第二章「親指下げる?中指立てる?」第四話

 恐怖、恐慌、混乱…その他諸々その空気を指す全てがそこにあった。

唸りや吼え上げながら門の内部へ乗り込んでくるゴブリンとワイルドボア達を前に…いや、それよりもはっきりしていたのは…

『この時点で「この戦い」は終わったという事』だった。

逃げ惑う人々の混乱に統制を保てない兵達、ギルドは相変わらずの沈黙を保ち、満足な対処、対応も出来ない中で士気が削り取られて行く事を誰も止める事はできなかった。

 だが、後で解った事なのだが。これほどの事が起きたのに実際どれだけの怪我人と建物等の被害があったのか?と言われると奇跡と呼べるほど少なかった。それでも逃げ惑う中で転んでしまう者、人が密集して圧し潰されてしまう者、その最中や暴れまわるモンスター達による器物破損はどうしても起きてしまったが…

『本気なら建物は壊され尽くし、燃やされ尽くし、人も殺し尽くされた』

そんな光景を作るだけの力があるにもかかわらずそれと比べれは語弊だが「平穏、静寂」とさえ言える程の被害で済んだ。

「こっちだ!」

そうなった理由の一つに女と仲間達が出て行ったのを見計らってギルドから出たもう一つの集団の存在があった。

彼等はモンスター達に応戦する事も無くただ避難誘導に終始し、その中でどうしても遭遇してしまう事があってもまるでそれさえ誘導するかのような行動に出ていた。

その姿に怪訝を示すモンスターも居たがその誰もが持つ武器の柄頭を見て納得したのか最終的には誰も襲う事は無かった。

『キョーウンの杖の頭にある頭蓋骨を模した装飾が施された柄頭』

その武器を手に戦う者達には…

「っ!…」

そんな中で女も仲間も恐慌なのか動揺なのか動くに動けず慌てている様に見えた。

「どうした!冒険者!」

それを確認してユキオは彼女達に叫ぶ。

「っ!」

最早言葉も出ないのか顔と目を向けるだけしか出来ない位に遠目からも怯えている様に見えた。

「その武器で守って見せろ!狩って見せろ!それともそれは飾りか!冒険者さえ!」

「っ!言わせておけばこの野郎!」

「お前は違うというのか!?人間だろう!?」

それでもかろうじて発破をかけたり奮起する為なのかユキオに叫び返す者がいた。

「それは最早関係ない!ここまでして冒険者だろうと!人間だろうと!」

「なっ……」

「俺は!お前らが!大っ嫌いだ!この行為がこの国への反逆だというのならそれでも俺は何度でも言ってやる!俺は!お前らが!大っ嫌いだ!だからお前らをやっつけるだけや!」

「……」

一点の曇りもなく叫ぶように見えるユキオに最早声を掛ける者は無かった、それはその直後ついに城壁の上に上がり始めたゴブリン達の存在が視界に入った事もあってそれどころでは無くなっていった。

「冒険者を語るなら!人間を語るなら!人間を!この町を守って見せろ!その意思も無いなら逃げればいい!ここから飛び降りてでも!ここで自害してでもや!」

最早混乱の中の混戦の中ユキオと一緒に来た者達がする事は無くなっていた。

スリング等で引き続き攻撃はするが向こうからの反撃は最早なく、それはこの町の全てでそうだった。ある者は逃げ、ある者は投降し、ある者は自害しようとしたところをフランやハクト、キョーウンやニンフ達に止められていった。

最後まで戦い続けたのは結局女と仲間達…それも一人一人と逃げたり戦え無くなっていき…女一人の両側からゴブリン達が迫ってくる状態になった、最早逃げ場は無い。

「っ!……殺せ!どうせなら…こんな事で負ける位なら!」

混乱と恐慌の中でそう叫び始める女…しかしユキオはそれを許さなかった。

「お前ら!約束は解ってるなぁ!」

ユキオがそう叫ぶと解ってる事を示すように大声を上げた。

「だったらここからどうするか解ってるよなぁ!」

『グギャアアアアアアァ~!』

「こいつら全員吊るしあげろ!この町の何処からでも見える位に高く!」

『グギャアアアアアアァ~!』

その叫びが合図としてゴブリン達が襲い掛かる。

「ひっ!…いや…嫌ああああぁぁぁぁ……」

その叫びがこの戦いが終わった事を示す合図だった。


 その後そこにあったのは女とその仲間達が門の上で吊るしあげられた光景で。

捨て台詞か遠吠えか叫ぶ者がいたが。

「素っ裸で吊るしあげられるか首刎ねられて晒し首にならないだけましだろう?」

売り言葉に買い言葉と言えば違うかもしれないがこの世界に来て初めてかもしれない『完全なる上から目線発言』をするユキオにまだその場に残っていたゴブリン達はやれと言われれば何時でも言わんばかりの殺気と楽しんでるというかワクワクしているというかそんな空気を全身から発するので誰も最早圧倒され心身的に圧し潰されるしかなくなっていた。

「開門!」

そしてそれを確認して収まったのを確認してユキオは大きな声でそう叫ぶ、この戦いの最後の仕上げとばかりに、その直後そこにあったのは。

「うおりゃあ!」

ユキオの目の前で門が内側から…吹き飛ばされた。誰にもぶつかる事は無かったがその衝撃はかなりの物でその原因はゴブリンキングの一撃によるものだと示すように、満足げな顔で自分の武器を振り抜いた姿でそこに立っていた。

「わりぃな。どうやって門を開けるなんて分らねぇからよ」

そうは言うが悪びれた様子を感じさせないキングを前にユキオは

「…いや、風通しがようなったからええやろ」

満足げな笑みを浮かべてそう言い。

「だな!」

同じ気持ちなのか体制を戻しながらキングも笑みを浮かべてそう言った。

「さあ!帰るぞ!」

そこから先にあったのは…

『勝利した一軍の凱旋』なのか?

それとも…

『蹂躙された町を巡回する光景』なのか?

それはユキオ達に死か解る事でしかなく。

町の人々も静けさが包む中で戦々恐々するしかなかった。


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