第一章「決意とは?と叫ぶ者あり」第七話
ゴブリンキングはこう言った…
『前はこの町の北の森の中を住処にしていた』と。
そこはこの町とさらに北にある町の中間あたりの位置にあった為時に人間を襲う事もあった事もありいよいよなのか二つの町のギルドから挟み撃ちの形で襲撃を受けて住処を追われたという。
「まあいつかはそうなるこたぁ解ってたがよ?モンスター扱いされてる以上はよ?」
それに対してキングは「大変だったよ」とは言うがその様子に深刻さは感じられなかった。モンスターに同情するのはおかしいかもしれないがそれ相応の死傷者は出たはずだろうから。
その後今の住処に変わり先の襲撃で減った分を戻しながらも周辺に居た他の魔物やモンスター達との交流も始まり結果としては前の住処よりは安全で快適だという。
しかし完全に回復したわけではない以上は警戒は怠る事は無く、その結果が先の出来事であり復讐の念が無い訳でもない事もあってその機を伺っていたのも否定しなかった。
「それだけなら良かったんだけどな…」
そこまで言って話を区切る様にキングはそう言うと顔が少し曇ったようにユキオには見えた。
「先に襲われたって話をしたよな?その先導をしたのがその女って奴よ」
「聞いた話だと地元の名士の娘やって聞いたし領土の安定のとか…」
「いや、そうじゃねえって話をよ?他の奴等からきいてな、探りを入れる意味で覗いてみたらってやつさ」
「…貧民街」
「そう言うのは人間社会の中だけらしいけどな。あんなに守る気の感じられない町なんて初めて見たぜ?」
「…そうやね」
実際その通りだから反論しようがなかったがその心境をキングが察したかどうかは解らなかった。
「…やから襲うとか?」
「それも良いけどな。それだけってのはやだな」
「それだけ?」
「ああ、まるであいつらが見捨てた奴等だけを襲ってそれだけって事になったらあいつに頭を下げるようなもんだ。それだけはやだな」
「それだけや無いとしたら襲うとか?」
「…まあな、何時かはな」
そう言うキングに躊躇いは無く当たり前の事の様にそう言った、先の住処でもそうして生きて来たのだろうからいつかは生きる為にしないといけないのだろうと思いユキオはそれを頭ごなしに否定する事無くスルーする事にした、ハクトとフランも同じ気持ちだったのか責める事はしなかった。
「あの町を襲うって言うならあの女に一泡ふかせなきゃやってられねえよ」
それが本心なのか怒り交じりと思える口調と様子でキングは言い、他のゴブリンも同じような気持ちだったのか個人差こそあれ頷いた。
「それが出来たら町の人間は襲わないとか?」
「よっぽどの時は仕方ねえけどな、町を襲ってまでして奪い取る物なんてねえよ」
「……」
相手の言い分は一通り聞いた気がしたユキオはそこで話を終わりキョーウンに教えて反応を聞こうと思い、そうしようとしたその時だった。
「キング!大変でやすぜ!」
一匹のゴブリンが慌てた様子で走ってきてそう叫んだ。
「何があった!」
「あの町に火の手が上がってやす!」
「何ぃ?」
「っ!」
そう叫ぶキングの声を聞くが早いかユキオは町の方に走りハクトとユキオも後を追いかける。その後にキング達が追いかけていくとそこには…火の手が上がる町の姿があった。
「何で…」
「解らねえがあの女のやりそうなことだな」
見た瞬間頭が真っ白になって言葉が出なかったユキオにキングは苛立ちながらも何時か起きるだろうという諦め交じりの様に聞こえる声でそう言った。
「っ!」
怒りが…この世界に来て苛立つ事は何回かあったが初めて感じた怒りが真っ白になった自分の中で沸きあがるのを感じるユキオにハクトは何かを感じて顔を向けると、その目に映ったのは「怒りと悲しみが混ざったような顔をしたユキオ」だった。
「…ハクト」
「…何ですか?」
「フランを連れて急いで町へ」
「ユキオはどうするんですか?」
「俺は後から追いかけるから」
「でも…」
「早よして!」
「っ!」
怒号を押さえつけて出来る限り穏便に話そうとするユキオの叫びに何を言っても無駄だと思ったのはハクトよりもフランが先なのかハクトの腕を掴んで振り返る彼の前で顔を横に振った。
「……」
(怒りなら…私だって!)
そう思っていたがそれ所では無いと思ったハクトは馬の姿に変わるとフランを乗せて走って行った。
「……っ!」
その背中を見つめて追いかけようとするユキオ、しかし体が動かなかった。怒りと悲しみが強すぎて動けなくなっている事に気付けなかったユキオに。
「…そういう時は大声上げて、駆け抜けるんだよ」
キングが諭すようにそう言ってきた。
「大声上げて…駆け抜ける」
「ああ、どうにもならねえ気持ちは吐き出すに限るからよ?それにそのまま突っ立ってるままにはいかねえんだろ?」
「……(コクリ)」
「だったら…な!」
キングが笑みを浮かべてそう言う。まるで「後輩の面倒を見る先輩」の様にユキオには感じて過度な力や緊張が取れていくのを感じた…代わりに浮かぶのが「殺意」だと気付く事は無く。
「…ゥぅぅうううううううあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
声の限り、力の限り叫んでユキオはハクトの後を追いかけた。
「…っへ!良い叫びじゃねえか」
それを聞いて喜ぶキングが居て、その直後…
「お前等見てみろ…あの叫びに応える奴らが出て来ちまったぜ?」
そう言って周りを見る様に言うとその目にはユキオの後を追いかける様に茂みから飛び出すワイルドボアの群れだった。
「で?お前らはどうなんだ?」
それを確認するまでも無くゴブリン達の目が据わっていた。
「…じゃ!やるこたぁ一つだよなぁ!」
その後あったのは大声を上げてユキオの後を追いかけ始めるゴブリン達の群れだった。
続
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