第98話 冒険者ランク
やってしまったものは仕方がないので、訓練場に関しては元通りにすることで手を打ってもらった。
以前、日本の首相官邸で使った〈
一応、訓練場の周囲には結界を張ってあったそうなのだが、あのくらいの攻撃で壊れるような結界だと頼り無さ過ぎるので、訓練場を修復するついでにより強固な結界に張り直したと言う訳だ。
これで勘弁して欲しいと思う。
「壊れた施設が一瞬で元通りとは……時間を巻き戻したのか? しかも、ただの魔法障壁じゃないな。空間に影響を及ぼすほどの結界か……」
「シーナが普通でないことは。これで理解してもらえたと思います」
「ああ、十分すぎるほどにな……」
なにやら失礼なことを言われている気がするが、このくらい普通だと思うのだが?
時間跳躍は難しいが、限定的な〈時戻し〉であれば難しくない。
魔力を大量に使うのは同じだが、実用的な範囲に収まっているしな。
この程度なら〈黄金の蔵〉に仕舞ってある魔力炉を使うまでもなかった。
「それでシーナの冒険者登録をお願いしたのですが……」
「ああ、そういうことか。だが、いきなりオリハルコン級は無理だぞ?」
「ミスリル級なら、どうにかなりませんか?」
「ううん、確かに実力は申し分ないんだがな……」
どうやら冒険者の登録のことで、ギルド長と交渉してくれているようだ。
さすが金髪エルフだ。頼りになる。こういうのは苦手なので、正直に言うと助かる。
しかし、オリハルコン級とかミスリル級とか、やはり冒険者は鉱物の名前が階級になっているんだな。
なにがどのランクに当て嵌まるのか、まったく分からないけど。
金髪エルフが自慢していたので、ミスリル級が高ランクなのは察せられる。
そう言えば、ギルド長はオリハルコン級とか言ってたっけ?
話の流れから察するに、そっちの方がランクは上なのだろうか?
これが錬金術の素材として見るならミスリルとオリハルコンでは特性が違うので、どっちが上ということはないんだがな。
魔力の伝導率はミスリルの方が圧倒的に上だ。一方でオリハルコンの方が強度は上で、魔法の触媒にするなら優れた特徴がある。アダマンタイトと呼ばれる鉱石もあって、これはダンジョンで採れる鉱石のなかで一番の強度を誇る鉱石だが、魔法との親和性が低い。
どの鉱石も特徴があって魔導具を製作する際には使い分ける必要があるので、優劣をつけられるようなものではなかった。
「俺の判断でランクを上げてやりたいところだが規則は規則だしな。実績があれば話は別なんだが……」
「あ、それなら――シーナちょっといい?」
俺の名を呼びながら手招きをする金髪エルフ。
話がついたのかと思って近付くと――
「モンスターの素材って、まだあるわよね?」
「ああ、たくさんあるけど」
「なら、それをだしてくれる? この前、見せてくれたのと同じのでいいから」
それってケモ耳少女の店でだした素材のことだろうか?
まあ、だせと言うのならだすけど、天使の素材は結局買い取ってもらえなかったんだよな。
「これでいいか?」
取り敢えず、金髪エルフに言われたように〈黄金の蔵〉から素材をだしてギルドの訓練場に並べるのだった。
◆
「あいつが噂の錬金術師か……。これを見ると
訓練場に積み上げられた素材の山を見て、ギルド長の口からは溜め息が溢れる。
椎名とエミリアには素材の査定をするからと、ギルド直営の酒場で待ってもらっていた。
そのため、ギルドの鑑定士たちが急いで査定を行っているのだが――
「ほとんど深層の素材ばかりじゃないか」
「キングトレントの宝珠にベヒモスの角まで……」
「なんで、こんなにドラゴンの素材があるんだ!?」
「おい、このとんでもない魔力の羽はなんだ!」
作業は難航していた。
深層のものだけでなく、見たこともないモンスターの素材も含まれていたからだ。
「ギルド長、こちらの羽のようなものは値段をつけるのが無理です」
「〈鑑定〉の結果はなんてでてるんだ?」
「〈天使の羽〉とでています。ですが〈天使〉なんてモンスターは聞いたことも見たこともありません……」
天使なんて名前のモンスターは、ギルド長も耳にしたことがないものだった。
過去に持ち込まれた例がない以上は、値がつけられないのも理解できる。
しかし、素材から感じ取れる魔力は明らかに高位のモンスターのものだ。
「オークションにだせば、どのくらいの値が付くと思う?」
