第151話 謝罪と招待
「〈
「〈
三日振りに屋敷へ戻ってきたら、先代とシスターが待ち構えていた。
エミリアと緑エルフの姿もあった。
そう言えば、妹の方は霊薬を届けるために里帰りしているって話だったな。
ここにいると言うことは一緒に帰ってきたのだろう。
「別にいいけど、幾つ欲しいんだ?」
「そうだね。取り敢えず、五十枚ほど用意してくれるかな?」
「私の方は、千個ほどお願いします」
先代の五十枚という数にも驚いたが、千個って……。
「さすがにそこまでの手持ちはないぞ。何に使うつもりなんだ?」
「実はオルテシアのような悩みを抱えている者たちが他にもいてね。気休めかもしれないけど、打てる手は打っておきたいんだよ」
「私の方は希望者を楽園に避難させるのに〈
なるほど、そういうことか。
シスターはともかく先代もちゃんと為政者らしいことをしてるんだな。
臣下に丸投げで仕事なんてしてないと思ってたから、ちょっと意外だ。
そう言う話なら協力したいと思うが、数が足りていないんだよな。
素材なら〈黄金の蔵〉の中にあるので、俺が作ってもいいのだが――
「シスターはともかく先代なら自分で作れるだろう?」
「〈
「そうだけど?」
「そんなのを大量に持ってるのってキミくらいだよ」
そう言えば、まだ〈
材料は余るほどあるし、二つとも用意できなくはないのだが――
「それじゃあ、素材とレシピを渡すから〈
レシピと素材を渡して〈
先代ならレシピを見るだけで再現が可能だと考えたからだ。
材料が特殊なだけで、製作自体はそれほど難しいものじゃないしな。
「……仕方ない。それで手を打つよ。でも、完成品のサンプルは幾つか欲しいかな」
「それならストックが十枚あるから半分やるよ」
まあ、悪党が相手ならその限りではないと思っているのだが――
「そう言えば、エミリア。姉妹で帰ってきたってことは、もう用事は済んだのか?」
妹の方は、お使いで里帰りをしているという話を聞いていた。
ここにいるってことは、たぶん用事が済んだのだろう。
それで一緒に帰ったきたのだと思っていたのだが――
「申し訳ありません。シイナ様!」
土下座する勢いで頭を下げるシスターに俺は困惑するのだった。
◆
シスターの話によると、エミリアの作った霊薬を長老会が接収しようとしたらしい。
どこにでもいるんだな。他人の成果を掠め取ろうとする連中って……。
しかし、俺に謝罪するようなことではないと思うのだが?
この場合の被害者はエミリアだろう。
「ティアのところも人のこと言えないじゃないか」
「あなたに言われるのだけは納得いきませんが、今回ばかりは返す言葉もありません……」
ようするに為政者として責任を感じているってことか。
意外と二人とも、ちゃんと仕事しているんだよな。
先代も口では適当なこと言っているけど、責任は感じているようだし。
まあ、部下の管理はどっちも出来ていないみたいだけど……。
「それで、そいつらはどうしたんだ?」
「処刑しました。十家のうち七家を処分したので、多少混乱は起きましたが……」
多少? なんかサラリと、粛清したと言われた気がするんだけど。
やはり、この世界の特権階級は罪を犯すと問答無用で処刑のようだ。
青き国には貴族制度はないと言う話だったが、犯罪者に容赦のないところは変わらないらしい。ギルド長の秘書さんも捕らえたところで、極刑は免れないと言っていたしな。
「エミリアはどう思ってるんだ?」
粛清の件はともかく、結局はエミリアがどう思っているかだと俺は思う。
一番の被害者はエミリアだしな。
俺に謝られたところで困るというのが、正直な感想だった。
「私は別に……セレスティア様のお陰で、皆の怪我も無事に治ったしね」
「なら、解決だな。俺はなんとも思っていないし」
「シイナ様、それにエミリアも……感謝します。二度と同じ過ちは起こさせません」
話を聞く限りでは、シスターが悪い訳でもないようだしな。
責任を感じる必要はないと思うのだが、巫女姫という立場も大変なようだ。
「あと、もう一つ……シイナ様に相談したいことがあるのですが……」
まだ、なにかあるらしく畏まった様子を見せるシスター。
前振りが長かったが、むしろここからが本題のような物言いだ。
正直、これ以上の面倒事は勘弁して欲しいと思っていると――
「セレスティア様、ここからは私が説明します」
どうやら相談があるのは、エミリアの方だったようだ。
エミリアの頼みとなると断り難い。
彼女には世話になっているしな。借りがたくさんある。
仕方がない。どんな相談でも、どんとこいと身構えていると――
「三ヶ月後に〈青き国〉で開催される精霊祭にシーナを招待したいの」
お祭りに誘われるのだった。
◆
「各国の首脳が集まる会合を〈精霊祭〉と同時に開くか。悪くないんじゃない?」
セレスティアの提案に、賛成するアルカ。
「私の名代として後輩君に〈精霊祭〉に参加してもらえば、箔も付くしね。お披露目には丁度良い機会だ」
精霊祭と言うのは〈青き国〉で十年に一度開催されている祭のことだ。
精霊に感謝を伝え、巫女姫に指名された
だからこそ、椎名のお披露目に丁度良いとアルカは考えたのだろう。
「アルカは参加しないつもりなのですか?」
「後輩くんに参加してもらえば、お祭りを楽しめるじゃないか」
「却下です。ちゃんと出席なさい」
そんなことだと思ったと、呆れるセレスティア。
少しは女王らしい威厳がでてきたと思えば、すぐにこれだ。
とはいえ、長老会の失態があるだけにセレスティアも余り強くは言えなかった。
足元が疎かだったのは、彼女も同じだからだ。
しかし、
「で、なにが
セレスティアがアルカのことをお見通しなように、アルカもセレスティアのことをよく分かっていた。
精霊祭の開催自体は予定にあったことだし、そこで会合を開く案は悪くない。しかし、態々それだけでセレスティアがこんな相談を持ち掛けてくるとは、アルカには思えなかった。
大災厄は普通の人間にどうこうできる問題ではない。
会合と言っても今更、各国の首脳と話し合うようなことはないからだ。
だとすれば、他に目的があると考える方が自然だった。
「私たちに残された時間は想定しているよりも遥かに短いようです」
「カルディアの結界は十年は保つはずだろう? まさか……」
「その、まさかです」
あと七ヶ月。
それがこの世界に残された時間だと、セレスティアは告げるのだった。
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