第二章「親指下げる?中指立てる?」第三話

 夜が明けた。日は完全に昇り、この世界における時間と言う物がどうなのかをはっきり確認していないのだが(この世界に来てから時計を見た覚えが無い)体感的にはAM8:00~9:00位だろうか?大体の人は起きて今日もこれから時に…


「グオオオオオォ!!!!!!」

貧民街との間にある門から大きな音、正確には打ち壊さんばかりの衝撃が発生してその瞬間近くを歩いてきた民衆も門の前に居た兵にも緊迫が走った。

そのきっかけが反対側であろうこの町に入る為の門の外で煙が上がっている事にその時はまだ町の誰もが気付いていなかった。


…それが開始を告げる狼煙のろしだという事に。


「何事だ!」

「解りませんが貧民街の方から何か…」

「急いで配置につけ!敵襲だったら攻撃の用意も…」

兵達の上官だろう人が素早く的確に指示を行う為に声を張り上げていたその時…

「大変です!」

「何事だ!」

「街の外にゴブリンとワイルドボアの群れが…」

「何っ!」

その報告を受けている中も門からは今にも破壊せんばかりの衝撃が響く。その中でも上官は冷静で各方面で対応する形で指示、自分は今も響く門の上に上がった…その先にあったのは…

「…街が」

上から見下ろした貧民街には大きなゴブリンが門を壊さんと力いっぱい殴り、その横では交代にワイルドボアが体に括りつけた縄を縛り付けた大きな丸太を勢いよく打ち付けていく。

その構図は「門壊し」以外の何物でも無かった。

「攻撃を!っ!」

すぐさま指示をする中でも突き上げる衝撃に足を取られて立っていられなくなる中で攻撃をしようとする兵達…その視線には。

「…っな!?」

信じられない光景があった…それは

『魔物と共闘する人間の姿』だった。


 そしてそれはもう片方でも。

「攻撃開始!」

「ウオォォォォ!!!!!!」

衝撃はこっちまで届いてはいないが狼煙がちゃんと上がった事を確認してユキオが声を上げて走り出すとゴブリンとワイルドボアがその後を追って走りだし、速度の違いがすぐにワイルドボア達が追い抜いて先駆けとなった。

「魔物と…人間だと?」

その光景に衝撃と困惑が走る、攻撃と言っても近くにある石を投げるか付き添いの人間と前もって教わっていたスリングを使っての攻撃なので殺傷力と言う意味では弱いかもしれないが効果は十分あった。


『町は魔物と人間によって挟撃を受けている』その報告がギルドにも届いた、自衛の為にもと動こうとする中で先の出来事で委縮してしまった冒険者の出現もあり頼りにできる戦力は殆ど無いと言っても良かった。

それでもあの存在…名士の娘の檄によってその仲間と言える者達は町の入口側に走り、残りと言ってもごく少数が貧民街の方へ向かった。

他の者は…冒険者、いや「本当に武器を持って戦う者なのか?」と疑いたくなるほどに恐慌に駆られて動けなくなっていた…ごく一部の者がその中で動き始めた事に気付く事無く。


「どうなってるの!」

「解りません!ですがこのままでは…」

町の入口側についた女が城壁を登って駆けるとその視線の先には…

「…あいつっ!」

ユキオの姿があった。

「何してるの?」

説得なのか声を上げる女を見つけてユキオは動きを止めて声のする方を見つめた…奴がいる…雌が。

「お礼参りや!豚としてな!」

「何を言って!」

「先日にした事、忘れたとは言わせん!」

「…っ!」

「まあ…この際それもどうでもええんやけどな!」

大声で叫んだユキオの言葉がそのまま「先日の女が貧民街で言った事への意趣返し」になっていた事にユキオは気付く事は無かった。それさえ最早どうでも良い事なのだから。

「こんな事をしてないでさっさとやめて!」

「豚に何言ってんのやぁ!あぁ!?」

人として説得しようとしているのか女は叫ぶがユキオの耳には届かない、いや届いても意味が無くなっていた。

先日の事の後キョーウンにに行った事…

『あの雌にはとことんやらんと気が済まんので』それが全てとなっていたのだから。


 一方で貧民街側では門を壊されない様にと懸命の反撃が行われその中で怪我人が当然現れる…しかし。

「おおぉぉぉ!」

その中心にキョーウンは立ち、唸りの様な叫びの様な声を上げて杖を上げるとそこから光が広がり怪我を治していった。さらに言えば一定以上の怪我は無視無効と言わんばかりの「所謂回復効果のある結界」の効果もある為その範囲内の全ての魔物、人間の防御力の底上げになっていた。

それを阻止すべく攻撃しようにも。

「っ!っ!」

その前に立つニンフが仕込み杖を振るって攻撃を阻止していた。攻撃に魔法が混ざっていない事が一番の救いだったのかもしれない。

「大丈夫か?」

「大丈夫です…これ位はそよ風ですから」

攻撃が一瞬止んだ時に二人の間にそんな言葉が交わされ、全然余裕と言わんばかりに笑顔も交わしていた。


(このままじゃ…)

攻撃は止まることなく後ろからは門を壊さんばかりの衝撃と音がここにまで届いてくる中で女の焦りは膨らむばかり…根負けしたのか。

「解った!解ったから!豚扱いするのはやめるから!もう!もう…」

最後は恐怖からなのか屈辱からなのか先細って良く声…それを聞いてユキオは…

「…じゃあ…謝れ」

穏やかな顔でそう返す。

それを見て安堵しようとしたその直後。

「…俺を豚呼ばわりしたあの時に戻って俺に土下座しろ!」

「っな!…そんな事…」

「まあ無理やろな。まあ…」

この世界に時間を巻き戻す魔法なり道具があるのか解らないがあったとしてそれが「片隅の町の名士の娘」が使えるなんて事は…

『彼女がチートを受けて転生してきた存在』

だとしても難しい事だろう、何よりそうならとっくにそれを使って全てを無かった事にしていただろう。

しかし出来ない…出来る訳が無い…その現実に女は刹那の安堵からのうって返しに混乱と恐怖に立ちすくんだ。

その感情を増幅させるものをその目に映しながら…

「そんな事しても許さんけどなあ!」

その目に「あの時の怖い笑顔をしたユキオ」を映しながら…


 その直後、そんな彼女の心の決壊を示すように貧民街側の門が砕ける音がして…


土煙の中現れる…ゴブリンとワイルドボア達の姿があった。


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