第117話 スキルの再現
「会長! 一体なにを――」
突然なにを言いだすのかと、戸惑う副会長。
苦戦はしたがデスハウンドの群れを倒し、自分たちの力は深層でも通用すると証明したばかりだ。
それなのに何故――と、戸惑いを隠せない様子を見せる。
しかし、
「このままだと全滅するわ。間違いなく死人がでる」
「会長と言えど、聞き捨てなりません! なにを根拠に――」
「群れると厄介ではあるけど、デスハウンドは深層でも一番弱いモンスターよ。この程度のモンスターに苦戦しているようじゃ、レッドオーガの討伐なんて到底無理。それどころか――」
次にデスハウンドの群れに遭遇すれば誰かが死ぬと、オルテシアは厳しい現実を突きつける。
それでも納得が行かないのか、悔しそうに唇を噛む副会長。
しかし、その一方で他の生徒会メンバーの反応は違っていた。
「会長がそう決められたのなら……」
「うん……実際、私たち足を引っ張ってたしね」
「なら、俺も……。本当はもう立っているのもやっとで……」
副会長の手前、弱音を吐くことが出来ずにいたが、彼等も限界だと感じ取っていたのだろう。
実際、デスハウンドとの戦闘で体力をかなり削られ、魔力もほとんど残っていなかった。魔力の回復を待ってから出発するのであれば、最低でもここで一泊する必要がある。しかし片道三日かかったことを考えると魔力の回復を待っていては、レッドオーガを倒せたとしても期間内に地上へ戻るのは難しいと考えたのだろう。
だからこそ、生徒会長の言葉は彼等にとって渡りに船だったと言う訳だ。
「ありがとう。私から学院長に掛け合って、追試験を受けられないか相談してみるから」
「え、いいんですか? そんな特別扱いみたいな真似……」
「本当は他の生徒の手前ダメなのでしょうけど、たぶん大丈夫なはずよ。この試験は前例になさすぎる。適正な試験を用意しなかった学院側の落ち度でもあるわ」
オルテシアの話を聞いて、納得した様子で喜ぶ三人。
このまま不合格になると思っていただけに、追試験を受けられるだけでも嬉しかったのだろう。
しかし、
「冗談じゃない!」
丸く話が収まりそうになっていたところで、一人だけ反対する生徒がいた。
副会長だ。
「ロガナー家の次期当主が追試験? そんな恥ずかしい真似ができるか!」
ありえないと言った表情で、副会長は声を荒げる。
ロガナー家は三大貴族の一角に数えられる楽園の大貴族だ。
その後継者として恥じない姿を見せるために、ここまで頑張ってきたのだ。
なのに試験をリタイアするなど、彼にとって到底受け入れられる話ではなかったのだろう。
「会長、あなたには失望した! キミたちはここで待っているといい。俺は一人でも合格してみせる!」
魔法――いや、スキルを発動する副会長。
青白い光を放つ魔法陣が副会長の足下に現れる。
そして、
「待って――」
オルテシアの静止を振り切るように、副会長は皆の前から姿を消すのだった。
◆
突然、言い合いを始めたかと思うと、副会長が消えてしまった。
「すみません。こんなことになってしまって……」
「謝罪は不要だ。さっきのは〈転移魔法〉か?」
「あ、はい。ですが、あれは魔法というよりスキルの力です」
生徒会長の話によると〈青き旅人〉というユニークスキルの力らしい。
転移系のスキルで一度行ったことのある場所なら距離を問わず、一瞬で移動が可能というものだそうだ。
本来、転移魔法は距離に応じて指数関数的な魔力を要求されるため、余り使い勝手の良い魔法とは言えない。それを最小限の魔力で使えるなんて、さすがユニークスキルだけある。
便利な力だなと感心していると――
「彼は深層に一度も来たことがありませんし、あのスキルではゲートを超えることは出来ません。なので……」
深層のどこかにランダムで転移した可能性が高いと話す生徒会長。
となると、ダンジョンの外にでたと言う訳ではないのか。
便利なスキルのようだが、それなりに制限もあるみたいだな。
デスハウンドとの戦闘で使わなかったのは、それが理由かと納得する。
「状況は理解した。それで、試験は不合格と言うことでいいのか?」
俺の問いに生徒会長を始め、他のメンバーも頷く。
一応、確認しておかなければ、試験に介入する訳にもいかないしな。
一人納得していない様子だったが、パーティーである以上は連帯責任だ。
どうせ彼一人では課題の達成は不可能だし、納得してもらうしかないだろう。
「なら、さっさと副会長を回収して帰るか」
「ですが、どこに転移したのか分からないのでは……」
