第一章「決意とは?と叫ぶ者あり」第二話

 この町でもこの光景は避けられなかった…

ギルドに入るや否や片やフランの体を吟味するように身を乗り出して視線を送り色めく男性冒険者達が現れ、片やハクトを見るや黄色い声を上げて色めき立つ女性冒険者達が現れて、その間を歩くユキオに対しては存在自体を無視するような空気が流れ。

受付についてギルドカードに地図のアップデートをお願いした後クエストを探そうかとすると早速絡み始める男性冒険者達がフランを囲み。

「そんな事より俺達と良い事しようぜ」的な事を言いながら首に腕を回して息がかかりそうな程顔を近づける者達の側でユキオを押しのけてハクトを囲む女性冒険者。

「パーティー加入と言うよりも婿探し」と言わんばかりの様子で。

その間でユキオは最早諦めに近い気持ちで…いや、それは実は転生前から思っていた事なんだがここに来てより露骨で堂々とされると清々した気持ちになり自然と口に出る。


「…どこにでもおるな。盛りの付いた雌って奴は」

その言葉を聞いてハクトを囲んでいた女性冒険家達の空気が凍り付いたがユキオは動じる事は無く、ハクトは二回目と言う事とフランとの会話もあって戸惑う事は少なくなっていた。

「何言ってんの?このブタ」

売り言葉に買い言葉と言わんばかりに女性冒険者の一人がそう言い、他はそれに賛同する等に侮蔑の笑いを浮かべていたが…

「…そうね。盛りの付いた雄もね」

ユキオの言葉に笑い混じりで賛同するようにそう言うフランが居た。

「あぁ?何言ってんだ?」

こっちはこっちでいきなりキレかける男性冒険者が声を荒げる。

「その通りだと思って言ったけど?ユキオもそうでしょ?」

「そうやね」

そう言うや否やさっきまでの空気がそのままピリピリした空気に変わっていく中で武器に手を掛けようとする者もで始めていた。

「てめえ…馬鹿にするんじゃ…」

「馬鹿にしてるのはどっちなの?ねえ?」

「そうやね。そっちもそっちでブタの鳴き声に何イラついてんだか」

「このっ!」

「ブーブーブーブーブーブw」

言われて逆撫でされたと思って声を荒げる女性冒険者を更に煽る様に両手を握って親指を出して下に向けて上下に下げながらユキオはそう言いだす。

「それ面白そうね。ブーブーブーブーブーw」

本当にそう思ったのかフランも同じような事を男性冒険者達にやり始めた。

「こいつっ!」

「ぶっ潰してやる!」

それが逆鱗なのかその言葉を切っ掛けにユキオ達に襲い掛かる。

最初に動いたのは男性冒険者達、それに向かってフランは…

「っ!っ!っ!」

相手が動くや否やそれを察知して即座に構えて…直後二つの閃きがそこにあったと思った次の瞬間そこには三人倒れていた。

(お?)

それを横目で見ていたユキオの目にはこう見えていた…


『一人目には剣を抜きながら剣の柄で相手の顎をしたから打ち上げて、その後ろの二人には素早く切りつける』


ハクトの目にもそう見えていた…そんな直後。

「っ!あぶない!」

その時にはユキオに刃を振り下ろそうとした女性冒険者をユキオよりも早く見つけたハクトは…

「がはっ!」

その相手の横腹に十分に威力と体重の乗った蹴りを浴びせた。相手は結構遠くまで飛んで行った。

「ハクト?」

「大丈夫。私も戦います」

「…ん」

「邪魔をするの?そんなブタの仲間をする位なら…」

「そんなブタの仲間で何が悪いですか!?ユキオは私の仲間です!悪く言うなら許しません!」

初めてと言える程の所謂「啖呵を切る」ハクトを前にして女性冒険者達は一旦怯むもそれも一瞬か「可愛さ余って憎さ百倍」と思ったのか一斉に襲い掛かって来た。

 その後そこにあったのはユキオ達三人がその時そこに居た冒険者達の大半を相手にまわしての大乱闘で。その後にあったのは…

『フランの周りに死屍累々(に見えるが生きてる)な男性冒険者達』

『ユキオの周りに死屍累々(条文同じ)な女性冒険者達』

『フランとユキオの間で何時でも構えられるように備えるハクト』

だった。


「…っ!」

その中でまだ大丈夫だったのか一人の女性冒険者が立ち上がり、ユキオは備えながら静かに視線を向けた。

「こ…この…女性に向かってなにを…」

彼女が痛みに耐えながら途切れ途切れにそう言った瞬間。

「あぁ!?」

怒気を孕んだ声でそう言いながら相手に近づくと…

『っ!?』

その瞬間、その場の誰もが戦慄したという…そこにあったのは…


『一切の躊躇いも無く女性の顔面を全力で拳で殴る男の姿』だった。


「っつ!?」

殴り飛ばされて地面に倒れる女性冒険者、それを前に拳を振りぬいた姿で固まるユキオがそこにあった。

「……てめぇ」

そして…彼の怒りは…収まるどころでは無かった。

「そんな事言っといてその剣は何や?お前は誰や?」

「…え?」

「その剣は何や!?お前は誰や言うとんねん!?」

怯えているのか声が出て無いように見えるがユキオには最早それに気付いて気遣う事も…ひょっとしたらこの光景を生み出した最初の言葉を発した時に無くなったのかもしれない。

「わ…私は…女」

「違う!!!!!!」

それでもそう言う相手にそう叫ぶユキオの声は怒号だった。

「ひっ!」

「お前は女である前に冒険者で!命を殺す者やろが!?」

「……」

「戦いが始まったらなぁ!勝敗か生死だけが全てで!人と出会えば人を斬り!神と出会えば神を斬る!それが出来ないなら始まる前だろうと最中だろうと逃げる!どこまでも逃げる!その覚悟も度胸も無く襲い掛かっときながらこうなったら言うに事欠いて女に手を上げるだぁ!?よくまあ言えるぁ!?」

「……」

「…ユキオ」

肩を震わせるユキオにハクトは少し怯えて声を掛け、フランは好感とも不快とも取れない様子で視線を向けていた。

「…はぁ~…行こ?」

吐き出し終えたのかため息交じりの一息ついてハクト達に顔を向けてユキオはそう言った。

「は…はい」

「良いの?」

「ええよ、この状況やと居辛さしか無いやろうし」

そこまで言うとユキオは受付に向かって。

「あの…」

「は…はい!」

さっきまでのキレ倒した相手が近づいてきて営業スマイルは残してるものの怯えが無いわけではない受付にユキオは…

「…すいませんでした」

「…は?」

「弁償とかあったりしますかねえ?」

さっきの今で別人のように下手に出まくってるとさえ思える態度で伺うユキオに拍子抜けする受付が居た。

「え~と…請求するような事は無いと思います」

「そうですか、良かったです。ではこれで」

「…はい」


 かくして嵐のような事がこの町のギルドで過ぎた。

ギルドを出て行くユキオ達とすれ違う形でギルドに入る存在が居た事にユキオは気付く事は無く、それが室内の光景とその理由を聞いた時に興味を向けるが如くその背中の先だろう方に視線を向けた事に気付く事は無かった。


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