第一章「決意とは?と叫ぶ者あり」第五話

「おい、今の話間違いねえんだよな?」

「へぇ。姿こそ人間ですが遠目でも解るあの感覚…間違いねえです!」

翌朝、そんな会話があったのは茂み近くのゴブリン達の住処だった。

一人は大柄の…いや「人型の岩」と言われそうな3m?…5m?それ位の大きさの人間だったらまず見上げるしかないだろう程の大きさのゴブリンと、もう一人は「小物で下っ端」感全開と言わんばかりの小柄で基本猫背とは言えさらに背中を丸めて応えるゴブリンだった。

「…他の奴等もそうだって言ったのか?」

「見た奴等全員って訳じゃねえですが感じた雰囲気を確認したら大体同じでしたぜ?」

「ふむ…」

『手下が頭に報告』と言わんばかりの構図がそこにあって大きな方がそれを聞いて少し考えるふりをした。


実際はその通りで大柄の方はこの群れを纏める『ゴブリンキング』であり、もう一人は斥候や偵察を兼ねて動く下っ端の中でのまとめ役的存在だった。


「どうしやす?あの住処を襲うつもりだったんでやしょ?あいつが聖獣なら問題でやすがそばに居た奴等も強そうでしたぜ?」

「襲うつもりはあったけどよ…それは元々あっちのせいだろ?このままで終わらせねえ事位は誰も同じじゃねえか?」

「それは勿論でやす」

「…見つけた奴等があっちの味方ってんなら難しいかもな」

「…そうでやすね」

「その辺りを調べる事は出来ねえのか?」

「潜入させる事は出来やしょうが見つかった時はどうなるか…あいつらの事だし」

「……」

「…向こうからこっちにやって来るなんて事は」

「それは難しいんじゃねえか?人間の側に居るって事はあいつらの味方と思って間違いねぇだろうしよ」

「……」

「とりあえず向こうから襲い掛かって来る事が無い限りは手を出すなって全員に伝えとけ。その代わりその時は何時でも襲える様に囲む位は許すからよ」

「へえ!」

そこで二人の会話は止まり、一旦この話はここまでと言う事になった。


一方、ユキオ達の方はどうだったかと言うと…


「ゴブリン達に近づくじゃと?」

「出来そうやったりします?」

実はゴブリン達にとっては願っても無い事を考えていた。

「お主らの言うとおりならこちらが襲われる心配は無いじゃろうが、こちらから近づくという事は余計な警戒を生みかねん」

「それはそうなんやけど…」

キョーウンに提案するユキオがそこに居てハクトとフランはユキオの判断にゆだねる事は昨夜の出来事の後の相談で決まっていたのか何も言わなかった。

「行く先が決まったとするならその為の手は取りたいんで」

「ふむ…」

キョーウンはユキオの思惑に気付いていた、ここでの問題が無くなれはここを離れる事が出来るだろう。そうなれは付き添っていく事が出来るからその先の問題も無くなるだろう…それだけの理由だけならと言う事をユキオが知らないだけで。

「…応えてあげてはいかがですか?」

そうキョーウンに声を掛けたのは翌朝宿屋一階に全員が集まった時にキョーウンが連れて来た女性だった。

「ニンフ…じゃが」

困りながら反応するキョーウンにニンフと呼ばれた女性が静かに笑顔を浮かべる、しかしその目は開かず顔を向ける先も何処かずれている…その理由は「彼女が失明しているから」なのだがそれは最初の自己紹介の時点で全員が確認していたのでここで改めて問題に上がる事は無かった。

「キョーウン様が付いていくというなら私も付いていきますから」

「じゃがしかし…」

「目が見えないからと言って動けない訳ではありませんし」

「むう…」

彼女を心配するキョーウンに凛とした様子で言う光景からもそれが答えと言わざるをえなかった。

「ニンフさんの問題言うより、ここを襲われる事の方が問題って事ですよね?」

「…そうじゃな。わしが付いて居れば一緒に動く事は可能じゃ、しかし今のままをほおっておいてはここはいずれ…」

「その辺りをはっきりさせたいからと言うんもあるんです。ええですかね?」

「……わかった、じゃが行くならお主達だけになるがそれでもよいか?」

「それで全然かまわんですよ。ここの備えはそのままでええんで」

「わかった。行くとするならいつにする?」

「可能ならこの後にでも…」

「気持ちは初めから決まってわしの返答待ちだったという事か?」

「そうやね」

「ならばわしが止めることは出来ぬな。用意が出来次第向かえばよい」

「はい!…では」

その確認が出来たと見るやすぐに全員が席を立ち出ていった。

「…変わった方々ですね」

ユキオ達が去った後、ニンフがポツリとそう言った。

「お前もそう思うか?」

「はい、初めて近づいた時から解ってましたから。あの人達とは違うって」

「それはわしも解っていたよ。じゃがそれはそれと思っておったのに」

「フフ…でもどうしても無理だと止めるつもりは無かったのでしょう?」

「…そうじゃな、あ奴らが心配だからってだけじゃな。それでも行くなら止められんじゃろう」

「そうですね…後は…」

「…そうじゃな。どう転んでも備えられるように準備するだけじゃな」

そう言うと席を立ち出て行ったキョーウンとニンフ…その頃にはユキオ達は外縁の外に出ていた。


 しかしこの時全員が失念していた…他にも動き始めていた存在があった事に。


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