第一章「決意とは?と叫ぶ者あり」第四話

 向かった先の宿屋は「必要最小限だけがある宿屋」と言える物で、それも「よく言って」と言う物だった。

清掃は行き届いているが粗末さや老朽化の印象がそれを相殺するほどで、枕やベットの質も当然落ちている。風呂も無く水浴びをして体をふく事が出来る程度の事しか出来ない場所だけがあり。トイレも粗末で不衛生感が先と比べると相対的にはどうしても付き纏う感じて。

その代わりの低料金こそあれそれを相殺して「じゃあ選ぶか?」と言われれば躊躇いは隠せないだろう…ユキオ達はともかく。

「っかぁ~!やっと一息つける!」

その宿屋一階の食堂で酒を飲んでそう言うユキオがそこに居た。

種類も少なく粗末な食事、だが量に関しては問題無くそれら自体も彼等の基準の低さもあってかもしれないが満足するに十分だった。

現状今もエール片手にテーブルに並んでいるのは燻製と漬物(ピクルス?)程度しかないのだがユキオはそれでも大満足な様子でそれを見てフランとハクトは微笑んでちびちび飲んでいた。

「良い飲みっぷりじゃのう!」

喜んでそう言うのはテーブルに相席してるキョーウンだった。彼も外見に囚われないほどに飲んでいた。

「いや~やっとやぁ~」

本当に一息ついたと言わんばかりに息を吐きながらユキオはそう言った。

「気に入ってもらえて何よりじゃがここまでとはのう」

「まあ最悪野宿でもと思ってた分あったし」

「これ位の宿屋で泊まる事自体は珍しい事じゃないから」

「私は泊まれるだけでありがたいですから」

「うむ、そうか」

三人の反応にキョーウンが楽しそうだった。

「…所でここの向かう途中で少し聞いたのじゃが改めて確認しても構わんかな?」

「あ…ええですよ?」

 そこからユキオは改めて先の宿屋で話していた事をキョーウンに話した。それを前に時々頷きながらキョーウンが応えた。

「ふむ、確かに今回の事はもう知れ渡っていると思っても間違いないじゃろう、そうなると迂回する方が穏便じゃろうな」

「…そうですか」

「じゃが…問題はその先じゃな」

さっきまで「賑やかな飲み会」的な空気はその時は一旦落ち着き、静かなやり取りがそこにはあった。

「その先ですか?」

「そうじゃ、おぬしらは知っておるかのう?公都の先を拠点とする集団の事を…」

「公都の先?」

ユキオとハクトは当然知らない事だった。ハクトは存在として世界が違うしそれ所では無かったし、ユキオは今この世界を知り始めている進行形の中にあるのだから。

「…確か、「武闘派の宗教団体」の拠点があるって話よね?」

その中でフランがそう言うとキョーウンが頷いた。

「武闘派の宗教団体?」

「そうじゃ。まあ近づく者は誰彼構わず襲うような者達では無いし、それこそここのギルドの奴等より話の分かる者達じゃよ」

「…知ってるんですか?」

「まあのう、じゃが見ず知らずの存在を通すとなると何が起きるか解らぬしあ奴らが独自に作った砦の通行料で吹っ掛けられる可能性も否定できんじゃろう?それでも通れるがそれは困るじゃろう?」

「まあそれは…」

本来の計画としては暫くはこの町にとどまりレベリング兼資金稼ぎのつもりだったがそれが完全に頓挫した以上余裕はあるにしても可能な限り払いたくないというのが本音だった。

「わしが付き添ってそこまで行けるならその心配は無いじゃろう。本当はわしが書いた手紙を持たせてそれで事足りる様にしたいのじゃがそれでも難しいかもしれん」

「……」

「じゃが…わしは今それをする事が出来ん」

「ここから動けないって事ですか?」

「まあそうじゃな…飲み終わったら外へ出よう、案内したい所があるのじゃ」

「…分かりました」

そこで会話が一旦終わり飲み終わった後キョーウンに案内されて向かったのは町の外縁だった。そこでは自警団なのだろうか?でもさっきの町の中に居る存在よりも装備も武器もみすぼらしさが目立ち「一般市民が武器を持ってるだけ感」がどこまでもあった。

「……あれじゃ」

そんな相手に挨拶して通り過ぎた先でキョーウンが視線を促すようにそう言われてユキオ達が視線を向けるとその先にあったのは……こちらを睨む様に、茂みのあちこちから姿を現しているゴブリンの群れだった。

「……」

「あ奴等の存在への警戒と自警団と言っても名ばかりの者達を支える事もあってここから離れる事が出来んのじゃよ」

そう言われてユキオがさっき挨拶した自警団の人を改めて見ると「備える」と言うよりも「怯える」という印象が強いように感じた。


『もし襲い掛かって来る事があったら戦う事無く逃げて瓦解するかもしれない』


そんな印象を感じさせるのは十分でそうさせない為の存在こそが彼であるという事に言葉が無かった。

「…ギルドは?」

聞くまでも無いだろうと思ってはいたが念の為キョーウンに聞いてみると。

「どうにかしてくれるならこんな事にはなっておらんじゃろう?」

予想通りの返答だった、あいつらの事だからこういう事を押し付けこそすれ自分達でどうにかするなんて思わないだろう。

「……」

だが、そんな中でユキオは違和感を感じ始めていた。それはこの世界に来て初めての頃のハクトとハウンドの共同生活の中での意識のせいもあるからなのかそれがどうにも否定できないと思ったユキオは…

「ハクト…ちょっと」

ハクトを呼んでそれに気付いてフランもやってきた。

「どうかしたんですか?」

「ん~…間違ってるならごめんやけど…」

「…何ですか?」

二人を前に疑問をぶつける。

「…向こう…怯えてない?」

「ぬ?」

そう言いだすユキオに少し驚くキョーウン、だがその直後にあったのは…

「…そうですね…そう見えますね」

「やっぱりそう思う?アタシもそう思ったよ」

ユキオの疑問を肯定するハクトとフランだった。


 一方でそんな四人を茂みに隠れながら見ていたゴブリン達は…その通りだった。

だが彼らは彼等で別の違和感を感じていた。


翌日、先に動きがあったのはゴブリン達だった。


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