第二章「親指下げる?中指立てる?」第六話

 戦いが終わり貧民街の宿屋に帰ってきたユキオ達。

 ゴブリン達も加えての祝杯もそこそこに寝る前の水浴びをしているユキオに近づいてきたのはニンフだった。

「…ニンフさん」

「ご一緒よろしいですか?」

 そう言う彼女は場所が場所なので全裸である。普段がローブの様なゆったりした服装なので尚の事なのかスタイルとしてのメリハリはフランよりもあって筋肉質な部分が少ないせいかより柔らかそうな体をしていた。

「目は見えないんですよね?」

「はい、でも大丈夫ですから」

 そう言いながらユキオの隣に座るニンフ…その言葉通り探り探りに動いている様には見えなかった。

 いや、はっきり言って「目が見えないって嘘やろ?」と突っ込みたくなるほどにさえ見えた。

「……」

 それでももしもの為に相手の動きを見守って座った事を確認して顔を戻して体を洗うユキオ。

「…どうしてですか?」

「え?」

 その手を止めるような事を不意にニンフが言ってきてユキオは顔を向けた。

「…どうしてそんなにいつも悲しそうなんですか?」

「…悲しそう?」

「…はい」

 そう言われてユキオは思いつく理由は無かった。

「そんな事無いと思うけど?」

「そうですか?私にはそう感じますよ?」

「…絵にするとどんな感じになる?」

「そうですね……『涙が枯れてもまだ泣き続けてる』様な…そんな感じです」

「……」

 そう言われてユキオは少し自問自答する…その理由があるとするならそれは何だろうか?

「っ!」

 それで周りへの意識が無くなっていたからなのかユキオは気付かなかった…後ろからニンフが抱き着いてくる事に。

 背中に胸が押し付けられているのを感じる、そればかりじゃ無くて肌のぬくもりを感じて鼓動が聞こえるようにも思えた。

「…ニンフさん?」

「ユキオさん…慰めてあげましょうか?」

 振り返るユキオにニンフはそう言ってきた、それがその言葉通りの事だという事にも気付いていたが尚の事驚きが隠せなかった。

 彼女の人生の中でそんな時もあったのだろうか?今もそれを生業にして…キョーウンともひょっとしたら…

「…いや…ええよ」

 だがユキオはそんな詮索する事無く即答と言える速さでそう言った。

「私は別に構わないんですよ?」

「俺がしたくないからやとあかんの?」

「……」

『念願の童貞卒業チャンス!ヒャッハー!』

 なんて普通の男なら思うかもしれない、まして誘ってきた相手は間違いなく美人だった。

『据え膳食わぬは男の恥』

 なんて言葉は今もあるのかは分からないが今が正にそんな時だという事をユキオは認識していた、した上でユキオは断る。

「じゃあどうしてあなたはそんなに悲しそうなままで居るのですか?」

「そんなつもりは無いんやけどそう感じるんならそうなんやろうな」

「…そうですね」

「でももう慣れたから」

「…慣れた?」

「うん。言われるまで気づかんかったって事はこれが自分の普通で当たり前なんやろうし、それを変えるつもりも無いよ」

「……」

 そこまでユキオが言ってニンフは彼の気持ちの固さに折れる形で体を離してさっきまで座っていた場所に戻った。

「まあ…理由があるとするなら…」

「何でしょうか?」

「…その…間違ってたらごめんやけど」

「…はい」

「……性病予防?」

「性病…ですか?」

「うん」


 実際献血に言った事のある方にはするまでも無いだろう説明を一つ。

 献血時の確認の中で「性病に感染しているか?」「性行為をしたか?」に関する質問が二、三存在したりする。かなり前からは「エイズ感染の有無を確認する為」という文言も含まれ感染の可能性がある事や実際感染している事が確認できると献血が出来ない、した後にわかった場合はその血を使わないようになって久しいという。

 献血を能力としてする自分にとって「感染」は避けたいという気持ちはあった。仮に今感染してもすぐに治る能力が自分にあるとしても彼はしたいとは思わなかっただろう。


 ……それが先の理由とは別のごくごく個人的な理由だとしても。


「…それってどんな病気ですか?」

 ユキオの言葉を聞いて少し考える素振りをするニンフ。その後にあったのはそんな事を言う彼女だった。

「そこかぁ…そこからかぁ…」

 それを聞いてユキオは改めて解る範囲で説明すると同時に実際感染しているかどうか確認する事を彼女に伝えた。


 会話が終わりユキオが先に出て行って一人残るニンフ…その周りに様々な裸体の女性の幻が漂っていた。

 ユキオを心配してなのか目で追う者、「ふられちゃったね」とニンフをからかう者、その他諸々姦しい光景がそこにはあるのだが…その正体が『精霊「ニンフ」』である事とその存在に気付く者は少ない。

 普段は自然の中に存在しそこを守る様に居続けるのだがどういう訳かこの世界故なのか彼女を守る様に漂っている。


 そして…彼女達のおかげでニンフは目が見えなくても問題無く動き、戦う事さえ可能になっている。


 その存在を知り受け止めている存在がキョーウンだという事、そしてニンフの特徴で「性に奔放」という部分も受け止めている事もユキオ達が知る事は結局知らないままだった。


 続

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る