第213話 聖剣の勇者
やっぱりレティシアは怒らせない方が良さそうだ。
人類最強って話だが、普通に先代やセレスティアとも互角に戦えるんじゃないか?
そう思えるほどに、レティシアの放った一撃は凄まじいものだった。
なにしろ一瞬のこととはいえ、
「レティシア。無事か……って聞くまでもなさそうだね」
「あ、わ……陛下」
ユミルを見て察した様子で、言い直すレティシア。
妙な力を使っていたから一応は心配したのだが、この様子だと大丈夫そうだな。
魔女王の件もあるので無理をして、魔力暴走を引き起こさないかと心配したのだ。
でも、凄い力ではあったが、感じ取れた反応は魔力とも違っていた。
星霊力でもないようだし――
「さっきの力って、なんだったんだ?」
「ああ、聖気のことですね」
「精気……?」
「……表情からなにを勘違いされているのか察せられますが、精気ではなく聖なる気。勇者の力のことです」
勇者? それって、あの勇者のことだろうか?
魔王が実在するのなら勇者くらいいても不思議ではないと思うが……。
しかし、聖なる気で聖気ね。危うく十八禁になるところだったので勘違いでよかった。
でも、聖気なんて力は聞いたことがない。闘気とは違うのだろうか?
闘気と言うのは、誰しもが持っている生命エネルギーのことだ。
漫画やアニメでよく目にする〈気功〉が、イメージとしては近いと思う。
ちなみに俺は使えない。俺のスキルは魔力にしか対応してないからだ。
一応、知識としてはあるのだが、確か闘気を使うのは〈仙術〉だったかな?
「……勇者って、あの勇者か?」
「どの勇者かは知りませんが、教会に認定された〈聖剣の勇者〉が私です。教会と言っても、こちらの世界の教会ではありませんが……」
こちらの世界じゃない?
それって、もしかして――
「前に話しましたよね? 私は異世界からやってきた〈勇者〉だと――この聖剣はその証です」
初耳なのだが、と思っているとユミルに視線を向けるレティシアを見て察する。
なるほど、先代は知っていることなのか。
騎士団長に任命しているくらいだから知っていて当然か。
しかし、異世界の勇者ね。ということは、レティシアも先代と同じ異世界人ってことか。
先代はダンジョンと一緒にこちらの世界にやってきたようだが、レティシアはどうやってこの世界にやって来たのだろうか?
まあ、俺のような例もいる訳で、他にも異世界人がいて不思議ではないけど。
「ということは、さっきのは聖剣の力か?」
「聖剣の力であり、勇者の技でもあります。〈聖技〉と呼ばれる勇者専用の技があって、そのなかの一つですね。聖剣の力を引き出すには〈聖技〉をマスターする必要があるので」
なかなか興味深い話だ。
未知の技術と言うのは、話を聞いているだけでも心が躍る。
自分に使えない力でも知識を得ておけば、他の技術に流用することが出来るかもしれないからだ。実際そうして魔導具に応用した例もある。さっき話していた闘気もそうだ。
生命エネルギーを利用する方法は錬金術にもあるからな。
闘気の運用法は、魔導具の効率化を図るのに非常に参考になった。
「あ……これ、さっきの天使が落とした魔石です。装備も一応、回収しておきました」
そう言って天使の素材と、真っ二つに割れた鎧を手渡してくる。
なにかの魔導具のようだが、胸のところにはめ込まれていた魔法石が粉々に砕けてしまっていた。これでは修復は不可能だ。なにもしていないのに素材だけ貰って文句は言えないけど。
レティシアには貰ってばかりなので、やはり今度なにかお返ししないとダメだな。
装備は十分に整っているだろうから、なにか便利な魔導具でも見繕っておくか。
それよりも、そろそろ話を切り上げて本題に戻った方が良さそうだ。ユミルのスキルでこの辺りのモンスターは一掃したとはいえ、まだまだ安心できる状況じゃないからな。
ちなみに他人のスキルに〈拡張〉を使ったのは今回が初めてだったのだが、上手くいって自分でも驚いていた。なんとなく出来るのではないかと思って試してみたのだが、あんなにも上手くいくとはな。やはり、このスキルはいろいろと応用が利きそうだ。
おっと、また話が脱線するところだった。
錬金術に関することになると話が脱線しがちなのは悪い癖だな。
「レティシア。オルテシアがどこにいるのか知らないか?」
「ここに来られたと言うことは、テレジアから話を聞いたのですよね?」
「それで魔力探知を試みてみたんだけど、反応が見つからなくてね」
「陛下の魔力探知に引っ掛からないものを、私が探すのはちょっと……」
まあ、無理だよな。
誰だって得手不得手はあるし、俺も自分の得意な分野でレティシアに負けたら凹む。ただ、一緒に〈空間転移〉を使ったのならオルテシアも近くに跳ばされたんじゃないかと考えただけだ。
空間転移は座標を指定して発動しなかった場合、ランダムに転移すると思われているが法則性が存在する。その一つに一定の距離にある転移陣同士は干渉し合うというものがあった。
ようするに近くで転移系のスキルを発動すると、先に発動した方の転移陣と干渉して、そちらに引っ張られるのだ。テレジアの話では二人ともほぼ同時に〈空間転移〉の〈
お互い近くに転移したのではないかと考えてのことだった。
「戦闘に集中していたので詳しくは分かりませんが、あちらの方角から強い力を感じました」
そう言ってレティシアが指をさしたのは、〈
もしかしたら先代と一緒に行動している可能性もあるのか?
どうして、オルテシアだけ魔力探知に引っ掛からないのかは分からないけど――
「陛下、少し二人だけで話がしたいのですが……」
「別に構わないが……悪いけど、少し待っていてくれるか?」
「畏まりました」
レティシアに二人きりで話がしたいと言われ、ユミルから距離を取る。
念のため、指輪型の魔導具を使って〈遮音結界〉を展開しておく。
「準備がいいですね」
「彼女たちは耳がいいからな」
楽園のメイドの能力を甘く見てはダメだ。
目に見える範囲の距離だと、普通に話を聞かれる恐れがある。これは経験談だ。
「それで、どうしたんだ?」
「女王陛下のことです。いらしているんですよね?」
「なんだ。気が付いていたのか」
「先程、言っていた大きな力ですが陛下の魔力を一緒に感じたので、もしかしてと……」
そういうことか。それで、さっきは言葉を濁していたのか。
確かにユミルに聞かれると、まずい話だとは思うが――
「先代が来ているのなら、ホムンクルスたちのことは先代に任せてしまおうと思ってるんだが……」
先代と合流した後なら、本当のことを打ち明けても構わないのではと考えていた。
元々、先代の意識が目覚めないから俺が代わりをしていたのであって、先代が目を覚ましたのなら代わりをする意味はないからだ。
「……彼女を敵に回すことになってもですか?」
「どういうことだ?」
騙していたことは事実だがユミルの性格から言って、ちゃんと事情を説明すれば理解してくれると考えていた。
しかし、レティシアの考えは違うようだ。
「陛下が敵に回れば、間違いなく彼女は陛下の味方をします」
「……先代と敵対する? なにを言ってるんだ?」
そんなことになるはずもない。俺には先代と争う理由がないからだ。
なのにレティシアは、そうなることが分かっているかのように――
「これは私の勘ですが、オルテシアを連れ去ったのは陛下だと思われます」
まったく予期しなかったことを話すのだった。
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