第148話 アクセス権限

 この世界のユニークスキルについて、いろいろと分かったことがある。

 赤の権能は強化系のスキルに特化していて、緑は元素・・を司るスキルを得意としていると言ったように、ユニークスキルの名前についている色は属性ではなく魔法の系統を現しているようだ。

 そして副会長のスキル〈青き旅人〉は、空間だけでなく時間を操るレアな系統のスキルに分類されるものだと俺は考えていた。恐らく〈青の神〉が時空・・の力を司っているのだろう。

 実際〈青の神〉の恩恵を受けた者は転移系のスキルの他、俺の〈時戻し〉のように物を修復する力を持ったユニークスキル持ちが多いようなのだ。恐らく他のユニークスキルよりも必要とされる魔力量が多く、ほとんどの者がスキルの力を使いこなせていないのだろう。

 だから使用者本人でさえ、その力の真価に気付くことはなかった。

 副会長のように――


「時間を……でも、そんなことが出来るなんて……」

「これまで転移系のスキルだと思い込んでいたのも無理はない。物体の時間を巻き戻すだけでも相当の魔力を消費するのに、術者本人を未来や過去に跳ばすほどの魔力を個人で賄えるはずもないしな」


 時間跳躍の最大の障壁となるのは魔力・・だ。

 そもそも空間転移が大きな魔力を必要とするのは、その仕組みに理由がある。空間転移とは、こことは異なる次元を通じて二つの空間を繋げる魔法だ。この異なる次元というのが上位次元・・・・のことで、SFなどでよく見かけるワープを想像するとイメージしやすいだろう。

 紙を折り曲げるように二つの点を結ぶことで、一瞬で離れた場所に移動するのが空間転移の正体だ。

 ちなみに俺がこの時代に転移する時に通った白い空間。あれが、こことは異なる上位の空間だったのだと、いまならはっきりと分かる。あの部屋にもう一度行くことが出来れば、空間だけでなく時間に干渉することが出来るはずだ。


 このことからも理解してもらえると思うが、空間転移も時間跳躍も上位次元に干渉する魔法なので消費する魔力量が桁違いに大きい。恐らく副会長のスキルが少ない魔力で長距離転移が可能なのは、この上位空間にアクセスするための権限を持っているからだと推察できる。

 ただ、彼の魔力量と魔力操作の技術ではアクセス権限を持っていても、その能力をフルに使いこなすことが出来ていないのだろう。

 なにしろ上位の次元に干渉する力だ。それは即ち、人間が神と呼ぶ高位存在の領域に足を踏み入れることを意味している。あの白い部屋へ自由に行き来できる存在がいるのだとすれば、それは恐らく神と呼ばれる存在だけだ。

 そこで俺は、彼の持っているスキルを解析して再現できないかと考えた訳だ。

 そうすれば、あの白い部屋に行くための鍵――上位空間にアクセスするための権限を手に入れられるのではないかと考えたからだ。

 まだ仮説の域をでないが、上手く行けばこれまでよりも少ない魔力で空間転移が使えるばかりか、魔力量の問題から不可能と考えられていた時間跳躍も実現できる可能性が高い。


「協力して欲しいのは、スキルの解析と再現だ」

「解析は分かりますが、再現なんて可能なんですか?」

「ああ、それは……」

「可能よ。主様は前に一度、あなたのスキルを再現されているわ」


 俺と副会長の話に割って入ってきたのはオルテシアだった。

 右手に持っているトレーを見るに、お茶を持ってきてくれたらしい。

 数日のことなら携帯食料と水だけでも十分なのだが、それはメイドとしてのプライドが許さないそうで、テレジアとオルテシアの二人がついてきたのも俺の世話をするためだった。

 さすがに過保護じゃないかと思うのだが、主に奉仕することが楽園のメイドたちのアイデンティティのようなものだしな。

 オルテシアはまだホムンクルスではないけど、テレジアの影響を受けているように思える。まあ、美人のメイドさんに世話されるのは嫌じゃないし、そもそも助かっているので不満はないのだが――


「俺のスキルを? あ……あの時、会長たちが追って来られたのは……」 

「ええ、あなたの残した魔力の痕跡から、主様が転移陣を再現されたのよ」


 オルテシアの説明に、驚いた様子を見せる副会長。

 あの時、オルテシアも驚いていたけど、そこまで凄いことをしたとは思っていないんだけどな。

 そもそも魔法式を再現できなければ、スキルを付与した魔導具は作れないからだ。

 一応、魔法石マナストーンを用意してスキル所持者に付与を頼む方法もあるが、魔導具用に魔法式を調整する必要があるから、結局は魔法式を弄れなければ仕上がりに大きな差が出来てしまう。

 そのため、スキルを魔法式で再現することが出来なければ、錬金術師として一人前とは言えないと思っていた。やはり簡単な汎用スキルくらいは魔法式で再現できるようになって欲しいところだ。

 慣れれば、そこまで難しいものでもないしな。俺や先代しか出来ないのならともかく、噂の〈魔女王〉も一目見ただけで大抵の魔法やスキルは模倣していたとシスターから話を聞いているので、やってやれないことはないと思う。


「分かりました。どこまで役に立てるか分かりませんが協力させてください」


 とはいえ、それでもやはり副会長の協力は必要だった。

 肝心のスキルが解析できなければ、魔法式の再現も出来ないからだ。

 しかし、気合いの入っているところ悪いが、彼の出番はもう少し後なんだよな。

 シスターから譲ってもらった〈無形の書〉の解析がまだ終わっていないからだ。

 さすがにチート級の魔導具だけあって、いまの俺ではまだ完全に再現するのは難しい代物だ。しかし、使い捨ての劣化品であれば作れそうではあるので一旦それを作ってみようかと考えていた。

 先代の研究施設にやってきたのも、そのためだ。

 屋敷の工房で実験をやると、最悪の場合は屋敷が吹き飛ぶ可能性があるからな。

 はじめて作る魔導具は危険が伴うので、念には念を入れて注意する必要があった。

 なので――


「それじゃあ二人とも、予定通り彼のことを頼む」


 一旦、副会長のことはテレジアとオルテシアに任せることにする。

 これについては、事前に二人と話し合って決めていたことだ。


「え? え、え?」


 副会長は困惑している様子だが、スキルの解析を効率よく進めるためにも彼には自分の能力を把握し、ある程度はスキルを使いこなせるようになってもらう必要があった。

 そのために、テレジアとオルテシアに副会長を鍛えてやってくれと頼んだのだ。

 足りない分の魔力は外から持ってくる方法もあるが、魔力をコントロールするにも高い魔力操作の技術が求められるしな。それに以前に説明したと思うが魔力操作を鍛えれば、魔力の消費量を抑えることが出来るようになる。そうしたら外部からの魔力供給に頼らずとも、ある程度はスキルを使いこなせるようになると思うのだ。

 まあ、まだ先代が言っていた作戦の開始まで一年近くある。

 死ぬ気で訓練すれば半年くらいで、ある程度はものになるだろう。


「食事と睡眠の時間以外は、すべて訓練に費やすからそのつもりでいてね。幸い、ここはダンジョンの深層だから実戦の相手には困らないし。主様から霊薬も預かっているから手足くらいは失っても大丈夫よ」

「え……会長、冗談ですよね。ちょっと待っ……」


 オルテシアに腕を掴まれ、引き摺られていく副会長。

 まあ、うん……怪我しても霊薬があるしな。

 オルテシアも実力をつけてきているし、テレジアもいるから大丈夫だろう。

 彼に負けないように頑張ろうと気合いを入れ直し、実験に取り掛かるのだった。

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