第六章「決闘と血闘と」第七話
正体を皆に見せた日の夜、ハクトはあの時の様に月明りの下に一人立っていた。
ユキオは寝ている、ここに居るのは一人だけ…なのだが…
「……」
その姿は別の姿になっていた。ユキオの側に居る時の姿をベースに身長は170㎝弱位まで縮まっただろうか?だがそれ以上に感じるのは「神々しさ」だったそして「畏敬」いや「畏怖」の方が強く感じさせるくらいの美しさを持った「世に名だたる傾国傾城と同等以上の美貌と魅力を持った美女」の姿だった。
そして『それこそがハクトが人間の姿になった時の本当の姿』だという事をユキオは知らない、いや、知っていても神きゅん(も姿が変っているのだが)位だろう。
「…あれ?」
そんな中の一人に新しい人が加わる時が今回だった。
「……」
声を聞いてハクトは振り返るとそこに居るのはフランだった。
フランは相手を見て一瞬混乱していた。
「敵意」は無い「戦慄」も無い、だが「動揺」がどうしても止まらなくなってそれは一瞬のことではあったがもしこれが戦いの中だったら「間違いない隙を晒す」程ではあった。
「……ハクト?」
それでも持ち直したフランはその空気からそう感じて声を掛けた。
「…はい」
「へ…へえ~」
動揺はまだ残っていたが相手がそうだと知ると一気に収まってフランは近づいた。
「…その姿は?」
「これは…」
「ユキオと一緒に居る時と全然違うけど、これも変身?」
「そうじゃないんです」
「そうじゃない?」
「はい…あなたには言っても良いかもしれないですね」
「アタシなら?」
「ええ…頭にも」
「そうね…でもアタシは気付かなかったよ?それでも?」
「それは初めて出会ったからと言うのもあるからでしょうね」
「そうれもそうか、聖獣なんて死ぬまでに一度会えるかどうかだもんね」
「そうですね…答えを先に言うとこの姿が本当の姿なんです」
「え…でもユキオの近くだと…」
「どういう訳かこの姿になれないんです。それは神も…」
「神?…ユキオって神にあった事あるの?」
いきなり飛躍した話と思ったがこんな状況ならそれもと思って冷静さを維持して話を続けようとするフラン。
「ユキオは神に連れてこられて使命を果たす為に旅を…」
「その目的地がって事?」
「はい…でもその神もまた…同じ姿では無いですけど…」
「……「美女の様な姿の男」になってる事?」
初めて会った時からそう言う感想はあった。自分が美女だという自負が無いわけでは無いしそれを使ってどうこうというつもりもなかったが「自分よりも全然美女」と言う身も蓋も無い感想が浮かぶほどだったので「瞬殺!おしまい!次!」という言葉と切り替えがその時にあった。神もそうなのだろう、でも不思議な力を持っているとしても「ただの人」を前にして姿を維持できない。しかも「力を与える側」がという事に。
「そうなんですか?自分の姿を見る事は。特にこの姿になる事は無いと思っていましたから」
白馬の姿なら川や湖に映る自分の姿を全身では無いとしても何回も見ていただろう、だが人の姿になった自分を見る事はハクトにとっては旅を始めて初めて村の中や宿の中にあるガラスや鏡に映るのを見て初めて知って。それがそれほどの物だという事に美意識の違いもあるのかもしれないが気付かなかった。
女性達に囲まれて迫られて恐怖さえ感じたあの時、その理由が解らなかったがその理由がそれだと今更気づくハクトがそこに居た。
「私から見たらそう見えるよ?そのせいで困った事あったんじゃない?」
「…ありましたね。フランは…」
「あったね。あいつらの話もそう…」
そこまで言って不満そうに溜息をついた。
「『剣士としての私』として誰も見なくてさ。「相手しろ!」って言ったら「(夜の)相手しろ!」って勘違いする奴ばっかりでさ。本当に嫌だったよ、まあそんな奴は潰してきたけどね」
「潰す…」
『潰す』と言った時に殺意と言える物を感じたハクト、よっぽど嫌だったのだろうなと感じると共にあの時自分を助けようとしたユキオから感じた物と同じ物を感じて…
「…あの」
「何?」
ふと浮かんだ言葉をポツリ呟く…「私達は同じような…」と。
「…そうね」
それを聞いてそうだと示すように笑顔でそう答えるフランがそこに居た。
「その時ユキオは?」
「あの時は…女性の手を叩く様に振り払って私の手を掴んでそこから出て行こうとして…声を上げる人達にユキオは向き直って大声で怒鳴って…そこで終わらなかったら…」
「ふ~ん」
「…フランは」
「同じような事だけどそれだけじゃ終わらなかったね。終わらなかったら殴るとかでしょ?」
「…ええ」
「アタシは戦って倒して…それでも終わらない時は…ね」
「……」
「ハクトはそうはしなかったの?」
「…出来ませんでした」
「それなりに戦えるみたいだけど?」
「力はあっても気持ちがその…」
「…それはこれから、かな?」
「…ですね」
月下での会話、あの時はユキオとハクトだったが今回はハクトとフランだった。
立場も性別も存在も違うがそこにあったのは「後輩を気遣う先輩」というか「妹を心配する姉」の様でもあった。
そして思うフランは思う…「この姿をユキオが見る事はあるのだろうか?その時は何時でその時あいつは…」と。
自分達と出会った時から今まで「女性が苦手」の様には見えなかった、「同性愛者」かと言えばそうでもなさそうに見えた。だがその時から感じていたのは「何か抜け落ちた感覚」だったのだがその時はそれが何かに気付く事は無かった。
ハクトはそれを知って悲しくなったあの時の事を改めて思いだしていた。
(もっと強くならないといけない、ついていくなら)
フランとの会話の中で改めて気持ちを改めてそう思うハクトがそこに居て。
会話が終わるとそれぞれの寝床に戻っていった。
翌朝…改めて次の町への準備を始めるユキオとハクト…そこに近づいてきたのは頭とフランだった。
続
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