第二章「親指下げる?中指立てる?」第七話
「わあ~♪」
「たか~い♪」
「ボクもボクも!」
「ワタシも~!」
「順番に乗せていきますから待ってくださいね」
「「「「は~い!」」」」
『どこの遊園地の乗り物だ?』とツッコミが来そうな程子供達が群がりながらも競う事無く順番に待つ中心に居るのはハクトだった。
あの時背中に乗せた女の子からその時の事を聞いた他の子供達が羨ましそうに思う中で所謂戦後処理という形で比較的富裕層街と言える所にユキオを除く四人がやってくると待ってたかの様に集まって来る子供達が居て、内容を確認するとフランが周りの様子を伺いながら時間の許す限りそれに応える事になり笑顔ではしゃぐ子供達に笑顔を向けるハクトに安堵しながらも「やれやれ」とどこか思うフランが居た。
『人間なら「お人好しで天然」とか言われそうね』
そう思いながら。
一方でユキオはと言うと…
「うぉらぁ!ぬうぅう!」
「うわわっ!ちいぃ!」
貧民街から出て町の外でゴブリンキングと手合わせをしていた。
『これからの為に少しでも経験を』
そう言うユキオの言葉に答える形で時にゴブリン達が、時にワイルドボア達が時に個人戦、時に集団戦で襲い掛かってくる中を最初は藻掻く様に応戦していく中で今はこうなっていた。
「どうしたぁ!逃げてるばかりじゃ身にならねぇぞ!」
始まってからユキオは一撃も食らってはいない…しかし。
(衝撃と体格さの違いがここまでとは!)
一撃一撃が発する風圧、衝撃…それを前にしていつものように「棒でいなしたり弾かれたのを逆に利用したり」という戦い方が全くできない状況に戸惑いしかなくなっていた。
相手は手加減してくれているのだろう、しかしそれを以てしても一撃でも食らえばただでは済まない、済んだとしても大きく吹き飛ばされるのが目に見えていた。
そんな対処法の検討模索はもう一人?のワイルドボアのボスとの手合わせでも同じだった。
『ひたすら突っ込んでくる車に逃げる事無く向き合って』
そんなどこか光の巨人の黎明期の特訓を彷彿させるような光景にも戸惑いを隠せず。
そんな日々がハクト達はあっちで、ユキオはこっちで数日続いて行った。
その一方でこんな事があった…
覚えているだろうか?騒乱の中で避難誘導を行った者達の存在を…その者達がキョーウンとニンフに出会った時。
「…司教!」
近付いた後そう言って膝を折る姿があった。
「そう言うな。それは最早捨てておる、名前と一緒にな」
「ですが…」
「それにあやつらもそれを許す事はもうないであろうからな」
「……」
キョーウンを司教と言った者達…実はこの国「バレスト帝国」において「国教」とも言える宗教一派だった。しかしその割には恰好に聖職らしさは無く寧ろ…そう、寧ろ「キョーウンの今の姿を戦士風に変えた」と言った方が正解だった。
「わしはキョーウン。あ奴等に破門を叩きつけた破戒僧よ」
そんな彼らを不快に思う事も無く、優しく受け止めるような表情と声でそう言った。そしてこの事実は間違ってはいなかった。それを示すように側に居たニンフを抱き寄せる彼が居てそれに従う様に寄り添うニンフの姿があった。
「こんな姿、こんな事をする者が司教などと知れればどうなるか…ふむ、それはそれで楽しそうではあるのう」
考えながら話すという姿から一瞬いたずら心に火が付いたのか少し怖い笑みを浮かべてそう言った。
「それでも私達はついていく所存ではありますが…」
キョーウンが今行った行為自体も破戒と言える行為だった、そしてその先の事も彼等は知っている…もっとも「向こうは向こうで」という部分に辟易していたが故でもあるのだが。
「それではお主達も破門になるぞ?」
「我らが司教はあなただけですから。名前を捨てて、官位を捨ててもです」
「ほっほ…言ってくれるのう」
そう言い合う間に険悪な空気は初めから無かった、それこそこんな事もせず全員が断った状態で友人同士の会話が終始だったとしてもおかしくない、そんな空気がそこには漂い続けていた。
「ならばわしの願いを聞いてはくれぬか?」
「あなたの願いなら」
そう言われた彼らはそれを確認した後もこの町に残り続けた。
女が、仲間だった冒険者が、すり寄っていた富裕層が去った後も残り続けた。
彼等が去る時…それは『人間と魔物が仲良く共存共栄する町という存在を消去する為の「町への襲撃」』の時に「逃げる魔物達の避難誘導」する為だった。
その後の彼等の行く先は分からない、はっきりしている事は今この一点においてのみユキオ達の旅路にニアミスした事だけで、これ以降彼らとユキオ達が出会う事はこの大陸を出て行くまで結局無かった。
一通り子供達を背に乗せて楽しませた日々が過ぎ…
手合わせを受ける中で模索する中での新しい戦い方を見つけ出す日々が過ぎ…
それぞれの用事が済んだと解った頃…この町を離れる事になった。
続
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