捜しようがないと、暗い表情で話す生徒会長。
他の生徒たちも不安げな表情を浮かべ、心配している様子が見て取れる。
確かに、どこに転移したのか分からないと捜すのは大変だ。
しかし、手掛かりならある。
「スキルと言えど、転移魔法と仕組みは変わらないだろう。なら――」
副会長が消えた場所に手をかざし、スキルを発動する。
スキルも魔法と同様、魔力を使うことに変わりは無い。そして、どんな魔法でも使用すれば痕跡が残る。時間が経てば痕跡を見つけるのは難しくなるが、まだ副会長が消えてから五分と経っていない。
それなら、まだ間に合う可能性が高い。
「解析完了――
こうやって魔力の痕跡から使用された魔法式を再現してやれば、そこには――
「よし、開いたな」
副会長が発動したのと同じ転移陣が展開されるのだった。
◆
「スキルの模倣? まさか、そんな真似が……」
実際に転移しながらも信じられないと言った様子を見せる生徒会長。
錬金術師でなければピンと来ないのかもしれないが、魔法式で構築が可能な点はスキルも魔法と変わりがない。スキルと魔法の違いは何かと言うと、やはり一番の違いはアシスト機能だと思っている。
魔法のように魔法式を一々構築しなくても、スキルが自動でやってくれるからだ。
だからスキルで起こせる現象は、魔法でも手順を踏めば再現が可能なものが多い。
ようするに魔法式はプログラミング言語のようなもので、スキルはそれをメソッド化したものだと考えると理解がし易いだろう。
魔力という変数を代入することで、あらかじめ決められた特定の処理を実行してくれるものがスキルと言う訳だ。
そして、俺のスキルは魔力の操作に特化している。〈解析〉〈分解〉〈構築〉と錬金術に必要な処理をアシストしてくれるのが〈
そのため、魔法式を模倣する程度であれば難しいことではなかった。
「スキルそのものではなく効果を再現しただけだ。スキルがなくとも魔法くらいは使えるだろう? 原理は同じだ」
ただ、それを魔導具にするのが難しいんだよな。
効果自体は魔法式で再現が可能でも、このメソッドにする仕組みがユニークスキルの場合、唯一無二であるというダンジョンの法則が邪魔をしてか、
だから考え方を変えて、同系統のスキルを複数記憶させることで特定の処理を実行させて、ユニークスキルに近い効果を持つ魔導具として開発したのが、シオンに渡した刀やサーシャの杖だった。
「……理屈は理解できますが、あの僅かな時間で魔法式を再現されたのですか?」
「魔法式を解析できれば、再現は難しくないだろ?」
スキルのサポートがないと時間は多少掛かるが、俺以外の人間にも出来ないほど難しい作業ではない。便利だから使っているけど、スキルなんて最初にも言ったようにアシスト機能でしかないしな。
あくまで仮説になるが、魔力の使い方を覚えさせるためにダンジョンが人間に与えている恩恵がスキルだと俺は考えていた。
自転車だって練習すれば補助輪がなくても乗れるようになるだろう?
あれと同じで魔法式を覚えて魔力操作を極めれば、同じようなことは可能と言う訳だ。
「やはり先生は……」
しかし、見覚えのある景色だ。ここって、やっぱりそうだよな?
楽園都市のなかだ。遠くに見える景色から、たぶん商業区のあたりだと察する。
と言っても、まだ街はなく、ここからでは世界樹の姿も見えない。
やはりこの様子では、まだ街の建造は始まっていないみたいだな。
だけど、間違いなくここに世界樹はある。世界樹の魔力を感じるからだ。
「取り敢えず、副会長を捜すか」
世界樹も気になるが、生徒を捜すのが先だと意識を切り替える。
試験監督として無事に生徒を学院まで連れて帰る責任が俺にはあるからだ。
意識を集中して、魔力探知で半径十キロほどの魔力反応を探る。
もう少し広い範囲の捜索も可能だが、これ以上になると精度が落ちるしな。
まだ、そんなに遠くは行っていないだろうし、たぶんこれで大丈夫なはず――
「見つけた」
「え、もう!?」
「やっぱり、あの噂は本当だったんだな……」
外野が何か言っているが、取り敢えず副会長と思しき反応は見つけた。
しかし、これどうなってるんだ?
ここからそれほど離れてはいないが、近くに複数の反応がある。
それも記憶にある魔力の反応だ。
「あいつら、こんなところで何やってるんだ?」
その反応とは、金髪エルフと俺の生徒たちのものだった。
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