「想像が付きません。新種の……それも、これだけの魔力を帯びた素材ですから、オークションどころの話ではないと思います。我々の手には余るかと……」
最悪、争いを生む火種になりかねないことを鑑定士に示唆され、ギルド長は唸る。
確かにドラゴンに匹敵するほどの魔力を〈天使の羽〉からは感じ取れるからだ。
これをオークションにだせば、過去に〈至高の錬金術師〉の魔導具が市場に出回った時と同じような血で血を洗う騒動に発展しかねない。鑑定士の懸念はギルド長にも理解できるものだった。
「あと、これだけの素材を一度に買い取るのは無理ですよ。ギルドの資金が底を尽きます」
「それもあったか……。なあ、これだけのモンスターを一人で討伐した魔法使いがいると言ったら、どう思う?」
「化け物ですね。オリハルコン級の冒険者でも絶対に無理ですよ」
だよな……と、ギルド長の口から再び大きな溜め息が溢れるのだった。
◆
素材の査定に時間が掛かると言うことで、酒場で待たせてもらうことになった。
酒場と言ってもギルドに隣接した施設で、運営もギルドが行っているそうだ。
それだけに客も冒険者ばかりで、まだ昼間だと言うのに賑わっていた。
「取り敢えずエールを二つに、おすすめの料理をお願いできる?」
「はいよ。あら、エミリアちゃんじゃないか。こっちに顔をだすのは久し振りだね」
「あはは、ご無沙汰してます。学院の方が忙しくて……」
銀貨を一枚カウンターに置き、慣れた様子で注文する金髪エルフ。
酒場の店主と思しき女性は獣人らしく、狐の耳のようなものが頭から生えている。
どうやら、金髪エルフの知り合いのようだ。
カウンターにドンッという音と共に置かれる木樽のジョッキ。
昼間から酒か。さすがは冒険者ギルドと言った感じだ。
郷に入っては郷に従うという言葉もあるしな。折角だし、頂くか。
「お兄さん、良い飲みっぷりだね。なかなか肝も据わっているみたいだし、良い人を捕まえたじゃないか」
「お、おばさん!?」
実のところ状態異常を防ぐ魔導具を身に付けているので、酒に酔うことがないんだよな。
しかし、この酒。正直に言って余り美味しくない。
多少の味はつけてあるようだが、薄めた果実水にアルコールを足したような味だ。
水の悪い地域では飲料水の代わりに酒が飲まれていたような話もあるし、この酒もそういう用途のものなのかもしれないが――
「はい、エールのお代わりだよ。こっちは料理ね」
まあ、飲めないほど味が酷い訳ではないので、こういうものだと思っておこう。
一方で、料理の方はなかなか美味しそうだ。
学院で出て来る料理と違って豪快で、野趣溢れる料理と言った感じだ。
なんの肉かは分からないが、食欲をそそる香りがする。
「うん、意外といけるな」
「でしょ? ここの料理は安くて美味しいのが売りだしね」
金髪エルフの言うようにコスパは良さそうだ。
ギルドの直営と言う話だし、採算は二の次なのかもしれない。
所謂、福利厚生の一環。社員食堂のようなものだと考えれば納得の行く話だ。
「あいつじゃねえのか? アドリスを一撃でのしたって奴……」
「おい、目を合わせるな。殺されるぞ」
さっきから妙に視線を感じる。
やはり訓練場での出来事が噂になっているのだろうか?
あれは俺が悪い訳じゃないんだけどな……。
ちゃんと訓練場も直したし、文句を言われる筋合いはないはずだ。
「アンタたち、なにかやったのかい?」
「ああ……実は……」
女店主に尋ねられ、訓練場での出来事を説明する金髪エルフ。
誤解を解いてくれているみたいで、俺に非がないことを強調してくれている。
やっぱり良い奴だよな。頭が上がりそうにない。
しかし、なにか礼をしたいと考えているのだが、なかなか良い案が思いつかないんだよな。魔導具をプレゼントしようかとも思ったが、一口に魔導具と言ってもいろいろとあるからだ。
「アンタ凄いね。よかったら、これも食べな。エミリアちゃんを守ってくれた御礼だよ」
そう言って、肉が山盛りに載った皿をカウンターに置く女店主。
金髪エルフの知り合いだけあって、気持ちの良い人のようだ。
ちょっと量が多い気はするが、折角なのでご馳走になるとするか。
そうして食事をしていると、
「シーナ様とエミリア様ですね。査定が終わりましたので、ついてきて頂けますか?」
丁度良いタイミングでギルドの職員と思しき女性に声を掛けられるのだった。
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