第124話 大災厄の真相
「そんなことよりもシスター。他にもいろいろと聞きたいことがあるんだけど」
「あ、はい。私もシイナ様に話しておきたいことが――」
「なにがそんなことだ! キミたち、酷くない!? いま私の呪いの話を聞いて、スルーしようとしたよね?」
敢えて触れないようにしたのに、納得が行かない様子で声を荒げる先代。
いや、だってさ。質問した俺も悪いと思うけど「元男なんです。呪いで女にされました」と告白されて、どう反応すればいいと?
正直、かける言葉がないと言うのが本音だ。
万能薬で治せるのなら、とっくに自分で治療しているはずだしな。
だとすれば、この
「諦めろ」
「他人事だと思って投げ遣りな!?」
他人事だしな。
頑張れと慰めるのも違う気がするし、諦めて第二の人生を楽しんだ方がいいと思う。
先代の気持ちが分からない訳ではないが……あれ? 余り困らない気がするな。
恋人がいる訳じゃないし、結婚している訳でもない。俺は完全な独り身だ。
俺の性別が女になっても、メイドたちの態度が変わるとは思えない。
彼女たちは〈楽園の主〉に奉仕することを生き甲斐としているからだ。
男だとか、女だとか、性別はまったく意味がない気がする。
誰も困らないなら、どうとでもなる気がしてきた。
「そもそも、女だと何か困るのか? 好きな人がいるとか、結婚してるとか」
「いや、別にそう言う訳じゃ……」
「なら別に良くないか? 子供が欲しければ、錬金術で解決するだろ?」
極端な話、自分の〈霊核〉をもとにホムンクルスを造ればいいだけだしな。
だから俺はレミルのことを道具ではなく、ちゃんと自分の娘だと思っている。
現代だと人間のクローンは禁止されているため、倫理観がどうのと言われそうな気もするが、ホムンクルスは厳密にはクローンではない。それに、錬金術に現代の価値観を押しつけられても困るしな。
そもそも倫理観どうの話をするなら、モンスターを殺して素材を得るのはいいのかという話になる。ダンジョンを否定している人たちのなかにはモンスターを殺すのは野蛮だと言っている人たちもいるらしいが、そう言う人たも魔石の恩恵を受けている。
探索者がモンスターを狩らなければ、またスタンピードが起きるかもしれない。魔石を使うのをやめたところで、エネルギー資源の問題が解決しないのであれば結局は他の問題が生じるだけの話だ。
自分たちに都合の悪いことからは目を背け、騒いでいるだけのダブルスタンダードな人たちの言葉に耳を傾ける気はなかった。
それに、ここは現代ではなく過去の時代だ。
文句を言う人間もいないのだから、好きにやればいいと思う。
「そう言えば、メイドたちを見ないけど、どこにいるんだ?」
先代のインパクトが強すぎて忘れていたが、まだメイドたちの姿を見ていないことを思い出す。
未来には千人ものメイドがいたことから、先代がホムンクルスの製造を積極的に行っていたことは分かっている。
アインセルトくんの家にもホムンクルスのメイドはいたし、既に〈原初〉の六人は生まれていると考えて良いだろう。
ここは先代の研究所だし、一人も姿を見ないのはおかしいと思ったのだが――
「メイド? ああ、ホムンクルスのことか。本当は順序立てて説明するつもりだったんだけど、まあいいか。案内するから、ついてきてくれるかい?」
そう言って席を立つ先代のあとを、俺とシスターは追いかけるのだった。
◆
先代に案内された場所。そこは最初に通った中央連絡路だった。
林立する無数のシリンダーと黄金色の輝きを放つ生命の水。
現代で見たものと、まったく同じ装置が並んでいた。
しかし、
「ゲートがない?」
そこには、あるべきはずのものがなかった。
「ああ、やっぱり未来の世界では、ここにちゃんとゲートがあるんだね。なら私の研究は間違っていなかったと言うことか」
「どういうことだ? ゲートは最初からここにあったんじゃないのか?」
状況がよく分からなかった。
てっきり〈奈落〉のゲートは、最初からここにあるものだと思っていたからだ。
ここにゲートがないのだとすれば、そもそもゲートはどこにあるんだ?
「最初に言っておくと、あれはダンジョンの一部じゃないんだよ」
「……ダンジョンじゃない?」
「たぶんキミは、ここにあったゲートの先がダンジョンの最深部だと勘違いしているのだと思うけど、本来は
衝撃の真相を聞かされて、唖然とする。
ここが元々ボス部屋を流用して造られた研究施設だというのは、ユミルの話からも察しが付いていた。
しかし、まさかここがダンジョンの最深部だったとは思ってもいなかったのだ。
てっきりボスを倒して現れたのが、あの〈奈落〉のゲートだと思っていたからだ。
「ちなみにボスを倒したのは私だ」
「私たちですよね? あなた一人じゃ絶対に倒せませんでしたよ。後輩に格好をつけたいからと言って、話を盛らないでください」
胸を張る先代に、話を盛るなとツッコミを入れるシスター。
シスターの話によると、先代とシスター。それに〈魔女王〉の三人でダンジョンのラスボスを倒したらしい。
この三人でギリギリ倒せるレベルのボスって、どれだけ強かったんだ?
竜王なんて比較にならないくらいの強さがありそうだ。
それこそ、ユミルから話を聞いている神獣クラスの化け物だったのかもしれない。
「ボスを倒してもダンジョンは消滅しなかったんだな」
「その点は私たちも驚いたけど、ダンジョンの
「ダンジョンの役割?」
ダンジョンは謎が多い。自然に発生したものとは考え難く、なにかしらの意図があって造られたものだとは思っていたが、そもそも誰がどんな目的で造ったものなのか、なに一つ分かっていなかった。
可能性の一つとして錬金術を疑ったが、幾ら錬金術でもダンジョンを創造するなんて真似は不可能だ。
となれば、そんなことが可能な存在は一つしか思い浮かばない。
「神だよ。ダンジョンは
ずっと、そうではないかと思っていたこと。
あくまで推測の域をでなかった答えを先代が口にする。
「ダンジョンが造られた目的は、神の後継者を探すことだ」
「神の後継者?」
「その名の通り、神の座を継ぐ者を探しているのさ。人間に魔力を与え、覚醒を促すことでね」
壮大な話だが、話の筋は通っているように思える。
神でもなければ、ダンジョンなんてものを用意することは出来ないだろう。
だが、なにか引っ掛かる。
「疑う訳じゃないが、その話をどこで知ったんだ?」
だから気になったことを尋ねる。
先代の言葉を疑う訳ではないが、話が具体的すぎると思ったからだ。
図書館でいろいろと書物を漁ったが、ダンジョンに関して記された書物を見つけることは出来なかった。まったくなかった訳ではないが、証拠もなく考察を述べているようなものばかりだったのだ。
先代の言うようにダンジョンは神が造ったものだと説明している書物はあったが、どちらかと言うと宗教色が濃い内容で信用に足るものではなかった。
「私たちの前に現れた
そんな俺の疑問に答えたのは先代ではなくシスターだった。
「そして、天使はこうも言いました。これより最後の
最後の試練と聞いて、頭に過ったのは〈天国の扉〉のことだ。
まてよ?
先代とシスターの話が真実なら〈大災厄〉というのは、もしかすると――
そんな俺の考えを察したかのように――
「そうです。〈白の国〉に現れ、世界の半分を呑み込んだ大災厄。その正体は――」
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