第一章「決意とは?と叫ぶ者あり」第八話
ユキオ達がゴブリン達の所へ向かった少し後、貧民街とその中を隔てる門が開いたと思ったらそこから出てきたのはユキオにプン殴られた女とユキオ達に叩き潰されたギルドメンバーと…どこからか用意した兵士だった。
「…どういうつもりじゃ?」
その登場に騒然とする中をキョーウンが駆けつけて問いかける、ニンフは「後から追います」と言ったが目の見えない女性を危ない場所にと心配する彼を半ば追い出すように急かしたのもあって急いで向かった。
「居るんでしょ?解ってるから」
不敵な笑みと言えばいいだろうか?そんな笑みをして開口一番女は言う。
「誰がじゃ?」
「とぼけるの?」
そう言うと女は手を上げる、それを合図になのか兵士が弓を構える、つがえているのは火矢だった。
「この私をぶん殴ったあいつの事よ!」
「あやつなら今はいない、出ておるよ」
「かばうの?だったらあなたも同罪ね」
そこまで言うと今度はギルドメンバーが武器を構え始めた。
「ふふっ♪」
実は今回の出来事は言った事が原因で起きた事では無かった。
答えを言えば「折角見つけた良い機会」だったからに他ならなかった。
『この町の更なる発展の為に…みすぼらしく汚れた貧民街は不要』
そうは思っても自分の気持ち一つだけで事を起こしては問題や角が立つ…という程度の考えはあったがそれが無ければとっくに更地にして、住んでる奴等も追い出して…そう思っていた中での今回の出来事だった。
『貧民街に住んでる人を迎え入れる事は?』
という考えもあるだろうがそれが出来ないからここに居る人達ばかりだった。
税金の上に上納金、断れば商売が出来なくなる位に店をめちゃくちゃにして止めようとすれば腕一本で済めば軽い位の暴行の果てに追い出された者達なのだから。
「かばうつもりは無い。あやつのことじゃ、こんな事をすれば真っ先に来る事位解っておろう?」
「そうね…まあ…」
…だからこそ…この会話自体に意味は無かった。
「…どっちでも良いんだけどね!」
そう言って女が腕を振り下ろすと兵士が一斉に近くの民家に火矢を放ちギルドメンバーがキョーウンばかりか近くの民衆にも襲い掛かり始めた。
「…貴様」
「あいつに言って?…良い機会をあ・り・が・と・う・って♪」
笑い混じりにそう言う女を睨むキョーウンの周りで火の手は強くなり、逃げ惑う民衆を追いかけるギルドメンバー…ゴブリンがそれを見つけて伝えに来たのはその時だった。
「…これは」
手に杖を持ち家を出たニンフの鼻に何かが燃えている匂いが漂い、耳に悲鳴を上げて逃げ惑う声と「所謂ヒャッハー」しているギルドメンバーの声が聞こえて来た。
「……」
一大事と思い。しかしキョーウンがどこに向かったかを知ってはいても無事に向かう事は無理だと思った彼女は杖に仕込まれたスイッチを解除してから杖を突いて歩き始めた。
「…ニンフさん!」
それを見つけた住民の一人が心配になってなのか声を掛けて来た。
「危ないですよ!ここは早く!」
そう言いながら近づこうとするとそれで気付いたのかメンバーの数人がニンフを囲んだ。
「おお?イイ女じゃねえか!」
「でも目が見えないみたいだぜ?」
「そんなのかんけぇねえ!どうせ
『なめずりしながら自分の体の品定めをしている』
自分を囲む…4人だろう相手からそれを感じるニンフがそこに居て、声を掛けた人は見殺しになってしまうが自衛の為に逃げて行った。
「…どきませんか?」
「どいて欲しけりゃ俺達と良い事しようぜ?」
それが何を意味しているかも解っている。彼女の中でそうやってその場をしのいだ事もあった事を思い出す。
「…そうですか」
だがそうじゃ無いと思った相手に怯むことなく歩き始めるニンフ。
「おい待てよ!」
真正面の相手がまるで自分達の存在を無視するように歩く事に腹を立てて手を伸ばした次の瞬間だった。
「つっ!…っ!」
その手が激痛と共に弾き飛ばされたと思った次の瞬間、自分の首元に刃物が付きつけられていた。その瞬間その場の空気は一変した。
「…どきませんか?」
「っ!この!」
「アマぁ!」
それが口火か一斉に襲い掛かるメンバー、だが次の瞬間そこにあったのは…
「ぎゃあああ!」
「うああああぁ!」
「ひっ!ひいいいい!」
「血がっ!血がぁ!」
一瞬の閃きがあったと思えばそこにあったのは腕の一本か脚の一本かそれ以上かはわからないが…
『斬り飛ばされてそこから血を吹き出して悶え叫ぶ姿』がそこにあった。
「う…う…」
倒れ込む相手が進む先にある事を確認していても歩みを止めないニンフに…
「死にたくない!死にたくないよぉ!」
さっきの威勢はどこに行ったの斬られた場所から吹き出す血を抑え這いずる様に動きながら叫ぶ相手に…
「死にたくないのに殺すのは良いんですか?」
最初から今まで一切表情は変わる事は無い。無表情の様で少しだけ笑みを浮かべているようで…どっちであっても相手から不気味と恐怖と戦慄と…その一切を与えるには十分だった…そして…
「…甘いです」
「っひゅぶっ!」
刃の持ち手を変えるとその相手の喉仏辺りを貫いて、相手が動かなくなった事を確認したのか抜くとそこから吹き出す血を全身に受けるニンフがそこに居た。
その時にはその場の誰ものが近づこうともしなくなっていた。
(ああ……懐かしい……この匂い…この温もり)
拒むことなく全身にかかり、服の内側に流れ込んで服を貼り付かせる感覚。それ以上に感じる鼻からと肌に感じる感覚を噛みしめながら刃を納めて歩き始めるニンフ。
その杖が「仕込み杖」だという事に気付いていたとしても彼女を止める者はそこに居なかった。
続
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