第202話 魔導電磁砲
紫の国の遥か上空。
三対六枚の翼を広げ、地上を見下ろす
表情は怒りに満ち、その瞳は憎悪に染まっていた。
頭に浮かぶのは、死の間際にガブリエルが見た光景。
灰色の髪と黄金の瞳を持つイレギュラーの姿であった。
「後悔しても遅い。
腕を左右に広げ、幾重にも編まれた魔法式を展開するミカエル。
まるでミカエルの求めに世界が応えるように、膨大な量の魔力が収束していく。
「この遥か天空は我等、天使の領域だ。貴様等、地を這うことしかできぬ人間では為す術もあるまい」
成層圏に達するほどの高度に辿り着ける人間などいるはずもない。
気付いたところで為す術なく死を迎えるだけだと、ミカエルは嘲笑う。
ミカエルの背後に展開された巨大な召喚陣が
そうして、
「絶望の中で最期を迎えるがいい」
ミカエルは勝利を確信し、愉悦の笑みを浮かべるのであった。
◆
「この魔力は――」
強大な魔力を感じ、慌てて城のバルコニーに飛び出すと空を見上げるサテラ。
遥か上空、肉眼では視認できないほどの距離に薄らと輝く星のようなものが見える。
「なんじゃ、あれは……」
尋常ではない魔力。
恐るべきことが起きようとしているということだけは察することが出来た。
十年前の記憶がサテラの脳裏に過る。
白き国が〈大災厄〉に見舞われた、あの日の記憶が――
「陛下! これは一体――」
「エレノア! すぐに民たちを城に避難させるのじゃ!」
すぐに民を城へ避難させるように、エレノアに命じるサテラ。
魔王城には結界が張られていて、多少の攻撃であれば耐えられる構造になっているためだ。
もっとも、これほどの魔力を必要とする攻撃に耐えられるとは思えないが、いまから逃げるよりも生存の確率が高いと考えてのことだった。
それに――
「妾は魔王じゃ! カルディアに出来て、妾に出来ぬはずがない!」
なにかと〈魔女王〉と比較される〈魔王〉だが、サテラは世間の評価に納得していなかった。
カルディアが現れるまでは、魔法の技術や知識において魔族に勝る種族は――〈魔王〉に勝る存在はいなかったからだ。
本来、魔法とは魔族のみが扱える技術だった。それを普通の人間でも扱えるように魔法式を簡略化し、冒険者に広めたのがカルディアだ。その功績はサテラも認めている。それでも魔族の王である自分が、魔法の知識でカルディアに劣っているとは思わない。
足りないのは実績だ。
紫の国は閉鎖的で、魔族は他の国と余り交流を持つことがない。
歴代の魔王も引き籠もりがちなところがあり、それが世間の評価に影響しているのだと、サテラは考えていた。
故に――
「見よ、これが魔王の力じゃ!」
魔王城を基点に巨大な結界を展開するサテラ。
最上位魔法ですら傷を付けることが適わない最強の防護壁。
魔王城が持つ機能に自身の魔法を掛け合わせた彼女の奥の手だった。
実際、この魔王城には魔王の力を増幅する魔法が付与されている。城そのものが魔導具のような役割を果たしていて、魔王に無尽蔵の魔力を供給する仕組みとなっているのだ。
言ってみれば、椎名の魔力炉のような役割を城が担っていると言うことだ。
いまのサテラであれば〈魔女王〉とも互角に戦えるだろう。
故に、
「来るなら来るがよい! 妾の国の民は、妾が守って見せる!」
サテラは空を睨み付けながら、姿の見えない敵に威勢良く言い放つのだった。
◆
いま俺は王都の近くにある森の中にいた。
どうして、そんなところにいるのかって?
