第二章「親指下げる?中指立てる?」
第二章「親指下げる?中指立てる?」第一話
「っ!」
その一瞬全ては無かった事になり時間は巻き戻らないが状況は巻き戻った。
死んだ者は生き返り、燃えていた所は元に戻り、中心的存在の数名を除きその時に居た全ての人が全ての始まる前に場所に居る事に気付く。
『明らかに、確かにあった事が無かった事にして巻き戻った』
一言で言えばそんな状況に誰もが驚いていた、あれは夢だったのだろうか?誰もがそう思う瞬間それを全否定するようにその時に感覚…炎の熱さ、焼けた物の匂い、その中でも色濃く匂う血の匂い…そして斬られた感覚、死んだはずの自分…その一切が『実際に起きた事』として鮮明に残っていた。
それはあの女も、連れ添った兵やギルドメンバーもそうだったがそれを夢だと思ってやり直そうとする度にその記憶と感覚が全身を貫く…何百回も、何千回も、何万回もかもしれない程に…
それを前に一人、また一人と恐慌に駆られて逃げる者が出始め、結果的に壊走という形でその集団は消えていき、それを前にして女はなす術はなく。否応なく戦慄と恐怖をさっき通り抜けたはずの門の向こうに感じ始めるのだった。
一方でユキオ達は、正確にはユキオは光を感じた瞬間に自分の中で荒れ狂う感情が消えたのを感じるのと同時に自分の周りの明らかな変化に戸惑うもそれも一瞬…
「ハクト!」
ハクトが何かした、それも嫌な予感がしたのかそう叫ぶと同時に走り始める先にハクトに肩を貸す形で歩くフラン達を見つけそれが間違っていない事を知る。
結果だけを見れば今回の出来事でダメージと呼べる物を受けたのは…
『全身を発光させたショックで血液激減による衰弱を起こしたハクト』と
『ハクトに輸血したために軽度のデバフを受ける程の血液不足を起こしたユキオ』の二人だけだった。
「これ以上はこっちの問題が…でも…」
それでも足りないと思って焦るユキオを見てキョーウンが回復魔法を二人に掛けてくれた事で自然回復待ちも加味して問題無い状態にまで持っていく事は出来た。姿こそだが僧侶として…それもかなりの実力だという事をたった一回の回復魔法で示すには十分な程だった。
「…ありがとうございます」
「いやいや、この程度構わぬよ…それよりも…」
「間隙を突かれたということや…」
「そのつもりは無いであろうよ。じゃがきっかけになってしまったのは確かなようじゃ」
一息もそこそこに安静の為に寝ているハクトの近くで全員が集まって話をしていた、今回の事と今後の事を…
「様子を見るに改めて来る事は無さそうではあるがこのままでは終わらぬじゃろう、間違いなくな」
「…そうやろうね」
「ユキオ…」
「ハクトのおかげでどうにかなったんやから気にせんでええよ」
「でも…」
「とりあえず安静に、今はそれだけ、な?」
「…分かりました」
ハクトとしても今回の事は驚きだった。怒りを感じていたのは確かだったしそれを吐き出すつもりでした事がこんな事で結果衰弱する自分が居たのだから。
後で解る事なのだが「怒りを感じる」という状況は聖獣、もっと単純に言えば『光に属する者にとっては「負の感情」』であり、それを内に溜める事は勿論吐き出す事も体にとっては『毒を浴びながら吐き出す行為』に他ならず「捨て身以上自爆以下」の物でしかない。その代わりの効果と範囲はその者の強さと怒りの強さに比例して大きくなるがその反動も大きくなり最悪『怒りに憑りつかれて発狂』という例も少なくないという。
それは怒りに限らず『人として「ネガティブ」と取られやすい感情一切』に言える事なのだが。
「こっちから打って出るしかない…か」
「じゃがどうする?その為の手も無ければ力も無いぞ?」
遅かれ早かれ起きるなら今の機を逃すわけにはいかないとユキオはそう言うがキョーウンが当然の反応を投げかけてくる。貧民街の住人を使うなんて事は出来ないだろう、出来たとしても質も量も少なすぎて話にならない。
「その事なんやけど…」
しかしユキオにはあてがあるかの様に話を切り出してゴブリン達の話をキョーウンに伝えた。
「ゴブリンと共闘じゃと?そんな事ができるのか?」
「あの時、町が燃えているのを見て固まってしまった自分に背中を押してくれたんはゴブリン達やしあっちもやられっぱなしは好かんって言ってましたから」
「ふむ…」
その話が本当なら手はあると言っていいだろう、本当なら。
「その為の交渉をかって出るというのか?」
「ですね、ゴブリン達の気持ちもありますけど俺もそのつもりやし」
そこまで言って…ユキオの顔が「所謂怖い笑顔」に変わって…
「あの雌にはとことんやらんと気が済まんので」
一切の躊躇いも容赦も感じさせない空気を全身から出しながらユキオはそう言った。
「…っふ、雌と言うか。あの者を」
「ええ、豚と言ったあいつには雌呼ばわりで十分なんで」
怖い笑顔に優しい笑顔でキョーウンが応えてそう言えば、ユキオは表情を変える事なくそう返した。
「さしずめ『魔物の襲来と言う事にして』かの?」
「いや…『魔物の襲来そのもの』や」
「そこまで言うのならこちらはその返答待ちで備えるというとしよう、それでよいな?」
「はい、それで」
その後、ユキオは改めて単身でゴブリン達の所に向かい事の説明をした。その時にはユキオの叫びに呼応して飛び出したワイルドボアの群れの長だろうか?「巨大イノシシ」がいて、ユキオを見つけるや「良い叫びだった!久しぶりに魂が震えたぞ!」と喜んだという。そしてユキオの提案に自分達も乗る事を決めて後日…貧民街にゴブリンキングと仲間達、そしてワイルドボアの長と仲間達が集結したのだった。
続
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