第六章「決闘と血闘と」第八話
「ユキオ!」
「頭…」
「そろそろ出かけるのかい?」
「まあ、準備はもう少しで終わりそうやし…」
「そう…じゃあ、もう一人分の用意が終わるまで待ってくれないか?」
「もう一人?」
「…アタシもついていくよ」
近付いてきて頭が話した内容の答えを示すようにフランがそう言ってきた。
「え?…でも」
「私のせいで動けなくなってしまってたからねえこんな事でも無いと…」
二人の間で答えは決まっていたらしくそう言う頭に目を向けて頷くフランが居た。
「道案内は必要だろ?」
「まあそりゃあ…」
「アタシの故郷がその地方にあるって言ったら?」
「え…」
「それにこの先何が待ってるかもわからないなら仲間は多い方が良いと思わない?」
「そりゃあまあ…ええの?」
「うん!それに…」
そこまで言って視線を頭に向けるフラン、バトンが渡されたと思ったのか…
「…これを機に解散しようと思ったんだよ」
頭はそう言って、その頃には他の皆も集まっていてその気持ちに間違いが無い事が全員の反応から見て取れた。
「解散…じゃあその先は…」
「まあ近くの村で改めてギルド登録してその後は…それぞれが決める事さ」
「…そっか」
「で?どうするんだい?」
「……時間はかかりそう?」
「アタシの用意だけならそんなにかからないけど何かあるの?」
「ん~時間があるなら念の為に…」
そう言ってユキオは頭以外の皆を近づけて一人一人額と手首に手を当てる。そこから流れる感覚に誰も驚いたが痛い事でも苦しい事でも無い事だったので驚くだけで終わった。
その後にフランがやって来て同じような事をして終わると…
「何をしたんだい?」
頭が問いかけて来た。
「免疫…言うて解る?」
「免疫?」
「まあ早い話が頭がかかった病気に対する予防や治療する為の力を体に流し込む事で一定期間その病気に対して最低でもかかりにくくなるようにする事や」
「それが私に対してした事かい?」
「全く同じや無いよ?そんなことしたらもう一日休まんといかんし」
「そっか…で、どれ位持つんだい?」
「記憶違いで無ければ十年やね…ただちゃんとした方法や無いからそこまで持つか解らんけど」
実際は「ワクチン接種」による方法な上にそれ以外の方法、例えば今回の様に「実際に発症したが回復した」では免疫を獲得する事は出来ないとされている。
ユキオが今回した事はいわば「神の力を借りたチート」でしかないのだがそれが完全でないのなら?という不安はどうしても消える事は無かった、少なくともユキオの中では。
「そんなに持つなら十分さ。その頃にはお互い何処に居るかもわからなくなってるかもしれないからね」
「…そっか」
そんな会話も終わりいよいよ出発の時。
「馬はあるのかい?」
という頭の問いかけにユキオは…
「ハクトと相談して…」
そこまで言うと答えと言わんばかりにハクトが白馬の姿になった。
「…そう言う事。でも鞍も手綱もないけどどうするんだい?」
「それは…」
当然の疑問ではあったが仮にあったとしてもつける事に気が引けていたユキオは…
「…よっと!」
今までの中で使い慣れたのか棒を使って高く飛んでハクトの背中に抱き着く形で落ちる。
「そのまましがみついてかい?」
「そのつもりやけどそれやと…」
そう、ユキオとハクトの二人だけならこれでも問題無いかもしれない。だがフランはどうしよう?という問いかけに答える事が出来ないでいたユキオに…
「大丈夫ですよ」
ハクトがそう言うと聖獣としての力を使ってなのか鞍と手綱の所が光ったと思うとそこにはその姿にふさわしいデザインの鞍と手綱が出来ていた。
「フランはこっちに乗って?」
「いいの」
「はい」
鞍の位置はユキオのせいなのか気持ち後だが問題無いようでフランは慣れた手つきでハクトに乗った。
『鞍の上にフランが座って手綱を握り、その前でユキオが前傾姿勢でハクトの首にしがみつく構図』がそこにあった。
「ユキオは良いのですか?」
「俺はええよ、馬の乗り方もよう解らんし」
「落ちない様に気を付ける事は出来ますし何でしたらそうならない様にも出来ますけど?」
「そこまでやって余計に疲れるなら話は別やろ?その時は改めて覚える様にするよ」
「…そうですか」
お互いそれで納得したのかそれ以上の会話は無くユキオは頭に向き直った。
「じゃあこの辺で」
「ああ、フランも今までありがとうね」
「ううん、アタシが決めた事だから…じゃあ」
「ああ!」
それが最後の挨拶と二人を乗せてハクトは走り出していった。
「…さて」
それが遠くに消えていくのを確認して頭は皆に向き直って…
「じゃあ、終わらせていこうか!」
その一声に全員が頷き、アジトだった場所を解体しつつトレロ村への連絡とギルド登録を同時並行的に済ませ、それが終わる事にはアジトだった場所には何もなくなり、そこにあった物は換金できる物は換金してそれぞれの当座の路銀とした。
こうして彼女達の集団としての活動は終了を迎え、しばらくは同じ村に居続ける事にはなったが一人また一人と次第に別の村や町に旅立つようになり、残ると決めた者以外そこに残る者は無くなっていった。
続
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