第六章「決闘と血闘と」最終話(第一部最終話)
「ユキオ…」
二人と一頭が駆け抜ける光景を遠くで見ている神きゅん…その姿は前に見せた「本当の姿」だった。
「神きゅんねえ…」
それを見てからかう様に言うのは光の薬神だった。
「あなたって昔からそうよね」
「何が?」
「私達の頂点に居る存在なのに威厳が無いというか砕け過ぎてるというか…」
「それは…だって…それしか私には無いから」
どっちが偉いんだかと言わんばかりの姿がここにあって傍目には「世話焼きな幼馴染の小言にしおらしくなってる子」という光景がそこにあった。
「それだけでも十分なのに、って言うかそれがあるから私達も神で居られるんだけど?」
「そう言われても…」
今更だが…この神、「神としての自覚」と言う物が薄く加えて「光の神を統べる最高神」という自覚は更に薄かったりする。
それは一重に「光の神としての力は一番強いがそれだけで他は何もない」と思っているからに他ならなかった…言い換えるなら…
『「神の力」という基本は最強だが「応用が全くできない」』のである。
今回薬神が手助けした事で事なきを得たがもしそれが無かったら彼女は何も出来ずにうな垂れるだけだったかもしれない…本来の力と姿をもってしてもである。
「…あの子の事が気になるならもう少しは…ね?私だっていつもそばにいるわけじゃ無いのよ?こんな状況なら尚の事」
「…うん」
実際、正確にはユキオが初めてやってきた空間こそが「神の住まう世界」であり今彼女達がいる場所と同じなのだが、今この空間には神きゅんしかいない。だからと言って他の神々が居ない、あるいは消えたという事は無い事は今回の事で確認できたが皆一様に「この状況を憂いて行動している」という意味では同じな中で一人また一人とこの空間から離れ遠くの地にある空間に移動したり、正体を偽って舞い降りる者も少なからずおり…そして、その中で独自に「転生者召喚」を行う者も居て、今回はユキオだったという話である。
「…闇の聖域が沈黙、ううん闇の神が意識を失って眠ったままになったって聞いた時は驚いたけどこの状況になっても戻りそうにないなら私達が出来る事はもっと限られてくるかもしれない、それでもって気持ちはあるんでしょ?」
「それは…だからユキオを…」
「それが「献血させる為」に?」
「…うん」
責めてるつもりは無くてもどう見ても「責める側と責められる側の構図」に見えてしまう現状に自覚しているのか薬神はやれやれと言う感じで溜息をつく。
「…まあそのやり方が間違ってる訳じゃ無いわ。原因が解らない上に解決する力も無くなってしまった。何より…」
「…私達が直接あっちに向かう事自体に問題もある事は知ってるよ?」
「それは皆解ってる。だからそれぞれでどうにかしようって動いてるんじゃない」
『光の神が闇の聖域に侵入する』事は緊急時にはやむ負えない事と認識はしても「基本相互不可侵」を決まりとしている間柄にとっては気持ちの良い事では無い。実の所「それを犯したが為の聖魔戦争」と呼べる神話も少なからずあった。そんな神話の時代を抜けていく中で妥協策を見出した結果が今の世界の姿なのだから。
「こっちはこっちで、皆は皆で何とかするからあなたはあなたで決めたのなら…ね?」
「…うん」
「じゃ!私は「あの子」の様子を確認してくるから…これを機に頑張ってみたら?」
「…わかったよ」
叱咤激励のつもりであれこれ言って薬神は遠くに消えていった。
「……」
そして再びその空間には神きゅんだけが残り、その視線にはユキオ達の姿があった。
「…私は」
(泣くのは俺だけでええから!神きゅんは泣くな!)
『自分には力しかない』とうなだれて、その力さえも今は…そうやってどうしても始まってしまうスパイラルの中でユキオの声が頭の中で響いた気がした。
「……」
これから先どれだけユキオは悲しむのだろう?苦しむのだろう?でも自分にできる事はユキオを信じて頼る事だけ…頼りの力も分け与えた自分に残された物は…
「……っ!」
(私が先に落ち込んじゃ駄目!私が決めた事だから!)
響いた言葉が追い風になったのかいつもなら収まるまで心の中を蹂躙し続けるが如く続くスパイラルが今回はあっけなく終わった。
「ユキオ…私は…信じるからね?」
その目には…ユキオも知らない、ひょっとしたらさっきの薬神も他の神も知らない光と力が宿ったように見えた。
かくして改めて始まりを迎えようとした物語…
「献血士」ユキオ・モチヅキ
「聖獣」ハクト
そして…
「剣士」フラン・ジューン
三人の物語は…まだ序章を越えたばかりに過ぎない事に三人が気付いたとしても駆け抜けると決めた者達の視線の先にはまだ見ぬ光と未来だけが映るばかりだった。
第一部「献血士、起つ!」完
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