第99話 黄金の祝福
ギルドの職員に案内され、俺と金髪エルフは応接室と思しき場所に通された。
そこで待っていたブラック大入道もといギルド長から、素材の買い取りに関する説明をいろいろと受け――
「これが、お前さんのギルドカードだ」
渡されたのは金髪エルフと同じミスリルのプレートだった。
手に取って〈解析〉で調べてみると、どうやら中央の魔石が個人情報を記録する記録媒体になっているようだ。
スキルを封じ込める魔法石と呼ばれるアイテムがあるのだが、あれと同じような技術で魔石を加工して使っているらしいことは分かった。このくらいなら再現しようと思えば再現できそうだ。
取り敢えず、なくすと困るので〈黄金の蔵〉に放り込んでおけばいいか。
「素材をだした時にも見たが〈空間収納〉まで使えるのか……」
「
実際、金髪エルフも〈魔法の袋〉を使っていたしな。
一緒に買い物に行った時、購入した本を肩から提げたポシェットに入れているのを確認していた。
「あの量の素材が入る〈
まあ、容量無制限だしな。ギルドの買い取りにだした素材は全体のほんの一部なのだが、この反応を見る限りではそのことは言わない方が良さそうだ。
しかし、ユミルから聞いていた話と随分違う気がするんだよな。この時代の冒険者は現代の探索者よりも全体的にレベルが高かったと聞いていたので、もっと魔法技術の発達した世界をイメージしていたからだ。
実際ダンジョンで発見される遺跡やアーティファクトは、この時代のものだと推察されている。
なら、このくらいで驚くのは不自然だと思うのだが……。
もしかすると、想像しているよりも過去の時代に跳ばされたのかもしれない。
それなら技術が未発達なのも納得の行く話だ。
「冒険者は過去を詮索しないのが暗黙の了解だが、お前さん何者だ?」
「何者とは、どう言う意味だ?」
「魔法使いのなかには自分の研究にしか興味のない奴や、人付き合いの煩わしさから山奥で隠遁生活しているような物好きもいるから、世間に知られていない実力者がいても不思議な話じゃない。だが、お前さんは
何者かと問われても身分を証明する術がないので困るんだよな。
一応、シスターから貰った紹介状はギルドにも見せたのだが、あれだけでは不十分だったと言うことか。
ギルドマスターが異常と感じているのも、恐らくは技術力の差が原因だろう。
俺の魔導具は〈楽園の主〉が遺した知識と技術を元に開発されたものがほとんどだ。なかには現代の技術を転用した魔導具もあるため、この時代から見れば未来の技術を使っていることになる。
しかし、未来から来ましたと言っても信じてもらえるとは思えない。
どう説明したものかと考えていると――
「バーグさん……いえ、ギルドマスター。立場上、何を懸念されているのかは察しますが、シーナの身元は私が保証します」
金髪エルフが話に割って入ってきた。
どうやら俺を庇ってくれているようだ。
「ああ、分かった分かった。〈巫女姫〉様の紹介状を持っているような奴を疑うつもりはねえよ。ちょっとした好奇心で、確認しておきたかっただけだ」
あっさりと引き下がるギルド長。
これは金髪エルフに感謝することが増えたようだ。
彼女には頭が上がりそうにないなと、あらためて思うのだった。
◆
「よろしかったのですか? あのまま帰して」
ギルド長にそう尋ねるのは、椎名とエミリアを案内してきたギルド職員だ。
彼女の名はヨルダ。ギルド長を補佐する立場にあるサブマスターだった。
「良いも何も〈巫女姫〉様の紹介状を持っていて〈金の乙女〉が身元を保証すると言っているんだ。これ以上、確かな証明はないだろう?」
冒険者の身元確認など建て前に過ぎない。
実力さえあれば、過去については詮索しないのが冒険者のルールだからだ。
