第六章「決闘と血闘と」第二話

 突然始まった決闘が終わり、その後騒動があったのかと言うとそう言う事は無く。

しかし一つ言える事はユキオ達は迂回する事になった、その行く先は…彼女達のアジトだった。

「代わりがいるなら用意しようか?」

そう言ったのは決闘を吹っ掛けた相手の女性だった。

村に帰って新しい物に買い替える事も出来るが相手の提案と周りが囲いを解こうとしなかった事から「受けるしかなさそう」と思ったユキオは従う事にした。

「…そう言えばさ」

「何です?」

その途中で女性が声を掛けて来た。

「何で棒なの?槍でもいいと思うけど」

至極当たり前と言える疑問だった。確かにそうだろう、「長柄武器」となれば普通考えるのは「槍」あるなら「鉾」お金に余裕があるなら「ハルバート」辺りを選ぶだろう。

しかしユキオが選んだのは棒…それも「刃の付いていないユキオの身長と同じ位の長さの樫の棒」である。

武器として使うなら心もとなさしかないだろう。RPGなら「最弱かその次程度の武器」でしかないのだから。

彼女自身もその認識で居たのだった…ユキオを見つけるまでは。

あの時の一瞬、そして今向き合って戦う事でその認識は完全に無くなっていた。今回の決闘に「敗因」と呼べる物があるとするなら「認識違いと言う回避不能の弱点を晒し続けた事」だろうと彼女の中で結論付けていた。

その上で今片方が斜めに切れた樫の棒を手に同行する相手により興味が湧いて声をかけた。

「ん~…」

「別に大きな事を聞きたいんじゃないよ。何でって事だけだから」

「一言で言えば『動きが縛られるから』やなと」

「動きが縛られる?」

「うん、どんな姿で何処の刃物があってと決まった物だとどうしても動きがそっちに引っ張られて動きが制限されるなって」

「……」

 その答えが間違いない事は戦う中でその身に感じ続けた。

『目測と認識の齟齬、錯誤』

相手と自分の経験と実力差である程度埋める事は出来ていたがもう少し実力が近ければ振り回されていただろう事を感じ続けたのだから。

 一方でユキオはその実力差を一撃一撃に感じていた。

『弾いたり受け止めたりする度に逆に弾かれる』

という感覚があり続けていたのだから。

もし言われた通りの武器…槍でも剣でも何でも良い「もっと普通のよくある武器」で戦っていたら何も出来ずに負けた、いや死んでいただろうと。

「でもそんな武器で相手と戦っても倒す事は出来ても…」

「…まあ殺せませんよね。撲殺できる相手は限られるやろうし」

「そうと解っているなら何で…」

「ん~…」

そこでユキオは改めて言葉を選ぶような仕草をした。そんな時に

「…その腰にあるのを使う事も無かったけど何で?」

改めて両腰に備えてる「短剣位の何か二本」に気付く。既に気付いていたのかもしれないが目に留まる事は無かっただけかもしれない、あの時に使っていたら話は別だろうが。

「これは…「鎧通し」って言って解ります?」

「よろいどおし?聞いた事無いけど短剣の一つ?」

「まあそんな所や」

そう言いながらユキオは片方を抜いて見せる。短剣の持ち手の先には槍の先の様な刃がついている、剣と言うよりは槍である。

「…それで突き刺して、と言うよりそれを棒の先につけたりしないの?」

「それは作ってもらった相手にも言われたけどそれをしてもし棒ごと弾かれるんも考えんとあかんし」

「どこまでも棒で良いって事?」

「そう言う事」

そう言うユキオがあの時相手の剣を奪った後躊躇いも無く突き立てた人と同じだとは思えない彼女がいた、だが同時に薄ら寒い物を感じても居た。

決闘の時の最後の一撃の時のユキオが頭をよぎる、そしてあの時の姿…その中で一つの答えが浮かび上がる…


『相手を殺す事に躊躇いが無い』という答えだった。


そしてそれが間違いない事も…


 そんな会話をある程度しながらアジトへ、ハクトの方は他の女性達に囲まれて…とは言ってもその様子は「逃げられない様に包囲」という構図に近い物だった。

それに内心安心しているハクトがそこに居た事を誰も知る事は無かった。


 アジトに到着して…大きくて長めの木の杭を縦に突き刺して横に並べて周りを囲みその中には簡素な小屋が数個、そんな本当に簡素なアジトに到着して改めて解放するように全員が距離を置く中で彼女が武器庫だろう所に向かうと二本の棒を持ってきた。

「どっちにする?」

一方は自分が今持ってるのと同じ樫の棒、もう一つはそれよりも強度は間違いなく上だろう鉄の棒だった。

「…試し振りしても」

「いいよ♪」

ユキオの提案を快諾する彼女がそこに居た、改めてもっとしっかりとその動きや戦い方を見たかったからと言う理由から来る嬉しさだった。

トレロ村の武具店での試し振りの再開と言わんばかりに一通り振ってみる、やっぱり鉄の棒は見た目は同じでもずっしり来る重さは違ってその分一挙一動に「振り回される感」が付き纏うように感じた。

「へ~…」

その動きを見て改めて自分の認識が間違っている事を教えられている様に感じる彼女がそこに居た。「武器としては貧弱」だ、しかし「戦闘方法としては完成している」様に思えたからだった。

「…やっぱり樫の方で」

一通り振り終えてユキオは今の自分では鉄の棒は扱いきれないだろうと思ってそう言い、樫の棒を交換した。

「重たくて扱えないとか?」

「まあそうやね…えっと…」

ここまで来て改めて相手の名前を知らない上に自分も名乗っていない事に気付く、まあ当然と言えば当然だろうあの時殺す相手に名前を名乗る必要はないかもしれないし殺されるとしても同じだろう。それは彼女も同じで同じ事に気付いたのか…

「…フラン」

「え?」

「『フラン・ジューン』…それがアタシの名前。君は?」

「…ユキオ・モチヅキ。こっちはハクトや」

「そう、いきなりでごめんね。でもありがとうね、ユキオ」

「こっちこそ武器の新調ありがとうな…フランさん」

「呼び捨てで良いよ!命のやり取りをした相手同士そんなにかしこまらなくても」

「…それでええなら」


 こうして突然の決闘から始まった出来事は一先ずの収束を向かえ、結局ユキオ達は彼女達のアジトで一夜を過ごす事になった。


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