第163話 国際会議(後編)
「だから
セレスティアがお冠だった。
会議そっちのけで不機嫌さを顕わにするセレスティアを恐れ、視線を逸らす代表たち。一方で褐色美少女はそんなセレスティア相手にも態度は変わらず、俺の
というか、魔族?
「魔族って、あの魔族?」
「ん? なんじゃ知らんかったのか?」
頭に生えた二本の角は飾りだと思っていたのだが、本物だったようだ。
まあ、獣人やエルフがいるのだから魔族くらいいるよな。とはいえ、魔族だろうと敵じゃないなら、そこまで敵視することもないと思うのだが、セレスティアはなにをそんなに怒っているのだろうか?
突然キスされて驚きはしたが、子供のしたことだしな。
「そんなことよりも妾の国に来ぬか? 御主の望むことならなんでもしてやるし、望むものがあればなんでも与えてやる。わ、妾のことを自由にしても構わぬぞ」
まあ、大分おませさんのようだが……。
このくらいの歳の子は恋愛やら大人のすることに憧れるものだしな。
なにがこの子の琴線に触れたのかは分からないが、気に入られたことだけは間違い無さそうだ。
とはいえ、今日は遊びに来ている訳じゃないしな。
「会議の続きをしよう。そのために集まったんだろう?」
「むう……やはり、そう簡単には行かぬか。無理強いして嫌われても困るしの。ここは御主の言葉に従おう」
意外と物分かりの良い子だった。
いや、こんなに小さいのに国のトップを任されているんだもんな。しっかりしているのは当然か。
大人びた態度も女王としての務めを果たそうとしているのだと考えれば納得も行く。あんな行動にでたのは、もしかしたら甘える相手が欲しかっただけなのかもしれないな。
ちょっと可哀想なことをしたかもしれないと思う。
「シイナ様。お気を付け下さい。魔族は狡猾ですから簡単に諦めるとは思えません」
しかし、セレスティアはまだ警戒しているようだった。
ここまで魔族を警戒するなんて、魔族と昔なにかあったのだろうか?
「実力的には彼女、カルディアの次くらいに強いしね。うちの騎士団長と互角の実力者だよ。ティアが警戒するのも無理はないけど、なにより魔族と〈精霊の一族〉は犬猿の仲だからね」
魔女王の次くらいに強いって……それ、かなり凄いんじゃ?
そう言えば、騎士団の話は耳にするが、まだ騎士団長には会ったことがないな。
先代が来ているのなら、騎士団も来ているのだろうか?
「騎士団長って、どんな人なんだ?」
「そう言えば、会ったことがなかったんだっけ? 学院長の弟子なんだけど、例えるならキミの生徒にサリオン家の娘がいるだろう? 彼女をめちゃくちゃ強くした感じだよ」
縦ロールのお嬢様を強くした感じって……。
だとすると、強化系のユニークスキル持ちってことか?
「彼女も会いたがってたし、近いうちに会わせてあげるよ。作戦の前に顔くらいは合わせておいた方がいいだろうしね。それより、ティア。いい加減、機嫌を直したらどうだい? みんな怖がってて会議が進まないし……」
「……別に怒ってなどいませんよ?」
嘘だ。言葉とは裏腹に表情が強張っていた。
事情は知らないが、やはり魔族との間に因縁があるのだろう。
「シイナ様、ご歓談中のところ申し訳ありませんが、作戦の内容についてご説明願えないでしょうか?」
場の空気を変えようとエミリアの親父さんに説明を求められ、そのために呼ばれたことを思い出す。
先代とセレスティアに嵌められたと言っても、引き受けたからにはちゃんと仕事をするつもりだ。ようするに学院でやっているみたいに
「それじゃあ、はじめるか。錬金術の講義を――」
◆
「――と言う訳で、モンスターを結界内に押し留める必要がある訳だ」
一応、専門的な話は避けつつも噛み砕いて説明できたと思う。
しかし、どうにも反応は良くなかった。これでも難しかったのだろうか?
