第一章「決意とは?と叫ぶ者あり」第三話

「明日にもこの町を出ようと思うんやけどって言ったらどうする?」

ギルドでの大乱闘を終えて宿屋の部屋に戻るなりユキオがそう言いだした。

「私は構いませんよ。フランは?」

「アタシも良いよ、でもどこに向かうの?」

「…それやねん」

ノープランでいきなり言い出した部分がありそれに悩むユキオがそこに居た。

「向かうとしたら二か所よね?」

「ギルドカードの地図を更新して確認する限りはそうやね」

その確認は出来ていたのかフランの提案にユキオは答える。


 方向としてはこのまま北上してこの町も含めた「バレスト帝国」領内を進むとするなら次の町になる「アンダックの町」かここから北西へ向かって国境を越えて隣の国「オルスト公国」の「公都オルスト」へ向かいそこから北上を再開するかになる。

国境を越える事に関してはギルドカードが有効な限りは問題は無く最悪通行料を払えば良い(料金自体もそれほど高くない)。

「最短距離を行くならこのまま北上やけどこの町で騒ぎを起こしてしまった事を考えると難しいかもな」

自分で起こしておきながら改めてその事が問題になるとその時には気付かなかった事に自分の短絡さに気が沈むのを止められなかった。

ギルド内はある程度の治外法権が認められてはいるもののあれだけの事をしたんだからギルド伝いに知れ渡る可能性は否定できない。ギルド出禁と言う事にはならなそうではあるが昨日の今日で改めてギルドに行ってクエストを探すなんて事は出来なさそうにユキオは思った。

「気にしなくて良いわよ。ユキオがしなかったらアタシがしてたと思うし、その時はどうしてた?」

「そりゃあ助けるよ、ハクトは?」

「私もですね」

「じゃあ仕方なかったのよ。何ならあいつらが悪かったって事で良いじゃない」

「まあせやな」

その事に関しては否定しないユキオだった。

「それにしてもあんなに躊躇いなく女性を殴り飛ばして…恨みでもあるの?」

「恨み?あの人への恨みはないよ?イラッとはしたけど」

「ふーん…じゃあ女性が嫌いとか?」

「それは…まあ質問に質問で返す感じでごめんやけどさ」

「何?」

「あの状況でその答えって意味ある?」

「…それもそうね」

返す言葉が無いのか肩をすくませて苦笑い交じりのフランがそこに居た。

「これからもあんな事が起き続けるのでしょうか?」

思いだして辟易してるハクト。その言葉通りなら慣れていったとしても想像するだけで疲れそうではある、それに関してはご苦労様としか言えない。

「その時はまた暴れたら良いんじゃない?」

「それでまた別の町へか?きり無いし路銀が足らんって」

気持ちは同じだったらしくフランは乗り気な様子でそう言いだし、ユキオは冷静に問題を言いながら諫めた。

「だったら次の町に向かう間に狩れば良いじゃない」

「何が必要かも解らんのに狩ったって荷物が邪魔になるだけやって…」

そんな今日の出来事と明日の予定について話していたそんな時、ヘアのドアをノックする音が鳴った。

「…ん?」

「…もし、ここにユキオ・モチヅキなる者がいると聞いてきたのだが?」

ドアの向こうからは男性の老人の声がした。

「……」

「…警戒しておこうか?」

「お願い」

さっきの逆襲と言う可能性は否定できないと思ったユキオが躊躇っているとフランがそう言ってきたのでお願いしてドアに向かった。

ドアを開けるとそこには……

「…え…っと」

「…何じゃ?」

その居たのは声の主である老人が一人だけで心配は無さそうだった…のだが…


『黒衣の僧侶が着てそうな法衣をつけその端は所々破けている』

『手に持つ杖の上部にはどくろ…それも「それをかたどった」では無く「本物のどくろ」が付いている』


そんな僧侶?な老人がそこに居た。

「いえその…服装が独特やなって」

「ほっほ…まあ好きで着ておるからのう、中に入ってもよろしいか?」

「まあ…それは」

相手は老人で僧侶?と言うには気さくな人だったらしくユキオの反応に不快感を感じる事も無く返してきた。

部屋に招き入れるなり老人の姿に別の意味で警戒するフランとハクトだったがそれに対しても気さくな反応をしたので毒気が抜けたように警戒を解いていった。

「先に挨拶をしよう。わしの名はキョーウン、こんな姿じゃが一応は僧侶じゃ」

「俺はユキオ・モチヅキ。こっちはハクトで…」

「アタシはフラン・ジューンよ」

「それで俺に会いに来た理由はなんです?」

「いやなに、ギルドで大暴れした者達が居ると聞いてな。会ってみたくなったのよ」

「はあ…そのせいでギルドに行きづらくなってしまいましたけど」

「ほっほ…まああ奴等には良い薬じゃろうて。じゃがこの町に残り続けるなら少々厄介な事になるであろうな」

「厄介…ですか?」

「うむ…お主が殴り飛ばした相手を覚えておるか?」

「はい」

「あ奴はこの町の名士の娘でこの国の中央にもつてのある家柄でな、それを囲む様にギルドのメンバーが実質この町を占拠してる様な物でクエストも儲けの良い分は大体あいつらが先に持って行って後に残るのは儲けの少ない物か危険の多い物ばかり。そんなものは他に押し付けて断れば脅迫でも腕づくでも黙らせてばかりじゃよ」

「……」

そう聞いてユキオの中で疑問が一つ浮かんだ。

さっきの大乱闘の中、その集団であろう相手と戦ったのだが…

『動きが遅く、一撃が弱い』

という印象が最初から最後まで消えなかった、要するに「戦力として弱かった」のである。

「それって…弱い者いじめってことじゃ」

「そうじゃな…それで悦に至る事しか考えておらん奴等ばかりよ。そんな相手にあんな事をしたのじゃ…ともなれば」

その時ヘアのドアをノックする音が聞こえて出てみると宿屋の店主がそこに居て言われたのは…

『すぐにでもこの宿から出て行って欲しい』だった。

「やはりそうなったか」

予定が速くなったと思って出て行く準備を始めるユキオ達を見てキョーウンがそう言う。

「これもやはり」

「そうであろうな…ここを出て宿はどうするのじゃ?」

「最悪野宿します、フランは?」

「アタシも最悪そうかな何だったらここを出てすぐに町から出ても良いわけだし」

「でもどっちに行くか決めてへんで?」

「それは…」

「…ここよりは粗末になるがそれで良いなら別の宿を案内しようか?」

「あるんですか?」

「うむ、それに目的地が決まらぬままで町を出ても問題があるじゃろう。わしでよけれは相談に乗ろう」

「…ありがとうございます」


 用意を済ませて早々に宿を出る。店主は申し訳なさそうに見ていたが「迷惑料として」と一言入れてユキオはもう一泊分のお金を半ば押し付ける形になったが店主に渡してその場を去りキョーウンについて行った。


………その先は町の中ほどを仕切る門の向こう側に存在する所謂「貧民街」の安宿だった。


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