第六章「決闘と血闘と」第四話

『破傷風』…

主に土壌に常在菌として存在し擦り傷等の傷口に付着した所から感染、体内に侵入後神経毒を全身に流し、全身の痺れ、言語障害から強度になると全身が弓なりに反る程の痙攣でそれによる背骨の損傷から死亡する事もあると言われる。

 現在では先進国の様な衛生管理内での土壌には少なく、ワクチン接種や抗生物質等の投与、医療環境の進歩によってこれによる死亡例は少ないとされているが致死性は変わら無いと言われる。

 尚、「三国志演義」おいて豪傑「張飛」の息子「張苞」が若くして亡くなるのだがその死因が「破傷風」と言う事になっているがこれは演義での設定であり正史においては張飛よりも先に亡くなっているとだけ記されているという。


「……」

それを確認してユキオは息を飲み、そして戸惑いが全身に広がるのを感じた。

「ユキオ?」

それに気付いてハクトが声を掛けて来た。

「…ハクト。症状だけでも抑える事は出来る?」

「出来るけど治せないなら…」

ユキオの言葉で察したのかハクトはそう言いながらユキオの感じている事が伝染する様に気落ちする。

「…どうしたの?」

そんな二人にフランが声をかける。彼女、いや彼女達にとっては何回も見て来た反応だったので悲しい話だが慣れていた事だった。

「…やっぱり治せない?」

そうなら答えを早く知って終わらせたいと思ったのか結論を先にぶつける事にしたフランにユキオは…

「…解らんとしか」

どっちともとれる答えをした。

「解らないって、治せるかもしれないって事?」

「…説明を聞いても解らんかもしれんが…」

そう言ってユキオは解る範囲で「破傷風」の事を説明した。その中で彼女がこうなってしまったきっかけと言える怪我の事に思い当たる事があったのか全員がはっとする場面があったが果たして説明のどれだけを理解したのかは分からないがはっきりしたのは二つ…

『この世界に現状治せる薬は無いだろう』

そして

『ユキオが出来る方法で治せれば良いがそうじゃない時はユキオが感染して同じ症状に』

と言う事だった。

 ユキオ自身ワクチン接種をしたという記憶が無い。物心つく前にしたのかもしれないしその後にした事を忘れているだけかもしれないがユキオにとっては危険だけがそこにあった。


「…ユキオ」

そんな光景を遠くから見ていた神きゅんの姿があった。

直接行ってどうにかする事は出来ない。その為の力もあの時に与えた分で無くなったような物で出来る事は念を飛ばしてテレパシーで会話できる程度だけになった現状。神きゅん自体その病気の事を知らなかった事もありどうしていいか解らない中で何も出来ない無力感に悲しそうな顔をしていた。

 今ここで「見捨てる」という選択肢をしてもユキオが責められる事は無いだろう、しかしそんな選択肢をしないだろうと思えるから尚の事どうにもできない…「神なのにどうにもできない」という現実にユキオ達とは別の意味で打ちのめされる自分に圧し潰されそうになる……そんな時だった。


「そんなにその子が大切なの?」

神きゅんに対してだろうか?どこからか声が、少女の声が聞こえて声のする方に目を向けると「神々しい少女」がそこに居た。

「……」

問いかけて来た相手に顔を向けてその問いかけの答えの様に涙を溜め始める神きゅんがそこに居た。

「…私達の頂点の神がそんな姿で落ち込んでいたらよくないわよ?」

少女は近づきながら神きゅんにそう言う。

「…でも、そう言う事なら分からない訳でも無いわ」

近付いて神きゅんが覗き込んだ先、その先の状況から察して「やれやれ」と言った様子で軽く一息つく。

「治せるの?」

神きゅんにとっては縋る気持ちがその言葉からも察する事が出来た、それを前に少女は…

「解らないわ……前ならね」

そう言った。それはそのまま彼女に起きた出来事からの事だという事に神きゅんは気付く事は無かったが、少女が神きゅんの手を取るとそこから光が伝わっていった。

「……これは」

その光りが神きゅんの全身を包むと同時に頭の中に流れてくるものを感じて驚く。それは「間違いなく自分の知らない知識」だという事に。

「びっくりしたでしょ?私もそうだったもん」

光が収まった後苦笑いと言える顔をしながら少女はそう言った。

「…この世界の…「光の薬神」と言えるこの私も知らない事なんだから」


 そう、改めて紹介しよう。少女の正体は「光の薬神」…

『この世界の病気や薬の全てを知り対処できる者』である。

そんな彼女をして知らなかったという事は…

「ひょっとして…」

「そう…他の皆もひょっとしたらね…」

神きゅんは気付き、問いかけの答えはそれが正解だと示す物だった。


『今この世界に…ユキオ以外の転生者がいる』と言う事に。


「本当ならそこにその子がいたらと思うけど遠すぎてね」

「……」

実際そうだったのだろう。その転生者はきっと「破傷風の治療」の為の薬剤等を生成して治療するだろうと。

しかしその場所はユキオ達の居る場所から遠く遠く…場所を聞いても解らない位に遠くに居るのだから。

「その代わりに私の新しい知識を分けてあげるわ。あとは…」

「…うん」

それを噛みしめて神きゅんは念をユキオに飛ばした。


(ユキオ!)

(神きゅん?)

(その病気は「破傷風」だよね?)

(知ってんの?)

(うん、今知ったばかりだけどね…それで出来る事が増えたよ!)

(え?)

(「ボクがその病気を知った」事でユキオの中の血液にも変化が生まれるはずだよ。それを使えばその病気は治せるかもしれない)

(え…それって…)

(そう!「ボクの知識」がそのまま「免疫」や「ワクチン」となってユキオの中で流れるって事。後は…解るよね?)

(…わかった)

(でもそれ以上はユキオの今の力にかかってるから…)

そこで神きゅんの声のトーンが下がる。そう「それでもここまでしか出来ない」のである、それも「自分の力では無く借り物でしかない力」と言う事に。

(…ありがとう)

(え?)

それを察してなのかユキオは一言そう言い、そして…

(後は俺の問題なんやろ?それだけで十分やから)

励ます意味で強くそう言った。

(ユキオ…)

(泣くのは俺だけでええから!神きゅんは泣くな!)

(っ!……うん!)

それが最後の言葉なのかそこで声が聞こえなくなった。

「…ユキオ?」

一瞬ユキオが硬直した事、その理由を察して騒ぐフラン達を抑えながらも心配していたハクト、その目の前でその硬直が止むのを確認して声をかけるとそれに対してユキオは笑顔でこう言った。

「…治せる…いや、治す!」と。


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