第173話 交わる世界
セレスティアの目が覚めたと言うことで呼び出されたのだが――
「お二人とも弁明はありますか?」
畳の上で先代と一緒に正座させられていた。
なんでも先代に倒されたはずの〈
その上、エミリアとシキが行方不明になっているとの話だ。
「……先代、ちゃんとトドメを刺したのか?」
「私の最大攻撃を叩き込んだんだよ……蒸発して跡形もなかったはずだ」
なかったはずと言うことは、死んだことを確認した訳じゃないのか。
とはいえ、先代の放った攻撃は俺も確認しているが、かなりの破壊力だった。
それこそ、ユミルの攻撃にも匹敵するほどの魔力を感じたくらいだ。
あの一撃で倒せなかったと言うのは、確かに考え難い。
となれば――
「もう一匹いたとか?」
「……ないとは言い切れないと思う」
可能性としては、そっちの方が高そうだ。
一匹しかいないと思い込んで確認を怠ったのは致命的なミスだった。
とはいえ、〈
魔力を隠蔽することに長けているらしく、直接探知しなければ俺も気付かなかったくらいだしな。
セレスティアが怒るのも無理はないが、起きてしまったことは仕方がない。
それよりも――
「それよりティア。二人の安否を確認する方が先じゃないのかい?」
先代の言うとおり、シキとエミリアの安否確認の方が先だと思うんだよな。
責任を追及するのは後からでも出来るが、二人に何かあってからでは遅いからだ。
先代の場合、話を逸らそうとしているだけに見えるけど。
まあ、分からないでもない。誰が悪い訳でもないとは思うが〈
被害がでている以上は責任を追及されても文句は言えない。
先代の反応を見るに、少しは責任を感じているのだろう。
「……二人なら無事です。行き先も分かっていますから」
行方不明という話だったのに行き先が分かっている?
もしかして〈星詠み〉で何か見えたのだろうか?
それならセレスティアが落ち着いているのも頷ける。
しかし、なんで俺の方を見るんだ?
「シイナ様、私に何か隠していませんか?」
そう言って、怪訝な表情で尋ねてくるセレスティア。
別に隠していることなんて……まさか、裸に剥いたのが俺だとバレているのか?
ありえない話ではない。シキから話を聞いているのかもしれないと考える。
「……さあ? なんのことか分からないな」
一先ずシラを切る。
あくまで状況証拠だけで確証はないはずだ。
幾らセレスティアでも証拠もなしに深く追及してきたりはしないだろう。
「……そういうことにしておきます。ですが
裸を見た以上は責任を取れって……いやいや、さすがにそれはないか。
たぶん、これは今回は大目に見るが貸し一だと言っているのだろう。
「分かっている」
どうやらこれで正解だったようで、セレスティアも満足した様子で頷く。
高くついたものだ。しかし、こういう場合は不可抗力であったとしても男に責任があるからな。
文句は言えなかった。
「二人だけで納得されても困るんだけど……」
そう言われても、これだけは先代にも話せない。俺とセレスティアだけの秘密だ。
説明したら説明したで、余計にセレスティアを怒らせそうだしな……。
これ以上、掘り返さないで欲しい。
「まあ、いいや。二人の行き先くらいは教えてくれるんだろう?」
それは俺も気になっていた。
セレスティアが〈星詠み〉で何を見たのかは知らないが、シキとエミリアがどこにいるのかくらいは把握しておきたい。彼女の様子を見る限りでは危険はなさそうな感じだが、迎えに行けそうなら迎えに行ってやりたいしな。
「地球です」
うん? 地球?
偉くアバウトというか、そもそも並行世界って話だけど、ここも地球だよな?
