第154話 稀少スキル

 一晩悩んだ末、オルテシアにはセレスティアに渡したものと同じ天使タイプのモンスターの素材で作られたペンダント型の魔導具を渡した。

 と言っても付与されている機能は違う。剣のカタチをした銀色のペンダントで〈魔剣創造ソードクリエイション〉と呼ばれるスキルが付与されているものだ。

 名前だけを聞くと強そうに思えるが、実のところそこまで使い勝手の良いスキルではない。魔剣を創造するためには魔力が必要で、魔剣の属性や威力に応じて消費する魔力量も変化する。ユニークスキルではないが珍しいスキルで、稀少レアスキルに分類されるものだ。

 やっぱり、強そうじゃないかって? 考えて見て欲しい。

 魔剣は普通に魔法を使うよりも魔力消費が大きなスキルだ。炎の魔剣を創造して炎の魔法を放つくらいなら、普通に炎の魔法を放った方が工程が少ないし魔力の消費も少ない。

 魔法が苦手な剣士なら上手く使えるのではないかと思うかもしれないが、そもそも魔法が苦手ということは魔力量に問題を抱えているか、魔力操作が得意ではないと言うことだ。

 それでは結局、普通に魔法を使うよりも魔力の消耗が激しい〈魔剣創造ソードクリエイション〉を使いこなすことは出来ない。創造した魔剣も、魔力を使い切れば消えてしまう使い捨ての武器でしかないしな。

 それなら素直に魔導具や普通の武器を使った方がいい。

 そのため、稀少スキルではあるが余り人気のないスキルでもあるのだ。

 しかし、オルテシアなら上手く使えるのではないかと思っていた。


「こんなに凄いものを頂いてもよろしいのですか?」

「道具は所詮、道具に過ぎない。使い手次第では、どんな強力な魔導具でも性能を発揮しきれないしな。でもオルテシアなら、この魔導具を使いこなせると思ってる」


 使い勝手は悪いが、弱いスキルではない。

 むしろ、俺はユニークスキル並に強力なスキルだと考えていた。

 魔力さえ用意できれば、どんな魔剣でも創造が可能という性能を持つからだ。

 それにオルテシアに渡した魔導具には、スキルの弱点を補うための仕掛けも用意していた。


「はい。必ず、主様のご期待に応えて見せます」


 どうやら気に入ってくれたようだ。

 オルテシアのスキルは便利だが、一撃の威力に欠けるところがあるしな。

 この魔導具を上手く使えば、彼女の欠点を補ってくれると思う。


「ご主人様、エミリア様が迎えにいらしたようです」


 魔導具の使い方をオルテシアにレクチャーしていると、テレジアが呼びに来た。

 どうやら昨日言っていたようにエミリアが迎えに来てくれたらしい。

 確か、今日は政庁に行ってエミリアの両親と会う約束をしているんだよな。

 エミリアの両親か。どんな人たちなのだろうと関心と若干の不安を覚えながら、エミリアのもとへ向かうのだった。



  ◆



 屋敷の玄関口でエミリアと立ち話をしていたセレスティアの姿を見つけ、朝の挨拶をしようとセレスティアのことを名前で呼んだところ――どう言う訳か、エミリアの詰問にあっていた。


「事情は理解したわ。この指輪にそんな効果があったなんて……」


 説明を聞き、前に渡した指輪に視線を落とすエミリア。

 しかし、どことなく不機嫌な気がするのだが気の所為だろうか?


「エミリア、安心してください。シイナ様にそのような意図はありませんから」

「セレスティア様!? そういうのとは違いますから!」


 なにが違うのか分からないが、顔を赤くしてセレスティアに反論するエミリア。

 もしかして、オルテシアのように魔導具が欲しかったのだろうか?

