第120話 破壊と再生
やはり魔力の反応は、金髪エルフと生徒たちのものだったようだ。
しかし、急に大きな魔力反応が現れたので慌てて急行したら、なんだこれ?
副会長がレッドオーガを見つけたのかと思ったのだが、正体はトロールだった。
しかも、黒いトロールなんてはじめて見る。
こんなモンスター、深層にいたかなと首を傾げていると――
「オ、オマエ……エミ……オレカラ奪ッ……」
トロールが喋った。どうやら
言っていることはよくわからないが、腕を振り上げるトロール。
どうやら、金髪エルフたちから俺に標的を変えたらしい。
「許サナイ!」
「――先生!」
アインセルトくんの声が響く中、頭上にトロールの豪腕が振り下ろされる。
まともに食らえば、ぺしゃんこになりそうな一撃だ。
とはいえ、この程度の攻撃なら避けるまでもない。
「――ッ!」
自動展開された障壁に阻まれ、弾き飛ばされるトロール。
前から何度も言っていると思うが、〈
物理・魔法を問わず、ありとあらゆる攻撃を弾き返す魔導具。
弾き返せる攻撃に限界がない訳ではないが、深層のモンスターが相手でも通用することは実証済みだ。
トロールが物理特化の脳筋モンスターとはいえ、ただのパンチで突破できるほど俺の魔導具は甘くはない。トロールよりも更に巨大なベヒモスの攻撃ですら、弾き返すほどの強度を持つからだ。
「やっぱり先生は凄い……」
俺が凄い訳ではなく魔導具の効果なのだが……説明するのも面倒だし別にいいか。
便利な魔導具ではあるのだが、扱いが難しいことは間違いないしな。
俺以外だと〈
そのため、俺の開発した〈
魔力操作の技術は魔法の威力を高めるだけでなく、発動速度にも大きな影響を与える。この魔導具も同様で誰が使っても同じ効果が得られるというものではなく、使いこなすには魔力操作の技術を鍛える必要があると言う訳だ。
逆に言うと魔力操作を極めれば極めるほど、この魔導具は真価を発揮してくれると言うことでもある。だから魔力操作を得意とする俺にとって、まさに打って付けの魔導具と言う訳だった。
とはいえ、
「このくらいじゃ倒せないよな」
攻撃を弾き返すことしか出来ないため、決定打にはならないんだよな。
なので――
「ひぃッ! な、なんなんだ。この数の魔法は――」
尻餅をついたまま空を見上げ、驚きの声を上げる副会長。
いま俺の頭上には、千を超える魔法陣が待機してきた。
同時に幾つの魔法を発動できるかは、魔力操作の領域だしな。俺の得意分野だ。
そのために各種属性を付与した魔導具の指輪を装備していた。
このくらいの魔法なら魔導具抜きでも使えるのだが、自分で魔法式を構築するよりも魔導具を使って他のところにリソースを割いた方が効率的だからな。この魔導具で発動できるのは初級と中級の魔法だけだが、これだけの数を同時に撃ち込めば、さすがにダメージくらいは通るだろう。
「みんな――伏せろ!」
アインセルトくんの声が響く中、腕を振り下ろすと一斉に魔法が放たれる。
色とりどりの魔法が雨のように降り注ぐ光景は、まさに絨毯爆撃のようだ。
必殺技と呼ぶほどの攻撃でもないけど、折角なので名前が欲しいな。
よし、〈
中二病ぽいけど、分かり易くて良い名前なんじゃないかと思う。
「グ……ガ……」
思いのほか良いダメージが入ったようだ。
全身傷だらけの半死半生と言った様子で膝をつくトロールの姿があった。
しかし、
「再生するのか」
傷ついた箇所がブクブクと泡を立て、時間を巻き戻すかのように再生していく。
さすがはトロール。再生能力だけなら天使系のモンスターに匹敵しそうだ。
生命力がこれだけ高いと、ドロップ素材も期待できそうな気がする。
なにせ〈
この前の竜王は結局なにも素材をゲットできなかったので、良いものが落ちてくれるといいんだが――
「そんな……あれだけの魔法を浴びせても倒せないなんて……」
確かに、縦ロールのお嬢様の言うように驚くべき生命力だ。
とはいえ、所詮は初級魔法だしな。
「え……」
「嘘でしょ! まだ撃てるの!?」
空を見上げて呆然とするお嬢様と、金髪エルフの妹の驚く声が聞こえる。
まだ、ではなく倒れるまで撃ち続けるつもりだ。再生できると言ったって、限界はあるだろう。
なら、再生しなくなるまで魔法を叩き込んでやればいい。
力業に思えるが、高い再生能力を持つモンスターには有効な手の一つだ。
「無茶苦茶だ!」
副会長がまた何か騒いでいるが、俺は迷わず腕を振り下ろすのだった。
◆
結局、三度目で再生しなくなった。
もう少し粘るかと思ったのだが〈
まあ、こんなものだろう。
「よかった。皆、無事みたいね」
生徒会のメンバーも、ようやく追い付いてきたようだ。
背中越しに生徒会長の視線を感じる。
緊急事態だったとはいえ、置いて行ったことを怒っているのだろうか?
「これは先生が?」
どうやら、置いて行ったことを怒っている訳ではなかったようだ。
なにを怒っているのかと思ったら、こっちだったか……。
目の前には、草木一本生えない荒れ果てた大地が広がっていた。
原因は確認するまでもない。俺の放った〈
ちょっとやり過ぎたかもしれないと、反省はしている。
「はい、姉様。それは先生の放った魔法の跡です」
「ん……凄かった」
どう説明したものかと考えていると、生徒たちに先を越された。
獣人少女の説明は相変わらず主語が抜けているが、二人の言いたいことは分かる。
自分たちは関係ない。やったのはシイナ先生だと言いたいのだろう。
少しくらい庇ってくれてもいいと思うのだが、自分のしたことだけに否定できん。
仕方がない……。ダンジョンだから放って置いても再生するとは思うが、世界樹の生えている広場がこれでは景観も悪いしな。先代の研究所も近くにあるはずだし、あとで文句を言われても困る。
「
黄金の蔵のなかに仕舞ってある魔力炉と、自身の魔力パスを接続する。
髪の色が灰色に変わり、瞳が黄金へと変化する。
相変わらず中二病ぽい姿だが、外部から魔力供給を受けるとこの姿に変わってしまうんだよな。とはいえ、これだけの広範囲を
なにをするつもりかって?
それは、これ〈アスクレピオスの杖〉だ。
死者を復活させることのできる杖だが、これにはもう一つ使い道がある。
空間と座標を指定して〈アスクレピオスの杖〉を発動してやれば――
「嘘……草花が再生していく……?」
この通り、人間だけでなく植物にも効果があるのだ。
生きているものならなんでも、恐らくは動物にも効果はあるだろう。
今回は魔力を上乗せすることで、杖の効果範囲を広げている。時間を早送りするかのように草花が成長していく光景が、生徒会長たちには見えているはずだ。
前にも説明したと思うが〈アスクレピオスの杖〉は使い捨ての魔導具だ。草花を再生するだけに使うのは正直に言うと勿体ないのだが、これも講師としての威厳を保つためだ。
貴重な素材を使っていると言っても、同じものが作れない訳でもないしな。
まだストックはあるし、使うべき時に使わないでとっておいても仕方がない。
「まあ、こんなものか」
丁度、草花の再生が終わったところで〈アスクレピオスの杖〉が砕けるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます