスクに埋め込まれるようなカタチで備え付けられたポッドのなかに、周りの〈
人間……じゃないな。この少女も〈
周りのガイノイドたちが成人女性の姿を摸しているのに対して、このガイノイドの見た目はレミルと同じくらい。中学生くらいと言った感じだ。
長く伸びた青い髪に白い肌。右肩には紋様のようなものが確認できる。
あれ、この紋様はもしかすると――
「これ、魔法式だな」
一見すると、ただのマークのように見えるが魔法式で間違いない。
高度な暗号化と圧縮が施されているようだ。
「
解析を使用してみるが、やはり簡単には行かないようだ。
いま分かることは、この魔法式が〈
この少女を起こすには、まずは魔法式を〈解析〉して封印を解く必要がある。
「おもしろい。やってやろうじゃないか」
となれば、どうするかなんて答えは決まっている。
この少女を起こせば、いろいろと話を聞けるかもしれない。
それに、こんなものを見せられては錬金術師の血が騒ぐ。
自分への挑戦と受け取り、俺は未知の魔法式の〈解析〉に意識を向けるのだった。
◆
「ご主人様がなにをされているのか分かりますか?」
「あれを理解できるのは〈三賢者〉の方々くらいでしょうね」
幾重にも編まれた無数の魔法陣が、椎名とガイノイドの周りに展開されていた。
一つ一つが高度に圧縮された魔法式であることは理解できるが、それがどんな効果を及ぼすものなのか何一つ理解できない。
本物の錬金術師――〈楽園の主〉の力を理解していたつもりでも、これを見ていると自分たちの認識がまだ甘かったことをシキとテレジアは実感させられる。それほど、ありえないことを椎名は行っていた。
「時間が掛かりそうですし、お茶にしませんか?」
彼女の腕輪は一種のマジックバッグのようなもので、椎名の〈黄金の蔵〉と中身を共有している。
椎名が許可した物しかだせないという制限はあるが、そのなかには魔導具だけでなく、椎名が買いだめしている屋台の料理や食糧。日用雑貨なども大量に含まれていた。
そのため、テレジアは――
「ドーナツですか」
「はい。イギリスの市場で購入したものです。もうすぐお昼の時間ですし、軽く摘まめる物があった方が良いかと思いまして」
椎名の邪魔をしないように、シキを即席のお茶会に誘うのだった。
◆
どのくらいの時間が過ぎたか分からないが、魔法式の〈解析〉は順調に進んでいる。ただ、一つ気になることがあった。
人によってプログラムの書き方に特徴があるのと同じように、効果が同じ魔法であっても魔法式には製作者の癖がでる。このガイノイドに使用されている魔法式の癖が、どう言う訳か俺とよく似ているのだ。
実際のところは似ていると言うだけで、まったく同じと言う訳ではない。
そもそも俺はこんな〈
この魔法式……というか、プログラムを以前どこかで見たことがあるような気がするからだ。
「これが最後の封印だ」
思ったよりも時間が掛かったが、無事に魔法式の〈解析〉が完了した。
あとは魔力を送り込んで、ガイノイドを起動するだけだ。
「我が求めに応え、悠久の眠りから目覚めよ」
しかし、こうしていると眠っていたメイドたちを起こすのに苦労した時のことを思い出す。メイドたちを起こすには、あの時の俺の魔力量じゃ足りなくて、先にヘイズを起こして魔力炉の製作に取り掛かったんだよな。
まあ、そのヘイズ一人を起こすのにも魔力切れを起こして昏倒するくらい大変だったんだけど。
しかし、いまでは魔力炉を用いずとも結構な余裕がある。
「うっ……これは……」
と思っていたのだが、割とギリギリだった。
このガイノイド。もしかすると〈
こいつは一体――
「無事に起動したみたいだな」
ポッドの蓋が開き、ゆっくりと身体を起こすガイノイド。
しかし、本当に人間そっくりだ。
パッと見ただけでは〈
反応を待っていると、くんくんと鼻を動かしながら――
「甘い匂いがします。
食事を要求してくるのだった。
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