決まっている。宝物庫で見つけた魔導具と、レシピの実験をするためだ。
実験に失敗すると城が吹き飛ぶかもしれないしな。誰かに見つかれば、止められるかもしれない。
だから、こっそりと城を抜け出し、森で実験しようと考えた訳だ。
「スキルの〈統合〉か。試して見る価値はあるな」
例のレシピ本に書かれていたのは、言ってみれば〈拡張〉の応用だった。
以前、シオンに譲った魔導具のように同系統のスキルを合成して〈切断〉を極限まで強化すると言った実験はしたことがあるが、あれはあくまでスキルの強化に留まっていた。
しかし、今回試すのは異なる系統のスキルを〈統合〉する実験だ。効果の異なるスキルを掛け合わせることで、新しいスキルを生み出す技術と言った方が分かり易いだろう。
「取り敢えず、この二つの魔導具で試してみるか」
巨大な大砲のカタチをした魔導具に、雷魔法が付与された魔槍。
手始めに、この二つの魔導具で実験してみようと思う。
「
魔力炉が本調子じゃないので〈
それに――
「〈
俺自身の魔力量も増えている所為か、最初の時よりも楽に〈カドゥケウス〉が使えるようになっていた。
まずは〈分解〉した二つの魔導具を〈拡張〉で一つに――いや、違うな。
あくまで〈拡張〉を使った〈統合〉だから、どちらかをベースにする必要がある訳か。
片方の魔導具に〈拡張〉でスキルを追加するような感じか。
仕組みは理解したが、どうしたものか。
取り敢えず、大砲をベースにして槍を撃ち出すようなイメージで作るか。
「
構造を〈解析〉し、構成する物質や魔法式を〈分解〉して〈再構築〉する手順はいつも通りだ。ただ〈構築〉の前に〈拡張〉を挟むことで魔導具に異なる機能を〈統合〉する。
大砲型の魔導具に付与された機能は〈正射必中〉だ。
筒に込められた物を、どんなに遠く離れたものにでも命中させることの出来る魔導具。構造は単純だが、使い方によっては面白いことが出来るのではないかと選んだ魔導具だ。
そして、雷魔法が付与された魔槍に付与されているのは〈雷霆万鈞〉と呼ばれる攻撃系のスキルで、威力は最上位の攻撃魔法を凌駕する。ただ魔力消費が激しく、コントロールが難しい欠点があった。
ようするに威力は高いが的に当たらないのだ。
味方を巻き込む危険もあるため、宝物庫で眠っていたのだろう。
しかし、この二つを組み合わせれば、高い威力を持った必中の魔導具が出来るのではないかと考える。
「
大砲をベースに〈雷霆万鈞〉を〈統合〉する。
イメージするのは超電磁砲。魔槍を電磁力を使って極超音速で撃ち出す兵器。
所謂、レールガンと呼ばれる兵器の魔導具バージョンだ。
ただ、それだけでは捻りがないので魔力で構造を強化し、威力を極限まで高める。
「完成だ」
見た目が思った以上にごつくなってしまったが、取り敢えず完成だ。
全長は十メートルほど。SFアニメに登場するロボットが持っていそうな近未来的なカタチをした筒状の魔導具。地面に固定して使う砲台タイプの魔導具なので使える場所は限られそうだが、その分、破壊力には期待ができそうだ。
「早速、実験してみるか」
どの程度の威力があるのか気になるので試し撃ちをしたいが、城に向けて撃つ訳にもいかないしな。手頃な目標があればいいのだが、見渡す限り森ばかりで的になりそうなものは見当たらない。
となると、空か?
「なんだ。あれ……」
空に輝く星のようなものが見える。
大きな魔力を感じるのだが、隕石ぽいな。
それも、かなり巨大な隕石だ。小惑星くらいの大きさがありそうだ。
あんなものが地上に衝突したら大変なことになるんじゃないか?
どうして急に現れたのかは分からないが、
「丁度よさそうだな」
俺にとっては都合がいい。
目標はあの隕石に設定してと――
「魔力の充填率、十、二十、二十五……」
想定していたよりも必要とする魔力の量が多い。
解析で確認してみると、スキル名が〈必滅の赤雷〉となっていた。
あれ? 色の名を冠していると言うことは、もしかしてユニークスキルに進化している?
しかし、それならこの魔力消費量も納得だ。
「九十五、百――」
かなりの魔力を持って行かれたが、充填が完了した。
砲身からバチバチと赤い雷が迸っている。
これは期待できそうだと思いながら――
「試作型・魔導電磁砲〈カラドボルグ〉――
隕石に向けて、赤い雷を帯びた巨大な魔槍を発射するのだった。
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