第一章「決意とは?と叫ぶ者あり」最終話
「ニンフ!」
再び歩き始めて少しした時後ろから馬の走る音と一緒に自分を呼ぶ声が聞こえたので止まって振り返るとそこには白馬化したハクトに乗って駆けて来たフランが居た。
「…すごい血だけど」
フランが下りるや否や人の姿に戻るハクトより先にフランがニンフの服が血まみれになっている事に気付く。
「大丈夫ですよ、これは全部返り血ですから」
聞かれてニンフは特に動じることなくそう言った。
彼女にとっては…そう「キョーウンに会うまでの自分」にとっては『このまま一日歩き続ける』事さえ不思議な事では無かったのだから。
「返り血?…ああ」
ニンフに言われてフランが周りを見ると辺りには地獄絵図手前程度の図があった。
腕一本、足一本…人によってはそれ以上にどこかがバッサリと切られてそこから流れた血だろうかそれがそこかしこの地を染めてその上に倒れたりうずくまったりして死んでいるギルド所属の冒険者だろう姿がそこかしこにあった。
(全部…これを…)
その光景にフランは驚きと同時に少し恐怖した。自分だったらここまではしない、それに『盲目の女性が一斉では無いだろうが大人数を相手に…』という光景を想像して「もしこの人と戦ったら…」と思うだけで寒気を禁じ得なかった。
「…キョーウンさんは?」
「おそらくは門の方に、私もこれから向かう所でしたから」
「そう…じゃあ…」
ニンフに言われてフランはそう言いながらハクトに視線を向けるとそれを察してハクトが近づき。
「…失礼しますね」
そう言うとニンフを抱きかかえた。
「…大丈夫ですよ?急ぐのでしょう?」
「はい…」
「じゃ、行こうか!」
確認して三人は走り始める、そんな中で…
「…ハクトさん?」
不意にニンフが声を掛けて来た。
「…何ですか?」
「…怒っているなら時には我慢も大事ですが吐き出すのも同じ位大事ですよ?」
そう言ってきて見抜かれたと思ったハクトは一瞬驚くもそれが悪い様に思わなかったので。
「…はい」
ニンフには見えないだろうが笑顔で答えた。
一方その後ろ…町の境界辺りでは。
「うううぅぉぉぉおおおおあああぁぁぁぁぁ!」
ユキオが大声を上げて侵入者を防ぐ為なのか配置していた兵と冒険者に襲い掛かっていた。
「なっ!何だこいつ!」
その声、その様相、いや「形相」と言った方が正解だろうか。
ユキオの顔はこの世界に来る前から考えても信じられない位に怒りに満ちていた。
そしてその一撃一撃に一切容赦は無かった。骨と言う骨を折って砕く事に躊躇いを感じない位の殴打、その様子に怯んで説得しようと声を上げようとした相手の口に棒の先を突っ込んでそのまま押し倒し地面と挟んで圧し潰し、棒を取られたり弾かれた時は腰に備えた鎧通しをフル活用して刺して刺して刺して…
刺殺、撲殺…その先にある虐殺…その光景だけがそこにあり。ユキオの目にはその相手が人間であっても関係なかった。
ゴブリンキングに言われて大声を上げたあの瞬間彼の中での容赦は消えて覚悟が極振りと言わんばかりになっていた。
『魔物扱いだろうがモンスター扱いだろうが構わん!あいつらの方がそうだろうがよ!』
この一念の前に最早「同族、同種族ゆえの温情」と言う物は無くなっていた。
『殺す!殺す!殺す!殺す!殺す!………』
その一念だけが頭と体を動かし続ける。ニンフが受けた返り血と同じがそれ以上に体を血に染めて止めず止まらず駆け抜けるその姿に委縮し始める者も出始め最終的には彼を阻むものは無くなっていた。
『先日一人前冒険者になったばかり程度の相手に委縮して道を開ける先輩冒険者達』
という光景がそこにはあった。
「キョーウン!」
「…お主ら」
ユキオが町の中に入った頃フラン達はキョーウンと合流した。
「あら?お帰りかしら?」
それを見てそう言ったのはこの光景を見て悦に浸っている女だった。
「……」
フランはキョーウンの様子を確認しながら構え、ニンフはその姿に逆にキョーウンから心配される中、ハクトはフランを下ろした後静かに近づいてきた。
「何?改めて私の物になる気になったの?」
女には見えていなかった、ハクトの顔が今どんな状態なのかを…
女は感じていなかった、その体から出ているその空気を…
そして…次の瞬間、そこにあったのは…
「っ!」
「っな!何?」
突然ハクトの体が光ったと思った次の瞬間その光りは貧民街全てを覆い。それが消えた時そこにあったのは……
『襲撃される前の貧民街の姿』だった。
「…ハクト」
突然の事に誰もが言葉を失った。女もそれが連れて来た存在達も消えていた。
正に「時間がその時まで戻った」か「初めからそんな事は起きて無かった」としか言えない光景がそこにはあって。
その中で平静を取り戻したフランがハクトに声を掛けた次の瞬間。
「ハクト!」
振り向いて笑顔を浮かべようとするハクトの体が糸が切れたように崩れ落ちた。
「…ハクト!大丈夫?」
近付いて抱き起して確認するフランにハクトは笑顔を向けようとするも想像以上に力が抜けているのかかすかに動いてるかどうかだった。
「…大丈夫です…少し疲れただけですから」
「少しって…」
「ぬぅ…これは…」
少し遅れてキョーウンが近づき体を診ようと手をかざすとそう声を漏らす。
「何?」
「命に別状は無いじゃろうが衰弱が酷い、どこか安全な所で休ませた方がよいじゃろう」
「…そうだね」
かくして一瞬の光の下にあの出来事は何だったのだろうか?と言わんばかりに町は静かになった。ユキオに釣られて?やってきたワイルドボア達は他の場所で戦い、ゴブリン達が加勢する形で進む中光を見つけそれが自分達を包んで消えていったのを確認する。その時にはさっきまでの狂戦士じみた戦意や高揚は無くなっていた。
それはその先でハクトを運び始めていたフラン達に合流したユキオも同じだった。
続
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