「失礼ですが、本当にそのようなことが可能なのですか?」
そう言って手を挙げながら尋ねてきたのは、褐色美少女の側近と思しき〈紫の国〉の代表の一人だ。中間管理職と言った風貌の冴えない男性で、紫を基調としたローブを纏っていた。
ここ最近、キャラの濃い人たちばかりと会っていたから妙な安心感がある。
角が生えていないところを見ると、どうやら人間ぽいな。
司祭のようなローブを着ているし、教会の関係者なのかもしれない。
「理論上は可能だ。一から準備するとなると大変だが、既にあるものに干渉して〈再構築〉するだけだしな」
俺の立てた作戦。それは〈魔女王〉の残した結界を利用することだった。
以前、月の環境を整えるために結界が用いられているという話をしたことがあると思う。ようは、あれの応用だ。
「私もそれなりに名の知れた魔法使いだと自負していますが、魔女王の残した結界は仕組みすら理解できませんでした。それも世界の半分を覆うほどの結界です。その構造を組み替えると言われましても……」
理解できないと言った様子を見せる〈紫の国〉の代表。
そんなに難しいことを言っているつもりはないんだけどな。世界の半分を覆うほどの結界と言っても、結界であることに変わりは無い。いつものように、ただ〈解析〉して〈再構築〉するだけの話だ。
俺のスキルは魔力を含むものであれば、どんなものにでも干渉することが出来る。俺が構造を理解できないものであれば難しいが、魔法式で構築されたものなら間違いなく可能だと考えていた。
「アルカ、シイナ様と同じことがあなたに出来ますか?」
「前にも言っただろう? 私には無理だ。魔法式の知識や技術に関しては、カルディアの方が私よりも上だったしね。あれほど複雑な魔法式を〈解析〉し、理解し、組み替えるなんて真似は私には出来ない。でも、後輩くんはカルディア以上の天才だと私は思っているよ」
だから彼の提案に乗ることにしたのだと、先代は話す。
先代の口からこんな言葉がでると裏を疑ってしまうが、実際に魔法式の技術に関しては俺の方が先代よりも上だった。
勿論、それで錬金術師としての優劣が決まる訳ではないが、今回の件に限って言えば俺の方が適任だと考えていた。少なくとも、これまで一度も構造を理解できなかった
たぶん先代との違いは現代知識にあると思うんだよな。こう見えても俺は大学でロボット工学やAIの研究を専攻するくらいプログラミングの知識と技術に長けていた。
先代のいた世界も俺の世界とよく似た世界であったことは分かっているが、それでも錬金術なんて空想の産物は俺の世界じゃ存在しなかった。たぶん基本とする技術体系が違うのだ。
だから先代の持っていない知識を持っていることが、俺に有利に働いているのだろう。
問題はそれを一から説明するには、時間が幾らあっても足りないと言うことだ。先代ですら分からないことを長々と説明しても、これ以上の理解を促すのは難しいだろう。
この世界にはない知識で語っているのと同じことだからだ。
だから――
「論より証拠というし、軽く実験してみようと思う」
実際に体験してもらう方が分かり易いと考えた。
ようするに実現可能であることを、俺自身が証明して見せればいいだけの話だからだ。
「世界樹の結界に干渉することになるけど、別にいいよな?」
「……本当に
しつこく念を押してくるセレスティア。
そんなに俺は信用がないのかと悲しくなるが、恐らく過去に実例があるのだろう。
俺の評判と言うよりは、先代の過去の行いが響いているということだ。
「結界を破壊したりしないから安心してくれ」
そう言って〈黄金の蔵〉から〈無形の書〉を取り出す。
この実験には〈無形の書〉が必要不可欠だった。
「――
空に向かって手を掲げ、青き国を覆う世界樹の結界に〈解析〉を使用する。
以前から何度も言っていることだが、どんな魔法やスキルも魔法式で再現することは可能だ。
ユニークスキルという例外もあるが、魔導具にするのが難しいだけであって事象そのものであれば
俺の考えた、とっておきの方法。それは――
「
結界内の魔力の流れを操作し、無形の書へ魔力を集めることだった。
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