第二章「親指下げる?中指立てる?」最終話
残念がる子供達が居てそれに応えながら別れを告げるハクトが居て…
「ご指導ありがとうございました」と魔物達を前に頭を下げるユキオが居て…
そんな二人を少し離れてみるフランが居て…
「では…行ってくる」
貧民街の皆に別れを告げるキョーウンとそれに寄り添うニンフが居た。
「また帰ってきてくださるのですか?」
心配そうに誰かが言った、その不安は確かにあるだろう。「彼の存在が抑止力」という部分は今もなお消えていない、そんな彼が去る事自体が危険で最悪「前よりもさらに悪化した状態」を生み出しかねないのだから。
「それは解らんがそう心配するな。その時は…」
そこまで言って杖の先の頭蓋骨を見せるキョーウン、そして…
「この意匠を施した剣、そしてわしに似たような姿をした者達が現れて助けてくれるだろう。それを頼んだからこそ出られるのだからな」
「そうですか…」
そうは言われてもその相手を実際見ていないのだから不安が無いわけでは無いのだがその不安もユキオ達が去った直後になくなっていった。
「これからどんな道を通って言ったらええんですか?」
早速とユキオがキョーウンにそう聞いてきた、地図とそこからの位置と距離は分かるが実際の道は分からない、加えてニンフの能力についても知らない事もあり不安と心配が無いわけでは無かった。
『足場が悪くなく、可能な限り安全で、出来る限り最短の…』
そんな道があるかどうかわからないがどうしてもそんな選択肢が浮かぶユキオがそこに居た。
「うむ、道に関しては問題無いだろう…問題は…」
そこまで言ってニンフに視線を向けるキョーウン、それを察したのかニンフが笑顔で応えたのを確認してユキオに向き合うと…
「…お主ら…お尋ね者になる覚悟はあるのか?」
そう言いだした。
「え…それって…」
「この町でした事だけではそこまででは無いだろう、だがこの事は既に知れ渡っていてもおかしくはない。となれば…」
「…関所破り?」
「…そうじゃな」
ユキオの行った事の物騒さは言うまでも無いがキョーウンは寧ろ楽しそうに見えた。
「この町の…それも名士の娘を吊るしあげて辱めた罪を払うつもりかの?」
「そのつもりは無いです。そうなら最初からしてへんし」
「ならば…だな」
「…解りました」
「心配するな、その時はわしらも一緒にだ」
「…キョーウンさん」
気持ちは決まっていたと言わんばかりの様子でそう言う彼にユキオは返す言葉が無かった。
「では行こうか。少しは急いだ方が良いだろう」
「…ですね」
こうして町に別れを告げてユキオ達は北東へ…オルスト公国国境に近づいた。
心配の結果は?と言うと実は必要無かったというのが結論だった。
なんでも町での悪名は周辺にも伝わっていてどうにかしたいが親の人脈等でもみ消されていた上に手を出せば権力で返り討ちになる事が目に見えていたので嫌々黙認していたというのが現実だったらしく。
それを打ち壊した存在がユキオだった事は知られていたが…
「お疲れさん!英雄!」
そんな感じの歓迎ともとれる様子で問題無く手続きは済み、難なく見送られる形で出て行った。
「大丈夫やったみたいやね」
「そうだな…まあ誰も思う所はあったのだろうな」
そう言い合いながら笑顔を向け合うユキオとキョーウンがそこに居て。その後ろに従う他三人が居た。
久しぶりの野宿交じりの旅が数日続いた。とは言え途中途中で町とまでは行かないにしても雑魚寝できる建物と粗末ながらも食事ができる所もあったのでそればかりでは無かった事。加えてそれなりに大きな川の側を歩き続けていた事もあって水浴びや飲み水に困る事は決して無いという結構快適な旅だった。
「この先の国には大きな湖があってな、そこからの豊富な水がこうやって流れているのだ」
キョーウンにそんな案内をされながらユキオ達は道を進んでいった。
一番の驚きと言えるのは国境を越えてから次の町に着くまで結局一度も魔物に襲われる事が無かったという事だった。だからこその道の途中の施設なのだろうと後で納得するユキオの目の前に…
「…おお」
大きな…まさに城と言える建物とその周りを立派で高い城壁がその下を隠すように建っていた。
「…着いたな」
そこが目的地で間違いないのだろう、キョーウンがそう言った。
「あれが『オルスト公国』の公都…「ラーゼ」だ」
「…ラーゼ」
近付いていくほどにその大きさと立派さがひしひしと伝わってくる。
その中にも問題無く入る事が出来た。
その翌日からユキオ達の新しい物語が始まる…
第二章 完
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