 なら丁度いい。実は昨晩の内に用意しておいた魔導具があるのだ。


「ほら、エミリア。これをやるよ」

「え……」


 黄金の蔵から緑を基調とした落ち着いた色合いのローブをだし、エミリアの肩にかけてやる。

 少しデザインは違うが、俺やセレスティアのものと同じ認識阻害のスキルが付与されたローブだ。


「これって、もしかして昨日言ってた?」

「ああ、認識阻害のスキルが付与してある。エミリア用に調整してあるから使ってくれ」


 昨晩の内に予備のローブを三つ・・用意しておいたのだ。

 エミリア、テレジア、オルテシアの分だ。エミリアだけでなく、テレジアやオルテシアの外見も目を引くからな。

 念のため、三人分を用意しておいたと言う訳だ。

 エミリアのローブが緑色なのは、髪の色と合うと思ったからだ。

 付与されているスキルの方が重要で、見た目の派手さとかは関係ないしな。

 ちなみにテレジアとオルテシアには、黒を基調としたローブを渡していた。

 一応、希望の色を二人にも聞いたのだが、俺と同じものがいいと言われたためだ。

 デザインを弄るくらいたいした手間じゃないし、遠慮しなくていいのにな。


「ありがとう。大事にするね」


 どうやら機嫌が直ったようだ。

 物で釣ったみたいになってしまったが、これがないと街中を普通に歩けないだろうしな。


「さすがシイナ様です。女性の扱いが手慣れていますね」


 セレスティアさん、誤解を招くような言い方はやめてくれませんかね?



  ◆



 政庁は街の中心部にあるそうで、エミリアの案内で向かっていた。

 ちなみにセレスティアは仕事があるらしく、今日は一緒じゃない。

 本当は一緒について来ようとしたのだが、昨日のスミレ色の瞳をした巫女さんに捕まって連れて行かれてしまったのだ。

 恐らくはエミリアの妹が言っていた儀式の準備があるのだろう。

 そう言えば、エミリアも舞いを披露するって言ってたな。


「エミリアはよかったのか?」

「なんのこと?」

「儀式の準備を手伝わなくて」

「ああ、そのことね。勿論、舞いの練習はしているわよ。でも――」


 儀式に参加するのならエミリアも手伝わなくてよかったのかと思ったのだが、エミリアの話によると儀式の準備自体は〈精霊殿〉の巫女さんたちが行うことになっているらしい。

 下手に手伝おうとしても自分たちの仕事だからと断れるそうだ。

 うちのメイドたちみたいだな。

 しかし、それだとセレスティアはどうしてと疑問を口にすると――


「長いこと留守にしていたから他の仕事もたまっているのだと思うわ」


 先代と同じような理由だった。

 あの二人、やはり似た者同士なのかもしれないな。


「シーナ、着いたわよ」


 世界樹ほどではないが大きな樹の上に、意匠を凝らした木造の建物が確認できる。

 宮殿のような建物だ。ここが〈青き国〉の中枢を司る場所か。

 この国には貴族がいないらしく、十家からなる長老家が国を治めているそうだ。

 とはいえ、その長老会が先日セレスティアの怒りを買って粛清され、大部分の家が入れ替わったと聞いていた。

 ん? この感じ――


「気付いた? 一定以上の魔力に反応する結界が張られているの。ここからはフードを取っても大丈夫よ」


 セキュリティ対策と言う奴か。それだけ重要な場所と言うことなのだろう。

 だとすると、認識阻害のスキルもオフにしておいた方が良さそうだな。

 俺がフードを取ると、テレジアとオルテシアも身に付けていた外套を脱ぐ。


「――先生!」


 ロビーと思しき場所で見知った顔に声をかけられた。

 アインセルトくんだ。それによく見ると、茶髪エルフにお嬢様の姿もある。


「お前たち、どうしたんだ?」

「招待されました。一応、アインセルト家は楽園の大貴族ですから」

「私もお母様の付き添いで……」


 そう言えば、二人の家は楽園の三大貴族だったな。そりゃ招待もされるか。

 詳しく話を聞くと〈帰還の水晶リターンクリスタル〉で、他に招待された楽園の貴族と一緒にこっちへ来たそうだ。たぶんセレスティアに頼まれて用意した〈帰還の水晶〉の一つを使ったのだろう。

 転移陣の効果範囲内にいれば、一緒に転移が可能だしな。


「俺は実家に呼び出されて。なんでも、うちの一族が十家に選ばれたらしくて……」


 どことなく疲れた表情で、そう説明する茶髪エルフ。

 十家の内、七つの家を潰したとかセレスティアが言っていたのを思い出す。

 たぶん、その穴を埋めるために彼の家が選ばれたのだろう。

 大出世だと思うのだが反応を見るに、素直に喜べるような話ではないようだ。


「あの……先生。このあと時間があったらでいいので、妹に会って貰えますか?」

「ん? 親父さんではなく妹に?」

「はい、まだパーティーの件を引き摺っているみたいで……。社交界デビューはまだ早いと父が置いていこうとしたら強引に付いてきてしまって……」


 そう話すアインセルトくんを見て、兄貴も大変だなと少し同情するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る