どういうことかと疑問に思っていると――
「こことは異なる並行世界。シイナ様の生まれ育った二万年後の地球に二人はいます」
まったく想像もしなかったことをセレスティアに告げられるのだった。
◆
その日の夜――
「後輩くんの世界にいるって、どういうことだい?」
そう言って、セレスティアに詰め寄るアルカの姿があった。
昼間は椎名が一緒だったから遠慮したが、さすがにシキとエミリアの二人が現代の地球にいると聞いてスルーすることなど出来ない。詳しく事情を聞いておく必要があると思ったからだ。
「一部始終を目撃した巫女が話を聞いていたそうですが、二人は
「それって、まさか……」
「そのまさかです。恐らく魔導書というのは〈無形の書〉のことだと思われます」
そこから導き出される答えは一つしかないと、セレスティアは答える。
無形の書に記憶されたスキルで、二人は現代の地球へと転移したのだと――
「いや、でも〈無形の書〉ならここにあるんだけど……」
「それは……本物ですか?」
「うん、間違いなく」
「……だとすれば〈無形の書〉の複製に成功したと言うことになりますね」
セレスティアの考えを、ありえないと断じることはアルカも出来なかった。
椎名の実力はアルカも何度も目の当たりにしているからだ。
それに〈
「ああ、それで彼に探りを入れてたんだ……」
「否定されましたが、あれは間違いなく心当たりのある反応でした」
それでかと、アルカはセレスティアの態度がおかしかった理由を察する。
「それじゃあ、魔石と言うのは……」
「〈無形の書〉を黒く染めるほどの魔石となると心当たりは一つしかありません……。恐らくは星霊力を集めて結晶化したものだと思われます」
「だろうね。ティアの暴走を止めるために〈分解〉した星霊力を魔力に〈再構築〉したんじゃないかな?」
理論上は不可能ではないと話すアルカ。
しかし、
「同じことが出来ますか?」
「出来たら自分でやってるし、カルディアも助けられた。だから彼はおかしいんだって……」
自分でさえ、そんな真似は出来ないとアルカは説明する。
それは即ち、セレスティアが扱いきれなかった力を制御できなければ不可能なことだからだ。〈無形の書〉を魔力で満たすほどの力だ。それは人間が扱える力を大きく超えている。
魔力制御の技術が卓越しているとか、そういうレベルの話ではなかった。
「しかし、どうしてそんな真似を……魔導書や魔石を偶然落として、それを二人が拾ったって可能性は?」
「ありえません。シイナ様ほどの錬金術師が魔導書と魔石の価値を理解できていないとは思えませんから。あなたなら、そんなものをうっかりで二度も続けて落としたりしますか?」
「言ってみただけだよ。まあ、さすがにないよね……」
偶然で片付けるには出来すぎていることから、ありえないと二人は判断する。
となれば、気になるのは椎名の目的だ。
椎名の性格から言って、意味もなく二人を巻き込むような真似をするとは思えない。
だとすれば、考えられることは――
「シイナ様には
「まさか……いや、でも……」
もしかしたらという考えが、アルカの頭に過る。
アルス・マグナのもう一つの可能性――〈王者の法〉に至るには錬金術の才能だけでなく、星の記憶――アカシックレコードにアクセスできる権限が必要だとアルカは考えていた。
その二つの才能を持つ人間など、これまでは存在しないと思っていたのだ。
しかし、椎名は確かに〈
だとすれば、椎名は〈星の記憶〉と繋がることが出来ると言うことだ。
セレスティアやエミリアのように――
「彼は〈星の記憶〉にアクセスすることが出来るみたいだった。だとすれば、未来が視えたとしても不思議ではないかもしれない」
「やはり、そうでしたか……。でしたら、シキとエミリアの危機を察知して二人の手に魔導書と魔石が渡るように仕向けたのかもしれません。それに――」
エミリアを現代に送ったのは他にも理由があるとセレスティアは考えていた。
それは――
「エミリアがあちらの世界に渡ったことで、二つの世界の世界樹が繋がったようです。これなら、もしかすると……」
遠くない未来、二つの世界が交わる日がやってくるかもしれない。
椎名が目指そうとしている未来を、セレスティアは予見するのだった。
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