もっとも登録後に罪を犯すようなことがあれば厳しく罰せられるので、犯罪の抑止にも繋がっていた。ただその分、冒険者同士の諍いにはギルドは関与しないなど、独自のルールも存在する。
ギルドの施設が街の外れにあるのは、そのためだ。
「第一、あいつが凶悪犯だったとして拘束できる自信があるのか?」
「無理ですね。深層のモンスターの素材を一人であれだけ集められる魔法使いを相手に、ギルドの戦力だけで対応できるとは思えません」
そういうことだと、ギルド長は肩をすくめる。
バーグも現役時代は名の知れた冒険者だったが、椎名に敵うとは思えなかった。
深層のモンスターを大量に狩れる実力もそうだが、あのアドリスが一撃で敗れるような相手と勝負になるとは思えないからだ。
勇者を子供扱いできるほどの実力者となると、片手の指で足りるほどしか思い浮かばない。
この国の女王〈至高の錬金術師〉や〈青き国〉の〈巫女姫〉――
それに〈白き国〉の〈魔女王〉くらいだろうと、ギルド長は考えていた。
そんな錚々たる面々と並ぶ実力を椎名は持っていると言うことだ。
冒険者程度でどうこう出来る相手ではないと言うのが、ギルド長の感想だった。
「だが、こいつは国と相談しておく必要があるな」
「未知のモンスターの素材……〈天使の羽〉ですか。せめて、そのことだけでも尋ねておくべきだったのでは?」
「いや、こいつは俺たちの手に余る。女王陛下がどう判断なさるかは分からないが、下手に首を突っ込めば命が危うい」
「……それほどのものですか」
ギルド長が〈天使の羽〉について椎名に尋ねなかった理由をヨルダは察する。
情報を得ることで命のリスクが伴うほどの代物。
未知の素材にそれだけの価値があると、ギルド長は判断したと言うことだ。
「そう言えば、マルタ商会が近々オークションを開くという噂がありましたね。なんでも稀少なモンスターの素材が大量に出品されるとかで……」
「おい、まさか……」
ヨルダの話を聞き、最悪の可能性がギルド長の頭に過る。
もし椎名がギルドに提出したものと同じ素材を商会に卸していて、そのなかに未知のモンスターの素材が含まれているのだとすれば――
「至急、調べさせます」
危惧した最悪の状況もありえると、ヨルダは慌てて確認に動くのだった。
◆
「……これは?」
「俺の作った魔導具だ」
いろいろと悩んだ末、金髪エルフには〈黄金の祝福〉と名付けた指輪を贈った。
この指輪は〈奈落〉に生息する
「その指輪には、願いを叶えてくれる効果がある」
「それって、凄い魔導具なんじゃ……」
「いや、そうでもない。願いを叶えてくれると言っても、たいしたことが出来る訳じゃないしな」
どんな願いでも叶えてくれるのなら、俺自身が使って元の時代に帰っている。
この指輪に叶えられる願いとは、本当にささやかなものに限られるからだ。
多少、運がよくなる程度の幸運グッズだと思っておいた方が良い。
ただ、魔法薬の調合など成功確率を上げてくれる効果があることを説明すると――
「それは凄いわね……」
意図を察してくれたようだ。
俺がこの指輪を選んだのは、金髪エルフが魔法薬の講師をしているからだ。
ギャルの妹みたいにスキルの補正があればこんな指輪は必要ないが、金髪エルフはそういうスキルを持っている訳ではないようだったので、魔法薬の調合を補助してくれる魔導具の方が喜ばれると思ったのだ。
「でも、いいの? こんな貴重なものを私に……」
「俺の気持ちだと思って受け取って欲しい」
「え、それって……」
金髪エルフには世話になりっぱなしだしな。
このくらいで恩を返せるとは思っていないが、何もしないのは俺の気持ちが収まらない。
喜んでもらえるのか少し心配だったのだが、
「ありがとう……大切にするわね」
金髪エルフの笑顔を見て、ほっと胸をなで下ろすだった。
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